精神分析的なカウンセリング


精神分析は、シグムント・フロイトによって創始された精神療法の理論体系であり、カウンセリングとは異なった効果や作用機序を持つ技法です。フロイト以後も、現実的状況と自我の発達との関係を中心として取り扱う『自我心理学』、内面的な対象関係や発達早期の記憶を重視する英国の『対象関係理論』、コフートの『自己心理学』など多様な分岐と発達を見せていますが、それらの諸学派の根底に流れる基本的な技法や精神はそれほど大きな変化を見せていません。

ここでは、過去の非常に苦痛な耐え難い体験であるトラウマや幼児期の早期親子関係の葛藤などを原因とする心の問題に対処する為に有効と考えられる『精神分析理論を基盤に置いた、精神分析的カウンセリング』の実際的場面に対応した説明をしたいと思います。

カウンセリングと対比した場合の精神分析の特筆すべき特徴として、意識と無意識を区別して、無意識領域に潜在する葛藤や願望に関心を向けていくという事と人生全体の記憶を扱って深く自己内面を分析していくということが挙げられます。
カウンセリングは、向かい合った姿勢(対面法)で一般的な会話と同じように相手の話を聞いて、それに受け応えする形で行われます。そして、相談者の気持ちを汲み取りながら、支持的な雰囲気を維持して行われるという所にカウンセリングの特徴があります。これは、色いろな場所で行われている心理相談や人生相談のスタイルとほぼ同じものと考えていいでしょう。

カウンセリングが相談者の陳述や訴えに共感しながら、積極的に話し掛けるのに対して、精神分析的なカウンセリングは相談者からの『連想(思い浮かんでくる事柄の全て)』を徹底的に聴き取るという『受動的かつ客観的な態度』を基本として、カウンセラー自らは余り積極的に口を開かないという明確な違いがあります。
また、カウンセリングが顔と顔を向かい合わせて話し合う空間的位置づけを取るのに対して、精神分析的なカウンセリングの場合には、原則的に視線を合わさずに、カウンセラーが斜めや後方に位置を取って、特別な技法上の必要がない限りは途中で質問や意見などの口を挟まずに、静かに相手の連想を聴き取るといった姿勢を保ちます。その場合には、カウンセリングの中で生じる沈黙や停滞に対しても、様々な解釈を一緒に考えていく事になるでしょう。

カウンセリングが、精神的な支持や問題解決の糸口を与えて貰うことをカウンセラーに期待するのと違って、精神分析的な技法では、自分自身の無意識領域に抑圧された感情や過去と向き合い、それを自分なりの形で感情を伴った言語として整理する共同作業を二人で協力して行います。
その作業を通して、過去の心理状態と現在の心理状態のつながっている部分に改めて気付き、過去の対人関係の持ち方と現在の対人関係の持ち方の連続した部分を自らの言葉として認識していきます。過去の自分と現在の自分の共通している部分、そのままで良い素晴らしい部分、これから変えていきたい少し不満のある部分を自分自身がしっかりと把握することで、自我の安定感や再生感のある状態を目指していきます。

自己内面への理解、そして、自分の感情や行動が生まれる原因への洞察を深めていくことで、現在抱えている悩みや問題を解決する端緒(ヒント)を発見したり、自分にとってより満足のいく生き方、人間関係を選択していけることが、この技法が最終的な目的とする事かもしれません。
精神分析に関連する思弁的な理論も非常に興味深いものですが、実際的な場面では、カウンセラーと一緒に自己の感情体験を伴った『自己にとって重要な意味を持つ精神的な歴史』を自由連想を通して振り返り、その連想された記憶に付随した感情や意味を受け入れたり、乗り越えていったりするダイナミクスな展開こそがもっとも重要で、回復的な意味のあるものです。

絶えず移り変わっていく『カウンセラーと相談者の二者関係』の進展と、決められた時間と場所の中で誠実な態度で向き合うといった日常的にはなかなか経験できない場面構造の中に、精神分析的なカウンセリングの主眼と価値があると私達は考えています。
精神分析理論に関する様々な知識や情報は、『Es Discoveryのブログ』『心理学と心理療法に関する小論』などのコーナーで逐次紹介していきますので、興味のある方は目を通してみてくださいね。

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