認知理論と認知行動療法

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ここでは、現在、各種の精神障害や不適応行動の問題に対して行われているカウンセリング技法の中でも、特に、技法の適用範囲が広く、抑うつ感や不安感に対する顕著な改善効果のある認知療法について詳述します。認知療法(認知行動療法)が従来の心理療法と異なる最大のポイントは、多数の事例に基づく統計学的調査が行われていて、その効果がある程度実証されているエビデンス・ベースドな技法であるということです。

アーロン・ベックやティーズデイルなどの認知理論を基盤とする認知療法の特色を簡潔に言い表すと、『科学的な実証性(evidence)』『臨床的な有効性(effect)』『実践的な適用性(apply on a wide case)』のバランスが非常に良いということになるでしょう。

認知療法と他の心理療法の比較

かつて主流だった精神分析療法や力動的精神医学は、フロイトやラカン、メラニー・クライン、ウィニコットらの提唱した精緻な理論を見ても分かるように、理論を構成する説明概念が非常に難解で、その全体を正確に理解するには高度な知性と長い時間が必要でした。そこで立ち上がってきた問題というのが、『学習に要する大きな負担とカウンセリング期間の長期化』の問題でした。

精神分析を実施する分析家だけでなく、精神分析を受けるクライアントの側も、ある程度その複雑な理論を学習して分析を受けなければ「精神分析の効果」が十分に発揮できないので、クライアントも精神分析特有の仮説概念や幾つかの理論内容を学習しなければなりません。また、精神分析は表面的な症状の緩和は重視せずに、根本的な病理の治癒のために長い期間をかけて実施するのが原則ですので、即効性や経済性を求めるクライアントにはあまり向いていないという事情もあります。

認知療法は精神分析と比較すると、その基盤となる認知理論に、難解な概念が用いられておらず、平明な概念を組み合わせることで分かりやすい理論になっているのが特徴です。つまり、誰でもが直感的に理解できる平易な概念によって、抑うつ感や自罰感情、無力感の生起を説明しているので、学習に要する時間と労力を大幅に節減することができるのです。

臨床心理学や精神医学の基礎知識が全くないクライアントであっても、カウンセラーから丁寧に基礎理論を紐解いて指導してもらえば、比較的短時間で認知療法を実施するのに必要最低限の知識を習得することができます。つまり、認知療法は、専門的な精神医学やカウンセリングの知識を有していない一般の人たちにこそ最も適したカウンセリング技法の一つなのです。基本概念を学ぶ意欲とカウンセリングに対する動機付けさえあれば、誰でも容易に認知療法の基本を学習して修得する事ができます。そして、その学習成果を適切にカウンセリングに還元して、気分改善や症状緩和のためのセルフモニタリングを継続していけば、多くの人にその効果を実感してもらう事が出来ると確信しています。

認知療法とカール・ロジャーズの来談者中心療法(クライアント中心療法)を比較すると、それらは相互に対立するものではなく、相補的に支えあうことによってカウンセリングの効果を増進させるものだという事が分かります。ロジャーズの来談者中心療法は、あらゆる心理療法(カウンセリング技法)の根底にあって、カウンセラーとクライアントの間に形成される相互的な信頼関係であるラポールの重要性を指し示すものです。カウンセラーがクライアントと対面する場合の基本的態度としてロジャーズが提唱した『徹底的傾聴・純粋性・自己一致・共感的理解・肯定的受容・積極的尊重』は、認知療法を実施するカウンセラーの態度としても同様に要請されてくるものです。

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認知療法や短期療法、家族療法などのカウンセリングにおいても、来談者中心療法の自己理論が前提する『カウンセラーの基本的態度』や人間の潜在的な成長可能性を信頼する『実現傾向(成長・健康・適応に向かう人間の本来的特性)を持つ人間観』、カウンセラーの個人的な価値観や経験的な処世術を無理強いせずにクライアントの価値観や主張にしっかりと丁寧に耳を傾ける『個人の人格を徹底的に尊重した面接技法』などは応用性が高く重要なものです。

実現傾向を核心におく人間観や面接場面での態度の基礎を規定する来談者中心療法と学習理論を基盤とする人間観や共感的な教育者としての態度を示す認知療法の最大の違いを敢えて挙げるとすれば、認知療法は来談者中心療法よりも指示的・指導的な側面を強く持つということです。ロジャーズの来談者中心療法は、クライアント個人の主体性や人格性を最大限に尊重する余り、『自然な実現傾向が発動されるまで粘り強く待ち続けるという受動性』を特徴として持ちます。

認知の歪みを変容させることによってカウンセリング効果を得ようとする認知療法、あるいは、不適応な行動の変容を中心とする実践的な認知行動療法の場合には、『客観的な治療目標の設定による計画性とカウンセリング計画に沿った能動的なアプローチ』を特徴として持ちます。

認知療法の実際場面では、ただ受動的に傾聴しながら、自然な状況の変化と症状の改善を期待して待つという姿勢を取るのではなく、クライアントが自分の問題点を発見できるように積極的に支持し、具体的に問題を解決する為には「認知・感情・行動をどのように変容させていけば良いのか」を一緒に試行錯誤しながら考え、簡単な課題から困難な課題へと段階的に出来るところから能動的な実践をしていくことになります。

具体的な問題解決の為の理論体系と行動実践を兼ね備えたカウンセリング技法が認知療法(認知行動療法)であり、その実践場面における基本コンセプトをまとめると『適度な積極性による介入』『適切な認知変容を促進する指示』『安定した心理状態を維持する共感的な受容』『認知と行動の変容の為のクライアント側の能動性』『カウンセリング場面以外の家庭・仕事・学校場面での学習(セルフモニタリングして状況・思考・感情をワークシートに記録する学習)』といった概念に集約することができます。

認知療法を実施して効果が現れるか否かの重要な部分は、カウンセラーの「適切なワークシート記述の説明」や「言語的誘導による発見」を可能とする会話技術などにも依拠しますが、それ以上に、クライアントの動機付け(やる気)にかかっているといえます。認知療法で一番面倒に感じるのは、クライアントが一日の出来事や行動を振り返ってみて、自分の不快な感情・気分の強度(主観的感情尺度)や自動思考、認知の歪みを特定してワークシート(専用の記録用紙)に記述する毎日の習慣的作業です。

不快な気分や感情を同定して、自然に湧き上がって来るネガティブな思考を記録し、認知の歪みを特定した後には、更に、それらを論理的に反駁し現実的に反証していく『合理的思考・適応的認知』を考えて書き込んでいかなければなりません。認知療法を実際に行う場合には、『自分で考える作業・対話する行為』の重要性もさることながら、『ワークシートに記録する作業による気分・感情の明確化と適応的な思考・認知の具体化』がとても大切になってきます。前述したクライアントの動機付けの必要性は、どのカウンセリング技法(心理療法)にも言えるのですが、特に『自発的なワークシートの記述の習慣化』によってカウンセリング効果を得る部分の大きい認知療法の場合には『ワークシートを書こうとする動機付け』を面接の初期にしっかりと行っていかなければなりません。

ペンシルバニア大学のアーロン・ベックが、抑うつスキーマ理論を基盤として開発した認知療法は、うつ病等の気分障害に対して著明な効果があり、気分の改善や感情の安定を目標とするクライアントに対して第一選択のカウンセリング技法になります。以下のコンテンツにおいて、認知療法(認知行動療法)の理論的内容と具体的実践について詳しく説明していきたいと思います。

認知療法の実践を支える認知理論と面接構造

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