『大学』の名言1:大学の道は、明徳を明らかにするに在り~

四書五経の一つである『大学』『中庸』と並んで、元々は『礼記』の中の一篇だったが、宋の時代以降に独立した書物として扱われるようになった。『大学』は成立年代も作者も不明であるが、『論語』『孟子』『中庸』と合わせて四書の一冊としたのは南宋の朱子(朱熹,1130-1200)である。朱熹は『大学』を経の1章と伝の10章とに分けて、経の部分は孔子の弟子である曾子が書いたもの、伝の部分は曾子以下の弟子が記録したものと考えた。それとは別に、『大学』は秦・漢の儒家が後世になってから再編集したものという説もある。

朱熹(朱子)の創設した『朱子学』は、江戸幕府の徳川将軍家が国学として採用した事から封建主義社会の身分秩序を支える学問というイメージが強いが、実際には万物を統御する普遍原理としての“気”を仮定した高度な抽象的理論であった。人間・社会・宇宙・モノは“理”の普遍原理によって結合しており、君子としての徳を高める自己修養(修己)で理を把握した者が、他者や社会を統治することができるという『修己治人』の思想を説いた。この『大学』においても、政治を司る君子が実践すべき道を説いており、その内容は『修身・斉家・治国・平天下』の儒教的な徳治主義(王道政治)へとつながっている。『大学』は、前近代の儒教文化圏では学問・政治を志そうとする君子(為政者・支配階級)の必読の書であった。

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金谷治『大学・中庸』(岩波文庫),宇野哲人『大学』(講談社学術文庫),伊與田覺『「大学」を素読する』(致知出版社)

[白文・書き下し文]

大学之道、在明明徳。在親民、在止於至善。(経一章)

大学の道は、明徳(明徳)を明らかにするに在り。民を親た(あらた)にするに在り。至善に止まるに在り。

[現代語訳・補足]

君子が実践する大いなる学問の道は、天与の徳(良心・仁)を明らかにする事が目的である。更に、自分の人徳を高めるだけではなく、一般の人々を教導して一日一日の道徳的な進歩を後押ししなければならない。大学における学問の目的とは、自らの修己と他者の啓発・徳化とを両立させる至善に留まり続ける事にこそある。

『大学』では“君子の明徳・大衆の教導・至善の保持”が綱領のように重視されているが、その綱領は『格物・致知・正心・誠意・修身・斉家・治国・平天下』という大学の八条目によって支えられているものである。

[白文・書き下し文]

物有本末、事有終始。知所先後、則近道挨。(経一章)

物に本末あり、事に終始あり。先後(せんこう)する所を知れば、則ち道に近し。

[現代語訳・補足]

物事には本質(根本)と末節(先端)とがあり、事象には必ず始まりと終わりとがある。何をするにつけてもどれを先にするか、どれを後にするかを知っていれば、それは物事の本質と因果を弁えた道に近いという事なのである。

学問を学んでいる将来の為政者となる君子に対して、物事の道理と本質を指し示す『道』について説こうとしている部分である。『大学』では平天下を成し遂げる基礎になるものとして自分の徳・良心を明らかにする『明徳』を上げており、天下(国家)を統治するためにはまずは身近な所から徳性を高めていく『修身・斉家』こそが本質なのだと考えていた。

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