宍戸さんには、お金が無い!


    その8 〜監視カメラ〜 の巻


   俺は、鳳邸にある四階の自室のベッドの中にいた。

   パジャマ姿でごろごろと過ごしている。

   このパジャマも絹のようで、動くたびにサラサラと流れるような音がしていた。

    あの男・鳳長太郎の見立てなのか、やはりパジャマも真っ白だった。


   何故、白い衣服ばかり着せられるのか、俺には理解できなかった。

   もう、月曜日の朝十時頃だった。木漏れ日が、窓のカーテンの隙間から差し込んでいた。

   今日は良い天気らしい。

   俺は、テニス部の早朝練習のために、いつも朝五時には起床している。その俺が、今日は

    九時過ぎに起きたのだ。


   学校は当然、欠席した。今朝は起き上がれるような状態では、とても無かったからだ。

    今も身体の節々が痛む。良く見ると、身体中に擦り傷や、赤いアザのような物が出来ていた。



   昨夕、俺は鳳長太郎と寝たのだ。

   何度、思い描いても有り得ない事だった。

   しかし、俺の身体の奥では、その感覚がしっかりと残っている。

    腹部には今も鈍い痛みが続いているし、何より、まだアイツのモノが、奥深くまで入っている

    ような異様な感じが続いている。


   一体、あの男は何回くらい、俺を犯ったのだろう?

   目を閉じると、あの男の興奮したような息使いや、汗の匂いや、熱いモノが体奥へ

    流しこまれる時の感触まで蘇りそうになる。


   恐ろしいので、俺は何度も頭を振って思い出さないようにした。

   黒沼の話では、このように鳳が興奮して勃起した時に、それを静めるために、俺は

    働かないとならないと言う話だった。


   ご丁寧にも、昨晩、俺が浴室からこの部屋に運ばれてきた時に、黒沼は、そんな説明を

    駄目押しのように加えたのだ。


   俺が、肉体の苦痛と、精神的ショックのあまり青ざめて泣いている最中にだ。

   あんな嫌なジーさんに、泣いた顔を見られた事の方が、俺には犯られた時よりも

    ショックだった。



   どうも、鳳長太郎が、先日、初めて精通したらしい。

   俺が、昨日、この屋敷へ呼ばれたのはそのせいだと言う。

   子供だった小学生時代の鳳にとって、俺の役割はまだ不要だった。だから、俺だけが、

    鳳家と宍戸家の関係を知らされていなかった。


   ずっと隠していたらしい。知れば、俺が逃げるからだ。

   けれど、この先はずっと仕事があるのだと説明された。

   鳳長太郎の性衝動が枯れ果てるまで。

   俺は、一生、性欲処理の道具と言う事なんだろうか?

   鳳邸のトイレのような役割なんだろうか?


                              ☆


    今朝から、何度か渡された携帯電話が鳴っている。

   鳳長太郎が俺のために作ったと言う曲が、繰り返し鳴っていたので、かけてきたのは

    ヤツだろう。


   俺は、ベッドの枕の下に、その携帯を押し込み、音がなるべく聞こえないようにした。

    それから、五分くらい経過して、やっと気がついて電源をオフにした。


   そのまま携帯電話をシーツ上へ投げ捨て、俺はほっとしながらベッドから離れた。

   鳳も学校を欠席したらしい。

   何が言いたいのかは知らないが、俺はとてもアイツに会う気分にはなれない。

   そっと、寝室の窓に近寄って、カーテンを開くと外の景色を覗いた。

   俺の背丈の二倍はあるデカイ窓の外には、手すりのついたベランダがある。しかし、俺が窓の

    取っ手をいくら動かしてみても全く開かなかった。


   もし、窓が開いてベランダに出られても、四階の高さから飛び降りる度胸は、さすがに俺にも

    無かった。それは、死ぬ時にやる事としか思えない。


   ただ、小さな天窓が天井近くで一つだけ開いており、春風はそこからだけ流れこんでいる。

   この部屋は、南棟の玄関先とは反対側にあたる。

   下は中庭のようだった。花々が目を楽しませる洋風の庭園になっている。四方は全て建物に

    囲まれているので、ここから、下へ降りても外へは抜け出せないだろう。


   俺は寝室を出ると、室内を探索した。

    この部屋にはベッドの置かれている寝室の他に、三部屋もついていた。


   最も入り口に近い応接セットが一式置いてある部屋、その右側に俺が今いる寝室、

    隣にウォーキングクローゼットや鏡台の置かれた部屋がある。

    大きなクローゼットには、山のような衣服や靴や装飾品が置かれていた。全て俺の物では

    無かったので、鳳家の連中が購入してそろえたに違いない。


   中央の応接室を挟んで逆側には、勉強机や本棚が置かれている書斎がある。

    俺の学校の道具が全てそろえられていた。自宅に置かれていたテニスラケットなども、

    全て集められていたので驚いた。


   さらに、トイレも浴室も洗面所も全てそろっている。

   ホテルにあるスイートルームの構造に良く似ていた。

   おまけに、もっと驚いた事は、全ての部屋にカメラが設置されていた事だった。さすがに

    風呂場とトイレには無かったが。


   俺の部屋の隣は、メイド頭である寿の部屋らしい。

   このカメラの映像を見ているのは彼女だろうか?

   それとも、当主の鳳長太郎本人なんだろうか?

   俺は応接室に行き、出口の扉を調べてみたが、外側から鍵がかけられている様子だった。

   ここの連中は、俺をこの部屋から出さないつもりらしい。

   俺は、ソファのクッションを掴むと、カメラに向かって力いっぱい投げつけた。


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