「誕生日おめでとう!アスラン」



十月二九日午前0時、何気なくつけていたテレビの時報と同時に、 ロックしていたはずの扉が開き大声で叫ばれた。

シャワーを浴びた後ぼんやりそれを観ていた俺は呆然と口を開き、その声の主を見た。

「……カガリ……」

邪魔だとばかりにテレビから流れてくるおとなしめの男の声を遮断し、 嬉しげに駆け寄ってくるカガリに釘付けになる。

ソファに凭れていた体を起こすと、カガリは俺の目前まで迫っていた。

彼女は満面の笑みで後ろ手を組み、もう一度同じセリフを繰り返した。

「誕生日おめでとう、アスラン!」

「……俺の誕生日、知っていたのか……?」



俺は彼女に自分の誕生日を教えた記憶はなかった。

そしてカガリの周囲で俺の誕生日を知っている人間など片手でも余るほどしかいない筈で。

「ああ。以前キラに……あ、ラクスからも聞いたかな。とにかくおめでとう!

誰よりも早く“おめでとう”を言いたくて…うわっ!」

長くなりそうなカガリの言葉を遮って、俺は彼女を自分の腕の中へと引き寄せた。

そのままギュッときつく抱きしめる。

「ちょっ…アスラン!いきなり、んっ……ふ」

突然の俺の行動にカガリは顔をあげ抗議の声をあげるが、それは強引に唇で奪う。

やわらかな唇を吸い上げ、舌を這わせて差し入れ,彼女のそれと絡めて甘い感触を味わう。

仄かに彼女からも石鹸の匂いがした。

「んんっ!っ……はっ、待てって!話はまだ……ったっ!」

何とか俺の追撃から逃れ、

唇をはなして話を続けようとするカガリをそのままソファに押し倒し、

俺はその上からのしかかるようにキスを繰り返す。

少し湿った彼女の髪をくしゃくしゃにして、彼女の衣服もくしゃくしゃにして──

「ふっ、あ……んっ、コラッ!プレゼント、いらない、のかっ!?」

いやいやするように首を振り再び俺の唇を振り切ったカガリは、息も絶え絶えに抗議してきた。

「プレゼントはカガリだろう?」

じゃまくさそうに呟いて俺はカガリとのキスを続けようと顔を寄せていく。

が、俺の胸を押していたカガリの手が移動して顔の下半分にぴたっとはりついてきた。

「違うって!」

唇に触れている、カガリの唇とはまた違った柔らかさに少しイラつきながら、 俺は舌を出して細い指の腹を舐める。

「ぅわっ!」

カガリは慌てて手を引っ込めた。

その瞬間を見逃さずに俺はその両手首を掴んでソファに押さえつけた。

カガリは悔しそうに唇を歪め、ギロッと俺を睨みつけてきた。

だがそんな真っ赤な顔のまま、潤んだ瞳で睨まれてもちっとも迫力がない。寧ろ余計そそられる。

しかしカガリの格好ときたら。

いつも部屋で寛いでいる時の──赤いTシャツとカーゴパンツという、 まあ何とも色気のないものではあるのだが、

俺が思うがままに触れていたせいで、シャツの裾は胸の辺りまで捲れ上がっていた。

しかもやはり──ノーブラ。

「俺はカガリだけで充分」

『もう黙れ』と視線に強い意志を乗せて、俺はカガリの唇に噛み付くようにキスした。

再び舌を差し入れて、口内を蹂躙していくと、漸く抵抗を見せていたカガリの手から力が抜けていく。

それに満足して俺もカガリの手首から手を離し、シャツの中へ、ウエストへ手を伸ばし──

「うっん……ふ……っぁ、ち、ちょっ!」

もう何度目だか数えるのもうんざりだが、カガリはまた俺の唇から逃げ出し、今度は涙目で見上げてきた。

「……何」

返事をするのも面倒だったが、ため息混じりに見つめ返すと、 カガリはほんの少し俺から目をそらしてポツリと呟いた。

「……ここで、する、のか……?」



  あ……



  そこで初めて俺はここがソファである事に気付いた。

確かにすぐ側にベッドがあるのに、わざわざここである必要はない。

俺は安心させるように優しく微笑むと、身体を起こしカガリを抱き上げた。

妙に縮こまるカガリに顔を近付け、もう一度微笑んで俺はカガリの耳元に唇を寄せた。

「──いただきます」