キーワード、キーパーソン

ネームを作る時、私はものすごくスタートが遅い(多分)。
世の中には、殆ど青写真を作らずに、ぶっつけ本番で本書きに入ってしまうという作家もおられるという。アンビリーバボー!私にはとても出来ない。
見切り発車をしたら、必ず困った事になる。
途中で話の筋が分かんなくなっちゃったり、もらったページ数におさまらなかったり 。私の場合、ネームの第一考は、だいたい4〜5ページはオーバーしてしまう(これが50ページ作品でも30ページでも同じだからおかしい)。
後半になってから「あそこにコレ入れておけばよかったー!」と悔やんだり。
必ず何かしらある。

プロットをえんえんと考えていて、「よし、これで行こう!」と、自分にGOサインを出す瞬間、というのが、また微妙と言うか、自分でも不思議だったりする。
その「よし、」以前と「これで行こう!」以後とで、違いと言ったら、ほんの些細な事で、ボンヤリしていると自分でも何がポイントなのか、見落としてしまう程。
それがつまり、キーワードだったり、キーパーソンだったりするわけさ。

例えば、「ハリハリハリケ〜ン」という、「晶子さん」シリーズの短編。
台風でOL達と社長が会社に取り残されて帰れなくなる、という話があった。
電車が止まる。大水が出て道が歩けない。停電。飛んで来た看板で窓ガラスが割れて…etc.etc.台風でありがちなエピソードを出せるだけ出して、詰め込めるだけ詰め込む。順番を考えたりも楽しい作業だ。あんまり暗くしたくないから、主人公達はお気楽で、けっこう状況を面白がってしまおう。ローソクの灯りで、ビール開けてマージャンしたりして。
まだまだ。天気予報を聞いて、台風対策グッズを持って会社に来るヤツがいたりして。またそういうの笑うヤツとかいるんだよね。 (おっ?)面倒臭いので、普段あまり近付かないようにしてるんだけどね、そういう輩には(ふむ)。
人の事をダサイとか恥ずかしいとか、都会的でないなどと言ってつるんで笑うような連中に、カッコイイ奴はまずいない。自分があか抜けないのが気になって仕方が無いんだ、きっと(おおっ!)
ここでキャラクターのイメージが固まって来る。
地方出身で、容姿は地味、いかにも流行りの服と髪型が、あまり似合っているとは言えない…似たような仲間といる時は我が物顔だが、一人になると借りて来たネコ。多分足首太い。目とかもはれぼったくて…。
ここまで来たら、もうしめた物。イケそう!
今までHow to本みたいだった「台風の日のエピソード」に、この子が入ればストーリーになるじゃん。
最初に笑った「台風グッズ」のお世話になるのがいいな。無理してるから、ちょっとアクシデントがあるとパニクッちゃう、追い詰められるとコンプレックスが爆発して取り乱す。そして自己嫌悪…。
できたできた、でもって最後は、気持ち良く終わりたいから、他のメンバーと打ち解けよう。助けてもらって素直になってあやまって、じゃあダメ。だってカワイソーだもん。
かわいそうな人がいるままで、エンドマークを出すのは、私は好きじゃない。(だから盛り上がらないのかも?)
意外と使える奴だった、というのがいい。
自分の本当の価値に気付いてない、でも周囲はちゃんと認めてくれる…ホラホラ、いいかんじ。
ここまで決まって、やっと「Go!」が出せる。

キーパーソンを、もう一例。
「決意の花嫁」というすごいタイトルの40ページ。
浮気で風来坊の恋人を捨てて、ステキなエリート男性と結婚を決意した主人公、結婚式に恋人が乗り込んで来て(「卒業」だけど、パクリと呼ぶには使い古され過ぎている)、でもそんなのその場でホイホイ付いてくはずないじゃん?と、いうのが最初の発想。
(ちなみに私は「卒業」がキライです。)
しばらくディティールを考えて、「ダ〜メだ、こんな話」と、一旦捨てた。
しかし期日は迫る、他の話は浮かばない、ぐるぐるまわって帰って来ては、また却下、を繰り返しながら、少しづつシーンが見えて来る。
結婚式で乗り込んで来た恋人を拒絶するのは決定。だって「卒業」キライだもん。
その後、道は2本あって、式を挙げた新郎と幸せになるか、やっぱり捨て切れず恋人と逃げるか…。あー、やっぱりつまらない、無理無理。
なにがイヤなんだ?と、逆に考えてみる。
「結婚式に乗り込んで来るなんて、バカじゃん」そうか。じゃあ恋人は思い切りバカにしてしまえばいいんだ。
「それにノコノコ付いて行く女の気持ちが分からない」う〜ん、頭と心はバラバラって、わりと好きだけど。
「罪も無いのに花婿がかわいそう」だったら花婿をイヤ〜なヤツにしちゃえば?
…やばい。このままできちゃうかも知れない…。
えーと、家族は?大変だよね、式までやって結婚キャンセルじゃあ。そういうケースがけっこう増えてるって聞くけど。
親にしてみれば、わけの分からないフーテンで、しかもバカ(に決めたから…)な男よりも、手堅いエリートとの結婚が望ましいはず。では、きょうだいは…?
おおっ!一人だけ、フーテンの恋人贔屓の身内がいると、いいぞ。
誰かが誉めたり、執着している所を繰り返し見せられると、「なんかいいとこあるのかな」という気になるもの。
それには弟がいい。姉妹ではダメ、別の話になりそうだ。兄も、親的立場になりがちなので、ペケ。
同性はともかく、異性のきょうだいにウケの悪い相手(つまり相手ときょうだいが同性ね)って信用できない気がするよね。
そこまで来たら、スーッと心が軽くなった。
かくして結婚式当日の冒頭シーンからずっと、主人公の弟はグズグズ文句を言い続ける事になる。

