超空手家一郎太列伝

 

 大八一郎太は門下生36億飛び21名を数える空手界の重鎮である。年は6歳と若い。親の跡を継いで最高師範を名乗っているが、名だけではなく、とても強い。あらゆる格闘技大会に出場し、「秒殺」の異名をとり、相手を瞬時のうちに倒した。

 一郎太の父・権衛門はこの流派を開祖した達人である。しかし一郎太が4歳の時、すでに幼い息子に歯が立たなかった。

「一郎太、おもちゃで遊んだら片づけなければいけないよ。悪い子はお仕置きだ」
 権衛門が一郎太の手を取り、軽く手をはたこうとしたとき、権衛門は一郎太に投げ飛ばされた。権衛門の体は宙を舞い、天井に突き刺さり、1ヶ月の重傷を負った。もう、この時点で一郎太に敵はいなかった。

 権衛門が完治し、退院してきた晩、一郎太に言った。
「武芸者たるもの、心身一体優れてこそである。であるからして… 」

 言い終わらずして、権衛門は天井高く投げ飛ばされ、上半身はまた天井に突き刺さった。今度は2ヶ月の入院となった。

 以後、権衛門は退院後、何も言わず、相談役に退いた。6歳にして、大八流最高師範となった一郎太であった。

 

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