キャロル・ドウェックの知能観と学習の動機づけ

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C.ドウェックの熟達志向の知能観と学習の動機づけ・意欲

アメリカの心理学者キャロル・ドウェック(Carol Dweck)は、人間の知能は生得的・遺伝的な要因で規定される『固定的』なものではなく、学習行動の努力の積み重ねや勉強方法の工夫改善によって上昇する『可変的』なものと考えた。知能・知能指数が先天的な遺伝要因によって固定的に決まるとする理論を『実体理論』といい、知能・知能指数が後天的な学習行動とその動機づけによって変化するとする理論を『拡大理論』というが、『拡大理論』に基づく子ども観や教育方法のほうが当然に『学習行動の価値』が高くなる。

知能が生得的な要因によって決まるという『実体理論』では、『学習・努力の価値』が相対的に低くなるので、学校の成績が良くて自分の知能に自信がある子どもは高い学習意欲を持つが、反対に成績が悪くて自信がない子どもは努力してもダメだと感じて学習意欲が低くなってしまう。知能が自分の学習努力や勉強方法の工夫で伸びるという『拡大理論』であれば、『学習・努力の価値』が相対的に高くなるので、自分の成績・知能に自信がある子どもも自信がない子どもも、『今よりも高いレベル・良い成績』を目指して学習意欲が高まりやすくなる。

子どもの学習意欲を高めて成果を上げようとするのであれば、『拡大理論に基づく教育活動』を実践していかなければならないが、実体理論と拡大理論では『学習の動機づけ』そのものが異なってくる。『実体理論』では努力や工夫によって知能(基礎的能力)そのものを向上させることはできないと考えるので、『他人に評価されたい・他人に否定されたくない』という“外発的な動機づけ”によって学習行動を取るようになる。その結果、自分の現在の能力・経験では解決(正答)できそうにないと感じる問題に直面してしまうと、『低い評価を下されたくない・自分の能力を否定されたくない』ということでその問題に挑戦することを回避しやすくなるのである。

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『拡大理論』では努力や工夫によって知能(基礎的能力)を高められると考えるので、『自分の知能や能力を高めたい・より難しい問題にチャレンジしたい』という“内発的な動機づけ”によって学習行動を取るようになり、効率的な勉強ができやすくなる。その結果、拡大理論では『他人が自分をどう評価するのか』よりも『自分がどこまで知能や能力を伸ばしていけるのか』ということが学習行動で重視されやすくなり、『学習・勉強そのものの楽しさや達成感』を体験しやすくなるのである。自分の知能や能力に自信を持っている人ほど一般に学習の動機づけは高くなり、有効な知識や技術をより効率的に習得しやすくなるが、自分の能力に自信がなくても『今までの自分よりも高いレベルを目指す』という内発的な動機づけによって学習意欲を高めていくことは可能である。

教師は『生徒の判定者』として優劣の判断をするのではなく、『生徒の支援者』としてそれぞれの生徒の個別的な知能や適性、成績を少しでも伸ばして上げられるように指導し応援していかなければならないのである。子どもや生徒に限らず、人間は『自分の判断・努力・行動』によって有効に問題を解決したり状況を改善できると実感できれば、自信や行動意欲が高まるのである。

自分の力で物事を達成したり問題を解決できるという『自己効力感(セルフ・エフィカシー)』が高まれば、学習意欲や行動の動機づけもそれに合わせて高まっていく。学習の内発的な動機づけは『学習目標の実利性・明確性』とも相関しており、『知識の獲得・教養の向上・知性の魅力』といった抽象的な学習目標よりも、『就職や仕事に有利に役立つ・特定の活動に利用できる・生活上の問題に応用できる』といった具体的な学習目標があるほうが、学習の動機づけは高まりやすい。

大学・大学院等の高等教育のレベルになると知的欲求や研究意欲によって『学習(知識)そのもの』を楽しむということもあるが、一般的には『仕事・生活・実践の必要性』に応じて主体的に学ぶほうが、学習の動機づけが高まり集中的な勉強をしやすくなると考えられている。幼稚園・小学校の年代の子どもの学習では特に、『抽象的・理論的・原理的な学習』だけでは子どもの知的好奇心や学習意欲を十分に引き出すことができないので、『具体的・実践的・物理的な事例や体験』に落とし込みながら理論的な部分の教育を進めていく必要があるだろう。

高度な知的教育と実践学習(体験学習)が有機的に連結すると、特定分野の知識・技術・経験において突出した適性やパフォーマンスを示す『エキスパート(専門的な熟達者)』と呼ばれる専門家が育成されてくる。エキスパートとは特定分野における該博で正確な知識・情報を持っているだけでなく、専門分野における実際的な問題を解決したり疑問に答えたりする優れた実践能力(問題解決能力)を有している人のことである。

エキスパートの人材は、自分の能力・技術・活動を客観視する『メタ認知』の機能が優れており、そういったメタ認知を介して自分の能力や技術を反省的・補足的に向上させていくことができる。自分で自分をセルフモニタリング(自己観察)する『メタ認知』を通して、自分の行動や能力、技術を改善的に調整していくことを『自己調整(self adjustment)』という。

人間の『テキスト作成能力(作文能力)』にも、自分の書いている文章をリアルタイムで観察して調整するセルフモニタリング(メタ認知)や、どんな内容をどういう手順で書いていけば良いのかというプランニングの要素が関係している。スカーダマリアとベライター(Scardamalia & Bereiter, 1986)の作文指導の研究によって、効果的かつ実践的な作文能力には『セルフモニタリングによる文章のリアルタイムの推敲・編集』『プランニングによるテーマ設定・修辞的な表現の工夫』が重要な役割を果たしていることが分かっている。グレーザーとチィ(Glaser & Chi, 1988)はエキスパートである人材の特徴として以下の6点を上げている。

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