おじぎパンダ  

 

サプライズ

 大川平八郎の甥に当たる大川グループの跡取り大川亘が31歳で結婚することになった。お相手は彼と同じ年齢。四井グループの令嬢。それのお披露目が表参道にあるセント・ジャーニー大教会である。キリスト教徒でもないが、教会で式を挙げる。宗教にこだわりのない日本人ならではの挙式である。日本には神社仏閣が混在している。日本人は宗教にこだわらない風土がある。日本人は何事にも寛容な精神を持ち合わせており、狭い地域社会の中で人間関係を築いてきたのである。
 式の出席者は新郎の親族は250人。新婦側の親族は250人。総勢500人ほどの2大グループ上げての一大セレモニーである。
 しかし、挙式の最中、これから夫婦の宣誓をする段になり、新婦の元彼と思われる男が会場に乗り込んできて、花嫁の手を引いて教会から連れ出してしまった。あれよあれよの出来事であった。

「あれ、これ? 昔、卒業という映画で観たことあるよな。それと同じだよ」
 平八郎はそう思った。会場の中は騒然となっていた。式場のスタッフも前代未聞の事態に混乱していた。しばらく、誰もがその場に立ち尽くしていた。スタッフはどう対応していいものか、と集まっている。何となく、状況を把握できてくると、それぞれが口を開いた。
「これはどういうことですか?」
「花嫁は何処へ行かれたのですか?」
「ああ、なんてことでしょう?」
「お前の教育がなっていないからだ」

 平八郎はそのそれぞれの言葉を一つひとつ、もっともだと思っていた。しかし、これは演出なのか。実は「ドッキリでした」なんて、展開になるのではないか。今の若者も何を考えているか分からない。平八郎は一人ほくそ笑んで、拍手して声を上げた。
「サプライズ、大いに結構、結構」
 平八郎の一言でみな、あ、とそれぞれが順に声を上げた。
「そうですよね」
「なるほど、サプライズか? それなら、しょうがない」
 平八郎の救いの言葉に誰もが安堵した。

 その頃、会場を飛びだした二人は手に手を取り合って、満面の笑みを浮かべ、街の中を走っていた。

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