――絆の橋、永遠の朱〜AFTER DAY〜――




「うん、結構上手く撮れてるじゃない」

 後日出来上がってきた写真は結構な量になってた。
 36枚撮りのを3個分もあるから見るのも大変だわ。
 冷静に考えると現像代だって馬鹿にならない額だったんだけどまあいいかな。

「え〜、背景が全然写ってないよー。2人のアップばっかりなんだもん」
「確かに。これじゃ何処で何をしてるのか解りにくいね」

 藤村先生と、またしてもイリヤに呼び出された綾子がそんなふうに文句を言ってる。
 うーん。反論出来ない。はしゃぎ過ぎた感はあるわね。
 私だけしか情景が思い出せない写真になっちゃった事は反省しますー。

「くすっ。でも素敵な写真だと思いますよ。ね、イリヤちゃん」

 桜は一枚一枚丁寧に見ながら写真を回している。
 虎と2人で色々突付いてくるかと思ったけどそんな事は無かった。

「そうね。取りあえずこんな所じゃないかしら?…あ、凄い逆光ねこれ」

 ん。
 あは、やっぱりか。イリヤ、それは失敗じゃないから貸して。アルバムにちゃんと入れておかなきゃ。
 受け取ったそれはホント凄い逆光。何とか表情が見て取れるくらいで、かなり赤く焼かれている。
 なのにどんなに素敵な風景や技術に優れた写真でも、これには敵わないと思う。
 想いがありったけ詰まってるから。

「それって橋んトコで撮った奴か?」

 横から覗いてきた彼の顔がすぐさま優しく緩む。

「うん。残しておいた方がいいでしょ?」

「もちろんだ。そのうち今度は皆で撮りに行こうな」

「え。みんなで?」

 寝転がって写真を眺めていた藤村先生が元気に跳ね上がってきた。
 目がやたら輝いている。やっぱり子供っぽいのか大人なのか微妙な人ね。

「ああ。藤ねえも桜もイリヤも。美綴と一成もな」

「…おい、あたしまで一緒なのか」

「出来たら頼む。俺は美綴と一成は大事な友達だと思ってるから、一緒に写ってる写真くらい欲しい」

 出たわね直球。あらー綾子、ちょっと赤くなってる?

「う…。まあ時間があったら写ってあげてもいいけど」

 たまに可愛いわよね貴女。だから好きよ。

「そうそう、アヤコは大切な友達だからねー」

 貴女のその台詞には裏が多すぎる。白い小悪魔めぇ。
 …そう言えば。

「ねえイリヤ。面白かったからいいんだけど、何でカメラなんて渡してきたの」

 何か企んでると思ったものの、その中身が全く思いつかなかったので単刀直入に訊いてみると。

「…馬鹿ね。いずれあなた達に持って行ってもらうために決まってるじゃない」

 少し呆れたような顔で私と士郎に視線を投げてきた。

 ――。
 あー、なるほど。
 いちいちやり方が面白いわね。
 ロンドンに行く時のプレゼントみたいなものなんだ。
 その支払いの殆どが私持ちだったんだけど。それなら幾らでも払うわ。

「オーケー解ったわ。なら尚更皆でいっぱい写真撮らないとね。協力してくれる?」

「ええ。私もちょっと写真手元に持っておきたいから次回以降は焼き増しお願いね」
「それはわたしも欲しいー」
「あ、出来たら私にも…」
「そう言われると仲間外れは嫌だな、是非貰っとこう」

 あはは、この先の現像・焼き増しの代金が大変な事になりそうね。








 全ての写真が収まったアルバムをぱたんと閉じて、士郎が立ち上がる。

「よーし、こんな所か。じゃあ俺、庭掃いてくるかな。さっきから落ち葉がすげえ」

「うむ、頑張れー。…あ。ちょっといい事思いついたっ」

 そう言って今度は藤村先生が、黄色と黒の残像を残す勢いで何処かへ。
 残った面々は士郎がせっせと働いている様子を眺めながらのんびり。

 しばらくしてこんもりと葉っぱの山が出来上がった頃。

「たっだいまー。うふふー。やっぱ一度はコレやんないとねー」

 お帰りなさい…うわ。何ですかその大量のさつま芋はっ。意図は汲めましたが量がっ。
 というかその顔の方が既にホクホクに焼きあがってます、先生。

「うふふ。じゃあ私はお茶を淹れますね」

 桜まで何だか小躍りしちゃってる。あっという間に戦闘態勢なの?
 …太るわよ?いえ私も食べるけど。



 よく枯れた落ち葉は簡単に火が付いて、放り込まれた芋を大した時間もかからないうちに暖めてくれた。
 皆で縁側に座って、言葉少なに出来上がった物から頬張る。

「ああ…平和だ、怠惰な程に」

 モクモクと食べながら綾子が空を見上げる。平和だ、というより焼き芋美味しいーの方が表情に多い気も。

「ええ。平穏そのものだわ」

 応えたイリヤも空を見る。つられて私も顔を上へ。


 水色に一条、煙が真っ直ぐ昇っていく。
 さっきまで落ち葉を舞わせていた風も無くなり、小鳥のさえずりがよく届いてくるそんな穏やかな日。

 心躍るイベントも、今日みたいなどうって事無い毎日も同じ様に積み重なって。
 そうして新しい日を迎えるための自分を創っていくんだと思う。


「もう1個食べようかな」
「ん。ほら」


 誰より好きな人の傍で、素敵な人たちと一緒に居られる幸福をまたアルバムに収めた。