キーワード、これも大切。
つまり、一つの単語、一つの言い回しがストーリーに結び付いた瞬間に、「これでイケる」と思えるもの。
実際には、読む側にとっては、そのひと言があるか無いかで印象に大差は無いのかも知れない、とは思うのの、やはり背中を押される事が確かにあって、私の中ではキャラクターよりも劇的だったりする。

犬よりも自由」なんちゅータイトルだ。
主人公の主婦は、なんとなく人生に空しさを感じながらも、自分をなだめながら生きている。
ある時、一念発起してパートに出てはみたものの、頑張って評価されたと思っていた上司からセクハラを受けてキレてしまう。
パートなんかやめてやるー、と思ったけれど、理解が無く自分に無関心とばかり思っていた夫も色々大変なのだと気付き、一度のトラブルで仕事を放り出せる自分はまだしも恵まれていると…うーん、大筋はそうなんだけどなあ。
どうやって見せる?と、あれこれ考える。夫が「オレだって辛いんだ、家族抱えて会社辞められないし」なんて口に出すのはヤボの極み。妻が会社に出かけて行って、夫の苦労を見る、というのは横道に逸れちゃいそうだし、独り言じゃコワイし…うん?
語るのはヤボ、独り言はコワイ。では、その中間は?
動物好きの人なら、絶対に覚えがあるはず。「コイツに言っても分からないだろうなあ」と思いつつ、犬や猫に話しかけた事が。
猫よりは、やはり犬。一応付き合ってくれてるような顔をしてくれそうだし、また人として「犬」と呼ばれたらかなり惨めだ。「おまえは今日から猫だ」では、なんの事やら分からん。
で、犬登場。これもキーパーソンかもしれないけど、とにかく飼い犬に「おまえは気楽でいいよな」と話しかける夫を見てしまって、妻は「犬さえも羨ましいのか、この人は」とショックを受ける。
と、言う事は、彼女は「犬よりはマシ」と自分の境遇を感じている訳で、鎖で庭に繋がれた犬を見て、「まだしも自由だ」なんて考えて…、「犬よりも自由」。
名前には魂が宿る。タイトルが決まれば、もうこっちのモノ。


そして夫は「犬よりも、不自由」という言葉が、主人公の心が動くキーワードになる。
と、冒頭シーンは庭に繋がれた犬の姿、かぶさる主人公のモノローグで「少なくとも私はコイツよりはマシ」。
…ホラね、ぶっつけ本番じゃ、描けないのよ。

ところでこの「犬よりも自由」は、犬以外にもう一名、キーパーソンがいた。
あまりに脇役なので、私も忘れていたけど、主人公のパート先の、先輩パートのオバサン。
顔が恐くて、セクハラ上司の事を主人公に注意しようとして誤解を受けるが、実はいい人。
最初は伏線くらい用意しとこうか、くらいな気持ちで、普通のオバサンにこの役を当てていたんだが、なんとなくグズグズした気分が抜けず、この顔にしようと思い付いた途端に、やはり心の霧が晴れた。
これくらいでないと、セクハラ上司を信頼し切って同僚の忠告に耳を貸さない主人公の行動に、説得力が無い…なんてのは2次的な理由で、やっぱり絵的に笑ってもらえそうだったからかな。
そしてラスト、実はいい人だったというオチも、見た目が恐ければ恐い程効いて来るでしょ?
ヤー様風が実はいい人、とかって、パターンではあるけどね、わりと好きかも。
余談だけど、今通っているスポーツジムに、この人を少しスリムにしたみたいなオバサマがいる!この頭でこの顔で、腰にベルト巻いて重量挙げやってるのよ!
スゴスギル。

キーワード、もう一言。
「メビウスは笑う」このタイトルは、お気に入りだな。
この時の雑誌の出して来たテーマは「理想の男性」だった。
変わった理想像を追求するヒロイン。モテモテの父親に離婚して去られたトラウマで、2枚目で楽しい男は信用できない。見た目はサエなくて、無口で無骨な男性が理想、なんとか見つけて結婚に漕ぎ着けるが、結婚式当日、急にアカ抜けて来た新郎を見て、結婚前の父が野暮ったい内気な男だったと聞かされ、「こんなハズでは…」と青くなる。
と、話はできたものの、やはりイマイチ、もう一声欲しい。
ボンヤリTVを観ていたら、「メビウスの輪」が出て来た。これじゃん!
テープをひとねじりして八の字(あるいは無限大)型に両端を貼付けると、テープの表をたどっているうちに、いつの間にか裏面を撫でている、という特殊な形の輪。
表(モテる男)はイヤだから裏(サエない男)を取ったつもりが、気付けば手の中には表(モテそうな男)が残っている…と。そういう皮肉を、「笑う」という言葉に込める。
すっかり気を良くして、見開きでメビウスの輪を描いた上、ページ隅に「メビウスの輪の作り方」まで分解図付きで載せてしまった、お調子者でスミマセン。



キーワード、キーパーソン 終

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