誕生日前日――――パーティの準備は大詰めを迎えていた。
当の本人であるカガリの準備はほぼ整っていたらしく、
いつもより余裕のある一日を過ごしているように見えた。
この日はアスランも一日中カガリの側についていた。
明日はほとんど離れ離れでいるのだから、今日くらいは一緒にいたいという願いが通じたのだろうか。
内閣府からの帰り道、エレカの運転席に座っていたアスランは、ふと思い至って表情を曇らせた。
しかしまてよ、と、バックミラー越しにカガリに問いかけた。
「そういえばカガリ……キラへのプレゼントは?」
アスランはカガリのプレゼントにかかりきりで、キラへのそれをすっかり忘れていた。
だが『お前はキラの誕生日を祝って来い』『私からのプレゼントを渡しに行ってくれ』
と言っていたくせに、カガリからまだキラへのプレゼントを受け取っていない事にアスランは気付いた。
ミラーに映るカガリの表情の変化を見て、アスランは解った。
これは――――
「わ……忘れてた……!」
真っ青な顔でカガリは小さく叫んだ。
勿論アスランはそんなカガリを責めようとは思っていない。
ここ数日、忙しそうにしているカガリを、アスランはずっと見ていたのだから。
青ざめたまま俯いてしまったカガリをちらりと見て、アスランは考え、躊躇いながらも口にした。
「――――今から、買いに行くか?」
目を見開いて顔を上げたカガリに、アスランは視線をミラーから前方に移した。
「疲れているのは分かっているけれど……もしカガリが平気なら」
「うん、行く!」
みるみるうちに笑顔を取り戻していくカガリに安堵しながら、
アスランは少しだけアクセルを踏む足に力を入れた。
「じゃあまずは屋敷に戻って食事して……マーナさんには」
「言わないでいいさ」
すっかりカガリは立ち直って、座席の間から身を乗り出してきた。
「こら、危ないからちゃんと席につけ」
ハンドルを握っていた手を片方放し、額に触れて押し戻すと、
カガリはくすくす笑いながら再びシートにもたれた。
確かにマーナに事情を説明しても、出してはもらえないだろう。
「わたくしが用意いたします!」と適当に見繕ってくれるかもしれない。
だがカガリがそれで満足するとは思えなかった。
「――――分かった。じゃあ、こっそり抜け出すか」
「……いいのか?」
まさかアスランがOKするとは思っていなかったのだろう。
カガリは驚いた表情でミラー越しにアスランを見つめてきた。
アスランもカガリと二人で過ごしたい。
明日ほとんど一緒にいられないのだから尚更だ。
だったら前日少しくらいハメを外してもいいじゃないか、そんな気分になっていた。
それに――――
「ああ。俺もまだキラへのプレゼントを用意していないから」
一瞬きょとんとした顔をした後、カガリは後部座席で子供のように笑い転げた。