「なぁ、アスラン。私は……宇宙に来てから、何か間違ってなかっただろうか……?」
部屋が静寂に包まれる。カガリは構わず話を続けた。
「父にいろんなものを託されて、宇宙に来た。私はずっと最善の選択をしてきたと、思っていた。
でも果たして──本当にそうなのか?」
「カガリ……」
「国をうしない、戻る場所がない者達を、さらに戦わせて……無駄に死なせていったんじゃないのか?」
あたたかな手が、自分の濡れた手に重ねられたが、カガリは話す事を止めなかった。
「私を恨んでくれていい、と思うけど──そうしたくてももう出来ないんだ。そいつらは。
ココロもカラダも……もう、この世にはないから──!」
手から不意にあたたかさが消えた瞬間、今度はカガリの視界が暗転し、全身がぬくもりに包まれる。
「俺はカガリに導かれてここまで来たけど、ちっとも恨んだりしていない」
耳からだけではなく、触れあった身体からアスランの声を聞き取る。
その言葉にカガリは大きく反応した。
「お前だって……!逝こうとしたじゃないか……!」
そう叫びながら、大きくてかたい背中をどんどん叩く。
すると、やんわり包まれていた身体は、きつく抱きしめられた。
「それを止めてくれたのはカガリだ。感謝こそすれ、恨んだりしていない」
もう何が何だかわからなかった。
カガリはぐいぐいとアスランの胸に顔を押し付け、声を殺してぼろぼろと涙を零した。
カガリの背にまわされたままじっとしていた腕が、ふ、と緩む。
やんわり肩を掴まれてほんの少し身体を引き離されたが、カガリは自分の泣き顔が露わになるのが嫌で、 唇をかみしめて俯いた。
が、肩にあったアスランの両手が、いつの間にかカガリの頬を包んでいた。
すんなり顔を上向かされたカガリは、潤んだ瞳でアスランの滲んだ顔を見た。
ぼやっとしていてよく見えないのは、涙のせいだけではなかった。
目尻にひとつ、ふたつ。
軽く触れては離れていく、くちびる。
カガリは自分の身に何が起こっているのか理解していなかった。
その優しく触れる感触ごとに、カガリは小さくふるえた。
それは瞳の周りに触れていくので、自然とカガリの瞳は閉じられる。
そうやって私の涙を──哀しみを奪ってくれる行為はくすぐったいが、とても心地が良かった。
ずっとアスランの行為に身を預けていたカガリだったが、
ふと、あたたかい、やわらかな感触が別のところにもおとされたことに気付く。
額にひとつ、髪にひとつ。瞼にふれ鼻先にふれ、包み込んでいたてのひらをずらして頬にもふたつ、 みっつ。
それらは相変わらず心地よく、やはりくすぐったくて、でも何故くちびるがふれていくのか、 カガリにはよくわからなかった。
ぼんやりとした頭で考える。そういえば、出陣前にも──
そう思った瞬間、それはカガリのくちびるに触れ、すぐはなれた。
驚いて思わず見開いた瞳が、アスランの瞳を捉えた。
「えっ──っ」
徐々に瞼に隠されていく緑に、再びくちびるに訪れるやわらかな感触に、 カガリもつられる様に瞳を閉じた。
頭の中は細く長い糸がもつれた様にこんがらがっていた。
こ、これって……キス、だよな?正真正銘の……これが初めてじゃないけれど、 アスランはどういうつもりなんだろう……
ていうか、さっきまでのも全部……もしかして……キス、か、な?
何度も何度も触れては離れ、キスを繰り返されるが、
常にアスランの顔が間近にある事はわかっているので、カガリは瞳を開くことができなかった。
いつまでも続くと思われていた優しいキスが突然、
強く押し当てられると同時にくちびるを吸われる感触に、 カガリはびっくりして目を見開いた、
と同時に思いきり後ろへ押され、倒れる。
膝から上は完全にベッドに寝かされる状態になり、カガリのからだの上には大きな影が覆い被さっていた。
そしてやはり、くちびるには、くちびるが──