
子宝神社
淳子はOL3年目に、同じ会社の5つ上の先輩とめでたく結婚した。その夫とも結婚して5年が経ったが、何故か赤ちゃんが授からなかった。産婦人科で検査したが、二人とも異常はなかった。
「ねえ、あなた、どうして、あたしたちには赤ちゃんができないのかしらねえ」
「こればかりは天からの授かりものだからなあ。どうにもならんよ」
「こんど、お参りに行ってみない? 」
「お参り? 」
「そう、天からの授かりものなら、神様にお願いしてみましょうよ」
そう言ったのは、思いつきではなかった。淳子は母に子宝の神様に頼みに行ったらおまえが生まれたんだよ、と言われたことがあった。もともと、生まれにくい体質の家系なのかも知れないと淳子は思った。
神社をインターネットで調べてみると、都内にも幾つかあった。中央区の水天宮、豊島区の鬼子母神、千代田区の日枝神社、などなど。驚いたことに淳子の町内にもあったのである。
「あら、近くに神社なんかあったかしら」
淳子は自転車に乗り、家を飛び出していった。メモした住所と地図を見比べながら、目的の住所に辿り着いた。
「間違いなくここだわ」
辺りを見回すが、神社らしき境内も社も見当たらない。
「あら、おかしいわねえ」
淳子のメモした住所の番地はふつうの住宅だった。表札を見た。なんと、子宝神社と書かれている。
「なによ、これ? 」
インターホンのボタンを押す。すぐに返事が返ってきた。
「どちら様ですか? 」
「あのう、子宝神社ってこちらでよろしいんでしょうかあ」
「はい、ご足労様でございます」
しばらくして、神主の装束を着た男が出てきた。おもむろに、持っていたハタキを右に左に振り回した。そして言った。
「子授け、子宝、縁結び、ふにゃらあかあ、以上。これでもう安心。はい、祈祷料ね」
「え、あのお… それで、おいくらなのでしょうか? 」
男は黙っていた。淳子は持っていたポケットの小銭を渡した。
小銭を受けとると、男はドアを閉めて家の中へ消えてしまった。
数日後、町内から逮捕者が出たという噂が聞こえてきた。例の子宝神社の男が宗教法人法違反で摘発されたのである。インターネットに自分の住所を載せ、宗教法人登録もせず、やってきた女たちから多額の祈祷料を取っていたのである。
「払うほうも馬鹿よね。胡散くさいって、普通、思うわよ、絶対」
しかし、不思議なことに淳子は1ヶ月後、子宝を授かった。そして、騙された女すべてが子宝に恵まれたのであった。
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