可愛い子には旅をさせろ

 

 イチローは人気の花形ショーマンである。毎日、観客に愛想をふるっている。その姿態が大好評だった。つい、50年ほど前、インドの山奥から東京にやってきた。

彼は宇宙人だからとても長生きしている。彼自身によれば推定年齢は現在53歳になる。彼自身、自分の正確な年齢を知るすべがない。生まれた所は遙か20光年先のM78星雲という星らしい。名前はウルトラ・セレブらしい。彼の両親はとても厳格な夫婦であった、と思われる。彼ら夫婦のモットーは、可愛い子には旅をさせろ、だった。そのいきさつは乗ってきた宇宙船に搭載されていた立体映像出力器により知ることができた。

立体映像出力器で両親はこう語る。

「セレブ、立派な男になって戻っておいで、待ってるぞ」

父と名乗る男は立体映像から呼びかける。その隣で、母と思われる女がハンカチを片手に涙目をしている。

「待ってるわよ」

そう、語りかけるだけの映像であった。時間にして1分ほど。宇宙船は直径30センチほどの球体で、地球で言うところのバスケットボールにどこか似ている。立体映像出力器は直径5センチほどの球体であった。これは地球で言うところのピンポン球に似ていた。この球体をさすると、映像が球体の中に現れた。イチローには小さいので見るのに一苦労ではあった。M78星雲はかなり高度な文明をもつと思われる。そして、この宇宙船は後2947年後、M78星雲に帰還するようセットされていることも分かった。つまり、3000年も旅をするようセットされていた。随分長命な宇宙人もいたものである。かりに、3000年生きたとして、この宇宙船に大人となって成長したイチローには乗り込むことができないことも分かった。彼はこの星で言うところの象と言われる動物と同じ姿であった。かなり、この惑星の大多数の人間という動物より身体が大きい。両親はイチローの成長を夢見なかったのか。今日もイチローは玉乗りショーの役にしか立たなくなった宇宙船を玉乗りをしながら、ちょっぴり、両親のことを恨めしく思うのであった。

 

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