第5話 愛がある限り戦いましょう〜ワンコの恐るべき正体〜


   青学戦の後、鳳は宍戸に優しく背中をさすられながら泣いてしまった。

   宍戸の中学時代の夏は、コレで終わってしまったのだ。

   鳳は、自分の事なら何でも耐えられる。

   でも、宍戸の悲しさや悔しさは、本人よりもこたえてしまうのだ。

   本当は、自分が宍戸を慰める役だと思うのに、涙はなかなか止まらなかった。

   「本当に、仕方ね〜なぁ 」

   困った顔をして、宍戸は鳳のこぼれる涙を拭ってくれた。

   「お前には来年もあるだろ? 俺たちの分まで頑張ってくれよ 」

   そんな宍戸の言葉に、鳳は心の中でこう返事をしていた。

   (宍戸さん。貴方がココにいなければ、仕方無いんです! )

   (俺は、貴方と一緒に戦いたいんです! )

   (貴方がいなければ、何の意味も無い! )

   宍戸にとって、一番大切なものはテニスなのだ。

   でも、鳳はテニスよりも、宍戸の方がずっと大切だった。

   自分の命よりもずっと大事に思っている。


                               


   レギュラー発表の後、準レギュラーの三人に呼び出しを受けた。

   鳳がリンチだとわかっていて、それでも出向いたのは、全て宍戸のためだった。

   前から、連中は宍戸に対して反抗的で邪魔ばかりするのだ。

   それが目にあまった鳳は、彼等に釘を刺すつもりだった。

   その日、忍足と榊監督の鍵の受け渡しも、忍足が跡部を放課後誘ったのも知っていた。

   鳳は、先輩達が目撃するのを予測して、三人をわざと挑発し、自分を殴らせたのだった。

   「お前らは、いつまでココにいてもレギュラーにはなれないさ。俺が邪魔してやるからな。

    まあ〜どちらにしても、お前らのテニスの腕じゃ、レギュラーなんて夢みたいなモンか?」

   そう言って笑ってやると、思い通りに殴ってきた。

   鳳は急所だけガードして、好きに殴らせてやった。

   後は、跡部達の助け船でリンチは終了したのだった。

   それから、鳳は三人に個別に会い、こんな約束をしたのだった。

   「暴力事件が表沙汰になれば退学だな。それが嫌なら部活を辞めろ。

    そうすれば俺も黙っていてやる」

   こういう連中は、集団になった時だけ元気なのだ。

   一人ずつ迫れば、鳳の敵どころか、相手にすらならない。

   実際に、鳳はその日の出来事を表沙汰にする気は無かった。

   そんな事をすれば、テニス部にも迷惑をかけてしまう。

   下手をすれば、大会への出場も停止になる恐れがある。

   宍戸が困るような事を、鳳がするわけがない。

   見かけ(?)より、跡部も忍足もずっと氷帝学園思いの良い先輩達だった。

   あの事件に関しては、黙っていてくれるだろう。

   そして、最高の証人達だった。

   鳳は、それでも三人が部活を辞めないのなら、腕の1〜2本折ってやるつもりだった。

   それこそ、二度とテニスの出来ない身体にしてやれば良い。

   方法なんて、いくらでもあるのだ。

   それだけの事を、鳳は考えていた。

   鳳が自分の所業について、後悔する事は無かった。

   でも、一生宍戸亮には知られたくは無い。

   (知られたら、絶対に宍戸さんは許してくれないだろう )

   (宍戸さんを失うくらいなら、死んだ方がマシだ )

   鳳長太郎は、いつもそんな事を思っている。


                                


   いつまでも泣きやまない鳳に、宍戸はこんな事を言って慰めた。

   「なあ、長太郎。俺は高校でもテニスをずっと続ける。

    チャンスはこの先も必ずある。だから、もう泣くな。

    俺は来年、お前の活躍する姿を楽しみにしているよ 」

   鳳はそれを聞くと、顔をあげ、宍戸にこう尋ねた。

   「宍戸さん、俺が来年、青学に勝ったら嬉しいですか? 」

   「ああ、当然だろ? 青学にも、立海大付属にも勝って欲しい。

    来年は優勝して全国に行ってくれ 」

    鳳はうなずくと、宍戸にやっと笑顔を見せた。

    その時、鳳の頭の中には、青学の越前、桃城、海堂。立海の切原など、

     来期の主力選手達の顔が思い浮かんでいた。

    (連中をどうやって潰そうか? )

    できれば、合法的に。

    誰にも知られずに、彼等を消し去ってしまう方法を考えよう。

    時間は、まだ一年もあるのだ。

    そんな事を思いつつ、いつものように穏やかに微笑みを浮かべる鳳長太郎だった。


                              


    こうして、鳳長太郎の一年がかりの作戦は、今から始まる。

    宍戸への愛ゆえに、彼の戦いは決して終わる事はない。

    宍戸亮の飼い犬は、猛犬どころか。

    地獄に住むケルベロスも真っ青の、《 魔犬 》なのだから。




                                    <第5話 了>
                          一応は、ハッピーエンドですか ? 


                        小説目次へ戻る