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  今でも、サンジはゾロに会うとその日の事を思い出す。

  ゾロはもう忘れてしまったかもしれないけれど。

  サンジは、ゾロが自分の手料理を食べているのを見ると、少し気恥ずかしいような嬉しいような、

  何だかくすぐったい変な気持ちになるのだ。 他の人間にはそんな奇妙な気分にはならなかった。

  (やっぱり、何事も初体験っつーのは影響がデカイって事かね)

  サンジは坂道の途中で、チョコチップ入りのクッキーをゾロが食べているのを眺めながら、そんな

  事を思っていた。

  夕方、サンジが学校から帰ってくると、ばったりゾロと道端で出くわしたのだ。

  ゾロはこれから銭湯へ行くらしい。「じゃあ、一緒に行こう」なんて話になった。

    <作者・注> ゾロは一度も「一緒に行こう」なんて言っていない。サンジは事実を自分勝手に

              ネジ曲げる特技があった。(〜ゾロ編参照〜)



  サンジは今でもパラティエの厨坊には入れない。

  そのため、放課後、小学校の調理室で練習をしているのだ。

  名目は<お料理クラブの部長>として、きちんと先生の許可も取っていた。

  一週間に1〜2度はクラブの女の子達と料理を作っていた。

  相手が女の子と言う事もあり、時間的な事情もあって、簡単な菓子を作る事が多い。

  しかし、ゾロは甘いモノがあまり得意では無い。

  そのため、他の子達に教えたクッキーよりも、やや甘味を押さえてサンジはいつも作っていた。

  今日も苦味のあるチョコを加えて、うまく甘さをセーブできたと思う。かなりの自信作だった。

  ゾロがガキの頃、サンジの失敗した不味いクッキーが食えた理由も、それだろうとサンジは睨んでいた。

  今日も思惑通りに、ゾロに「美味い」と言わせたので、サンジはすこぶるご機嫌だった。

  照れ隠しにゾロの尻を思い切り叩いて、坂道を駆け下りた。

  夕日はもう住宅街の向う側に落ち、辺りも薄暗くなってきている。少し底冷えもしている。

  それでも、サンジの心は春の太陽みたいにポカポカと暖かかった。



 
                                  
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