2ページ目/全5ページ 今でも、サンジはゾロに会うとその日の事を思い出す。 ゾロはもう忘れてしまったかもしれないけれど。 サンジは、ゾロが自分の手料理を食べているのを見ると、少し気恥ずかしいような嬉しいような、 何だかくすぐったい変な気持ちになるのだ。 他の人間にはそんな奇妙な気分にはならなかった。 (やっぱり、何事も初体験っつーのは影響がデカイって事かね) サンジは坂道の途中で、チョコチップ入りのクッキーをゾロが食べているのを眺めながら、そんな 事を思っていた。 夕方、サンジが学校から帰ってくると、ばったりゾロと道端で出くわしたのだ。 ゾロはこれから銭湯へ行くらしい。「じゃあ、一緒に行こう」なんて話になった。 <作者・注> ゾロは一度も「一緒に行こう」なんて言っていない。サンジは事実を自分勝手に ネジ曲げる特技があった。(〜ゾロ編参照〜) サンジは今でもパラティエの厨坊には入れない。 そのため、放課後、小学校の調理室で練習をしているのだ。 名目は<お料理クラブの部長>として、きちんと先生の許可も取っていた。 一週間に1〜2度はクラブの女の子達と料理を作っていた。 相手が女の子と言う事もあり、時間的な事情もあって、簡単な菓子を作る事が多い。 しかし、ゾロは甘いモノがあまり得意では無い。 そのため、他の子達に教えたクッキーよりも、やや甘味を押さえてサンジはいつも作っていた。 今日も苦味のあるチョコを加えて、うまく甘さをセーブできたと思う。かなりの自信作だった。 ゾロがガキの頃、サンジの失敗した不味いクッキーが食えた理由も、それだろうとサンジは睨んでいた。 今日も思惑通りに、ゾロに「美味い」と言わせたので、サンジはすこぶるご機嫌だった。 照れ隠しにゾロの尻を思い切り叩いて、坂道を駆け下りた。 夕日はもう住宅街の向う側に落ち、辺りも薄暗くなってきている。少し底冷えもしている。 それでも、サンジの心は春の太陽みたいにポカポカと暖かかった。 |
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