リング後

 



   
リング後

「ねえ、いろんなウエブリングがあるよ」

 健一は妻の雅子にパソコンを見つめながらつぶやいた。

「何なの、そのウエ、ウエブリング、って」

「ああ、ネットでいろんなサイトがあるだろう。その同じようなサイトが手を繋いで輪になろう、って言う奴なんだ。リングって言うの。ちょっと前、リングって言う怖い映画が話題になっただろ? このビデオを見たら1週間以内に3人に見せないと、見た奴は死んでしまう。いたずらだと思っていたけど、それが違っていた、貞子という女の怨念の念写だった、と言う小説なんだけど、映画にもなって大ブレイクしたんだ」

「あ、あれね。ふーん、そうなんだ。昔の話ね。それで、何か得するの」

「そうだなあ、得ってほどじゃないけど、連帯意識みたいなものが生まれるんだよ」

「そうなの、それじゃ、あたしたちも何か作る? そう言うの」

  *

 それから、1週間後、健一と雅子はテレビの前に座ってニュースを見ながら、お茶をすすっていた。いつものようにいろいろな事件が放送されていた。

「大変です。ここ霞ヶ関にあります警視庁は今、空前絶後の犯罪者の自首に驚いております。史上まれに見る大量検挙となることでしょう」

 続々とパトカーが庁舎に集結している。車から犯罪者らしき者が手錠をはめられて庁舎内に連れられていく。

「今、入った情報ですが、この一斉逮捕は全国規模で行なわれているようです」

 カメラは別の警察署の玄関を写し出した。

「こちらでも犯罪者の逮捕者が連れられてきております。それが、不思議なことにそろって死にたくない、と叫んでいるようです」

 健一はテーブルの上のリモコンを持つと、テレビのスイッチをオフにした。

「ねえ、あたしたちの作ったビデオ、随分と役に立ってるじゃないの」

「ああ、まだ、1週間しか経ってないよ。それにたった2人に配っただけだよ」

 健一はビデオをデッキに挿入した。前髪を振り乱し、白装束の雅子がのそりのそりとゆっくりはいずって近づいてきた。最後にテロップが出た。

「1週間以内にこのビデオを3人に見せないとおまえは死ぬ。ただし、警察へ行って、今まで犯した罪を洗いざらい話せば助かる。どんな小さな罪もだ。嘘だと思うなら…ガガガガカガーザー」

 途中でテープはノイズが入って終わっていた。

 2人は沈黙した。健一がビデオのスイッチを切って、テープをデッキから取り出す。その様子を見ていた雅子の唇がわずかに震えていた。

「ねええ、あたしたちさ… 2人しか配ってなくて、3人に見せてないけど、だ、だ、大丈夫よね… 」

「ば、ばか、これ、俺たちが作ったんだぞ。大丈夫さ、大丈夫に決まってるじゃないか。ははあは…は、 雅子は心配性だなあ… 」

 そのとき、消したモニターの画像に何か写った。午前0時、ビデオを作った2人が、ビデオを1週間前に見た時間だった。

「きゃー」

  *

 翌朝、茶の間にあるテーブルでうつ伏せて動かなくなった健一と雅子がいた。しばらくして健一が顔を上げた。

「おい、雅子、朝だぞ」

 健一が雅子の腕を揺するが少しも動かない。

「ふふ、実は、俺はあんなビデオなんて、初めから見てなかったのさ」

 椅子から立ち上がった健一はテーブルから離れようとした。上着の裾を引っ張られた。その方向を見ると、顔を上げた雅子が、まさに鬼のような顔をして服の裾を引っ張っていた。

「何ですって、リング作ると、連帯意識が生まれるですって? 」

「うわあ、怖いよお。ごめん、許してえええええ… 」

 健一にはリングより怖い結末が待っていた。

 

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