境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)の“認知・感情・行動”のパターン

境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害:BPD)は、1980年代まで精神病と神経症の『中間領域』にある精神疾患と仮定されており、『境界例(ボーダーライン)』と呼ばれていました。境界性人格障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、アメリカ精神医学会のDSM-Ⅳ-TRで『クラスターB(B群)』に分類される人格障害(パーソナリティ障害)であり、『衝動性・攻撃性』『気分(感情)の不安定さ・対人関係のトラブルの多さ』などに大きな特徴があります。

境界性パーソナリティ障害では、『自己アイデンティティ』が拡散して自分の存在意義や生きがいを見失いやすく、そういった虚無感や虚しさの感覚によって対人関係(異性関係)やギャンブル、ドラッグ(アルコール含む)、食事(摂食障害)などに過度に依存してのめり込みやすくなるという問題があります。境界性人格障害の特徴を持っている人は、気分の波が激しく感情が極めて不安定なので、さっきまで理想化して褒めていたような人に対しても、何か自分に否定的な発言などがあると急に怒り出して、攻撃的な罵倒が止まらないほどに興奮してしまうこともあります。

境界性パーソナリティ障害(BPD)の人は、自己愛・依存心・気分・感情を適切に自己コントロールすることができないので、『対人関係のトラブル』『自滅的・衝動的な行動(自傷行為・依存症)』が起こりやすくなるのですが、BPDの根底にある感情的問題は『見捨てられ不安・自己肯定感の欠如・孤独耐性の低さ』などです。家族や知人と付き合っていると、どうしても批判的・攻撃的になって対人トラブルが絶えないのですが、BPDの特徴を持つ人は見捨てられ不安や空虚感(人生の無意味感)が非常に強いので、『一人で過ごす時間(誰とも関わらずに過ごす時間)』の孤独感になかなか耐えることができないのです。

こういったBPDの見捨てられ不安や孤独感の心理的原因には、乳幼児期の母子関係で十分な愛情・保護を与えられなかったことや児童期の学校生活で『いじめ・暴力(虐待)』などに遭ったことが関係しているとも言われます。また、感情・気分の調整と関係して『セロトニン系・ドーパミン系』の脳内の神経伝達過程の障害がBPDを引き起こすという仮説や、BPDの発症に遺伝的素因(先天的要因)が関係しているという仮説があります。境界性人格障害(BPD)を抱えた人たちは、いつも誰かに温かく見守っていて欲しい、どんな時も家族・恋人・友人には自分の味方になって貰いたい、大切な人に見捨てられたくないという強い欲求を抱えていますが、『激しい感情表現(気分の波)・自己アイデンティティの拡散(空虚感)・極端な対人評価』によって人間関係が上手くいかないことが多くなってしまうのです。

ここでは、境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)に特徴的に見られる『認知・感情・行動の不適応なパターン』について紹介します。BPDの『診断基準・発症要因・対処法』などについての詳論は、『トラウマ体験と境界性パーソナリティ障害』の項目を参照してみて下さい。

境界性人格障害の“認知・思考”のパターン
境界性人格障害の“感情・気分”のパターン
境界性人格障害の“行動・対人関係”のパターン

境界性人格障害の“認知・思考”のパターン

境界性パーソナリティ障害の問題を抱えている人は、以下のような“非現実的・非合理的な認知・思考パターン”の幾つかを持っているので、現実的な人間関係や社会生活への適応が困難になることがあります。BPDの人が以下のすべての特徴を持っているわけではなく、性格行動パターンの傾向として幾つかの項目に当てはまるということになります。

1.物事や人物を、“白(善)”か“黒(悪)”かの『二分法思考(二元論的思考)』で認識して判断しやすい。そのため、一人の人物の『良い部分』と『悪い部分』を現実的に認識することができず、『完全に良い人』か『完全に悪い人』かという両極端な評価になって、人間関係で衝突が起こりやすくなる。

2.相手を『理想化』して褒め称えるか、『脱価値化(無価値化)』してこきおろすかといった極端な対人評価をしやすい。少し前まで相手のことを高く評価していたのに、少しでも自分の思い通りにならないことや相手の嫌いな部分が目につくと、途端に態度を急変させて攻撃したり罵倒したりするので、安定した人間関係がつくりにくい。

3.完全主義思考が強いので、自分自身に対する評価は『完璧な成功している人間』『脱落した何の取り柄もない人間』かという極端な自己評価になりやすい。悪い方向に自分を評価すると、とことん気分が落ち込んでしまい、自己否定的な認知や悲観的な将来予測ばかりを持つようになってしまう。

4.他人の『行動・発言・態度』を見た時に、自分にとっての『味方』か『敵』かという視点で相手を単純に分類してしまう。『味方』に分類した相手に対しては、好意的・誘惑的に接近して依存的な態度を取りやすく、『敵』と分類した相手に対しては、攻撃的・拒絶的な態度を取って怒りの感情を露わにすることもある。

5.自分の置かれている状況を『理想的な幸福・安心』『絶望的な不幸・孤独』かのどちらかに偏って認知する傾向がある。自分の生活状況や対人関係をポジティブに理想的なものとして認識している時には、ある程度、現実適応能力が高くなる。しかし、いったん自分自身を不幸な存在としてネガティブに認知し始めると、気分の落ち込みや自暴自棄な衝動性が激しくなり、現実的な社会生活・対人状況への適応が難しくなってしまう。

6.自分の失敗や不幸、怒りの原因を、自分以外の他者(外的要因)に転嫁する傾向が見られることがある(他罰傾向)。反対に、自分の失敗や不幸、怒りの原因を、すべて自分自身に求めて自分を責め過ぎたり、自己否定的になることがある(自罰傾向)。『他罰傾向』が強く見られる時には、自分の発言・行動・態度が他人に与える影響を推測することができなくなり、相手を攻撃して傷つけてしまうことがある。

