
いじめ対策会議
「皆様、早速ですが、最近のいじめ問題をどう対処するか考えたいと思います。では、会議開催に当たり、文部化学賞いじめ対策室から前島室長にご挨拶をお願いしたいと思います」
集まった全国の校長たちが一斉に拍手をした。そのとき、ドアがバタンと大きな音をあげて開いた。
「いやあ、すんません。電車を乗り過ごしまして、ほんま、すんません。しっかし、山奥の学校の私まで、このような晴れがましい会合にお招きいただけるなんて。でんも、うちはいじめなんて、ありましぇんからねえ。妙案、思いつきませんがねえ」
山邑久郡山奥村の分校校長である草なぎの声は、広い会場にこだました。それだけ、言い終えると持っていたタオルで顔をぬぐった。
「あれえ、わいの席はどこかいなあ」
司会の小田島が黒縁の眼鏡をつり上げていった。
「この田舎もんがああ。今、前島室長がご挨拶をされているところだぞ」
「あんれまあ、すんません。席はどこでっしゃろう?」
「この、田舎ものがあ」
「ありゃ、すんません」
しかし、空いている席が一つもなかった草なぎ校長は、3時間にわたる会議の間、ふらふらしながら立っていた。走ってきたことも災いし、急性心不全を起こし、その場に倒れた。
「この根性なしがあ。だから、田舎ものは呼べんなあ」
「そうですなあ、迷惑な話ですよ」
列席の校長たちは口々にささやきあった。救急車で病院に運ばれたが、翌朝、誰にも看取られずに息を引き取った。草なぎ校長の遺体は警察の遺体安置所に置かれ、3日後、妻に引き取られ、故郷に引き取られていった。後から分かったことであるが、草なぎ校長の席は初めからつくられていなかったそうである。
3ヶ月後、文部化学賞が全国学校長いじめ対策をプレス発表した。
「これでいじめはなくなります。では、発表いたします」
集まったメディアのフラッシュを浴びている前島文部化学室長の姿が輝いていた。
(了)
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