狼男

 



   
狼男

 

小学1年の娘にお父さんの仕事って何と聞かれて、わたしは一瞬答えることに躊躇したが、娘に秘密にすることもないだろうと思って、正直に、

「誰にも言っちゃいけないよ。狼男さ」

と答えた。きょとんとしてわたしを見つめていた。

「え、お父さん、狼男なのお? うっそー」

 驚いた娘は、一瞬沈黙してから誇らしげな笑みを顔に浮かべた。

「お父さん、かっこいいね」

 娘は顔を赤くした。

 わたしも誇らしかった。狼男をやっていて本当によかった、と思った。きっと、死ぬまで狼男をやるに違いない。

 そう思ってから、はっとした。私が死んだら、一体誰が狼男をやってくれるのだろう。そうだ、後継者を捜さなければならない。娘にやってもらおうかな、と思った。娘なのに、狼男はおかしいな。もともと、狼男の正体なんて誰もわからないのだから、娘でもいいかな。そんな気がしてきた。そう、私の父が狼男だって知ったのは、わたしが成人になったときだ。何となく、毛深かった。狼男っぽいなあ、とは思っていたが。私がテレビを見ていると、父はその横に座り、私をじっと見つめ、真剣な顔をして切り出した。

「こういち、私は狼男だったのだよ。だから、おまえも狼男になってほしい」

 突然の告白に私は驚いた。それから、私は父と一緒に、狼男をやり始めた。毎日、毎日、狼男をやった。優しい父にとって、狼男の仕事は厳しかった。夜な夜な、世間を騒がしていたが、ある時、銀の玉で、あっけなく撃たれて死んでしまった。わたしは狼男の仕事を呪った。

 いろいろ悩んだが、結局、わたしも狼男を捨てられなかった。わたしは狼男をやっている。これからも狼男だろう。娘が成人になったら、狼男になるように言おう。

 ウオオオー、かくして、満月の夜、狼男は雄叫びを上げるのだった。

 

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