雨竜沼湿原
北海道に転勤になる前、会社の人に「雨竜沼は良いですよ〜」と言われていた。
近いようで遠いように思っていたこの湿原。登山口までは車でおよそ2時間。登山口から湿原までも歩いておよそ2時間。。。
まぁ日帰りでも行けるのか、ということで、ちょうど良い今の季節、有休を取って出かけてきた。
登山は・・・ガイドブックによれば、「体力的に厳しくない初心者向けコース」とのこと。
しかし、きつかった(苦笑)。
でも、その登りを終えて視界の向こうに湿原が見えてきたときには・・・感動です。
クガイソウにトンボが停まっています。
登山中には傍らで急流をなし、見事な滝さえ見せてくれた流れですが、湿原の中では同じ川とは思えない様相で、ゆったりとたゆたっています。
その流れの中では、さまざまな水生植物を養い、エゾサンショウウオの幼生の姿も見えます。
同じ「水」なのに、その流れ方によって育まれる命の種類はまったく異なったものになります。
水上に茎を出す抽水植物、水面に葉を浮かべる浮葉植物、水中にゆらめく沈水植物。
水生植物の代表的な3態がすべて見られます。
私の大好きな風景です。
すごく微妙な環境傾度の中で、おのおのがせめぎあいつつもバランスの取れた配置を見せる。
「遷移」と呼ばれる過程で今後も変化していくものですが、そうであればこそなお一層、今のこの姿のかけがえの無さ、美しさが感じられるように思います。
それはまた、スケールこそ違え、地球全体でも同じことだと思うのです。
もう8月に入っていたので、湿原の代名詞ともいえるエゾカンゾウの黄色い花はほとんど見られませんでしたが、かわりにタチギボウシの紫の花がたくさん見られました。
花の咲き方、色、形、ここにも生命の多様さが見て取れます。また、それを利用する昆虫たち、それを食べに来る鳥たち、獣たち、その息吹も感じられます。
そんな中をゆっくりと歩いているだけで、自分の生き物としてのリズムが取り戻されるようです。
アブと戦いつつ、ですが(苦笑)。
池塘の造形も不思議です。まんまるで、しかもその中にポコっと島みたいになっていたり。
足元の高さにあるかと思えば、すぐ隣では目線の高さに近かったり。
その成り立ちの頃から眺めている神々は、さぞ楽しいことでしょうね。うらやましいな。
全景です。神々の庭、と表現したくなるのが良くわかります。
左手前の上流側から右奥の流出部まで、およそ数km。
考えようによっては、“たったこれだけの広さ”の中に、ものすごく複雑な生き物の世界が形成されていると言えます。
他のものと比較した言い方をして良いのかどうかわかりませんが、ここがいかにかけがえの無い貴重な場所かは感じてもらえるのではないでしょうか?
環境というのは、のぺっとして広く一様で単調な場所もあれば、こうして狭い中で多様な姿を見せてくれる場所もあります。
どちらが重要、ということではないとしても、環境に対する関与のあり方としては、当然違った態度が必要でしょう。
「日本」という国がどんな環境を有しているのかを、もっと多くの人に知って欲しいと思いますし、そのためにはこうした場所をいかに保全し“利用”していくかというのはとても重要なことと思います。