7.客観的事実に基づいて『他者・状況』を的確に認知することが苦手であり、主観的感情によって『他者・状況』を認知しやすいので、どうしても『思い込み・決め付け・事実誤認』などの問題が起こりやすくなる。相手の反応や言葉を『偏った色眼鏡』を通して見てしまうと、『相手は自分を否定(非難)している・相手の態度は自分を嫌っている証拠だ』というような思い込みに陥ることがある。

境界性人格障害の“感情・気分”のパターン

1.その時その時で、『気分(上機嫌-不機嫌,高揚・抑うつ)』が非常に変わりやすく、『感情(喜怒哀楽)』が極めて不安定である。数十分~数時間単位で気分・感情がコロコロと変化することがあるため、相手がどのような対応をすれば良いか分からなくなって困惑することがある。

2.『怒り・イライラ・不快・悲しみ』などの感情が激しくて、周囲を振り回したり傷つけたりして、無意識的にコントロールしてしまうことがある。感情の発生・表現が急速であり激し過ぎて、自分でも自分の感情をほとんどコントロールできないと感じている。

3.ちょっとした相手の冷たい態度や批判的な言葉によって、自分が相手から永遠に見捨てられてしまうと感じる『見捨てられ不安』が急速に高まる。一人で過ごしている時や大切な相手と喧嘩した時などに『見捨てられ不安』が異常に強くなって、その孤独感や疎外感に耐え切れなくなり、『自傷行為・逸脱行動(性的逸脱・物質依存症)』をしたい衝動的欲求が高ぶる。

4.自己像を定義するための『自己アイデンティティ』が拡散して、自分がどういった人間なのかが分からなくなり、人生の生きがいや楽しみを実感できなくなってしまう。『人生には生きる意味がない・自分には何の価値もない』といったネガティブな空虚感・虚無感に囚われて、気分が激しく落ち込んだり希死念慮が発生したりする。

5.他人の注目や好意を求める『自己愛の欲求・承認欲求』が強いので、『無関心・無視』に対して過敏に反応しやすく、相手に対して敵対的になったり気分がどんよりと落ち込んだりする。誰かが自分の存在価値を認めて保証してくれないと気分が落ち着かず、基本的に『自分自身の価値』を自分ひとりだけで認識(実感)することができない。

6.他人の愛情や承認を求める欲求は人並み以上に強いが、心のどこかで『どうせ自分は誰からも愛してもらえない・いつかは相手に見捨てられて孤独な状態になってしまう』というネガティブな感情を抱き続けている。人間関係に対する絶望的な寂しさ・分かり合うことの難しさを感じていて、『見捨てられ不安の増大』が『自己破壊的な衝動』と結びつきやすい。

境界性人格障害の“行動・対人関係”のパターン

1.『自己』『他者』との境界線(区分)が揺らいでいるので、『適切な距離感(プライベート領域)』のある人間関係を築くことが難しい。精神分析理論では、自他未分離な幼児期の発達段階まで『退行』していると解釈することができ、他者に対して子どものような要求や感情を激しくぶつけることが多い。

2.精神的ストレスや見捨てられ不安が強まった時に、『リストカット・アームカット・根性焼き(タバコの火の押し付け)・オーバードーズ(過量服薬)』などの自傷行動をすることがある。

3.『理想的な友人関係』『望ましい相手の性格・反応』に過度にこだわり過ぎることで、ちょっとした対立や相手の些細な反発を許せないことがある。人間関係の理想像や永遠の愛情・友情といった『想像上の理念・観念』に囚われているので、現実の人間関係が何だか『偽者(本物ではない人間関係)』のように感じられて虚しくなる。

4.生きる意味や自分の価値が分からなくなり、『希死念慮』を抱いたり『自殺企図』を実行したりすることがある。『今から自殺する』と話したりメールを送ったりして、相手を脅したり自分へ関心を引き付けようとしたりする。

5.『精神的ストレスによる不快感』『自己アイデンティティの拡散による空虚感』を和らげるために、衝動的な行動や依存症的な行動をすることがある。衝動的(自滅的)な行動としては、『性的逸脱(安易な異性との性行為)・浪費・危険運転・挑発による喧嘩・自傷行為』などがある。依存症的(嗜癖的)な行動としては、『ギャンブル依存・アルコール依存・薬物依存・セックス依存・過食症・盗癖(クレプトマニア)』などがある。

6.自分の思い通りにならない人間関係で、理不尽な怒りや癇癪(かんしゃく)を爆発させて、相手をこき下ろしたり、激しい口調で非難することがある。怒るだけの理由が見当たらないのに、一方的な怒りや憎悪を相手にぶつけることで、それまでの人間関係がダメになってしまうことがある。

7.人生の空虚感や自己の無意味感を克服できるような『生きている実感・自己存在感』を得るために、敢えて危険な行動にチャレンジしたり、無秩序な乱れた生活(快楽志向のデカダンな生活)をすることがある。

8.上手くいっている『良好な人間関係』を破壊してしまうような『喧嘩・悪口・否定』を敢えてしてしまうことがあったり、修復不能になった『破綻した人間関係』をどうにかして復活させようと考え、執拗にその相手にしがみついたりすることがある。

9.他者に対する評価・態度が『理想化(褒め殺し)』『脱価値化(こき下ろし)』で極端な落差があり、『相手の内面・意図』を自分勝手に推測して、相手の考えや心情を一方的に決め付けてしまうことがある。相手の人格(性格)や行動を客観的に評価することができず、相手との適切な距離感や配慮を維持することも難しいので、対人関係における食い違いやトラブルが多くなってしまう。

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