打出の小槌

 

 少年が目を輝かせながら、父親に尋ねた。

「ねえ、父さん。幸せに暮らすにはどうしたらいいと思う? 」

「それは、何でも手に入る身分になることだなあ」

「そのためにはどうしたらいいのかなあ」

「まあ、勉強して頭が良くなることだなあ。いい大学にはいる。そして、物を作る会社に入り、画期的な物を発明するんだ。すると、それが売れてどんどんお金が入ってくる。お金が入れば何でも買えるから何不自由なく暮らせるってえ訳だ。分かったか? 」

「分かったよ。勉強して天才になるよ」

「おお、いい意気込みだ。そ、そうだな。そのくらい夢を大きく持たなければ駄目だ。そうだ、父さんはあんまり勉強しなかったからな。お陰で会社に入っても何も作れなかった。だから、給料も安いし、みんなに何かといろいろ不自由をかけてしまっている。本当にすまんなあ…… って、オイ何を言わせるのだ」

 父親の話を聞いた少年は、一生懸命勉強をした。そして、幾つかの製品を発明し、富と名声を得ていった。

少年も年を取りやがて老人になったころ、自分でも驚く発明をした。それは打ち出の小槌だった。一振りすると願ったものを何でも打ち出すことができた。大判小判はもちろん、ダイヤモンド、金塊、なんでも地上の物質を打ち出すことができた。人々は昔話でしか聞いたことのない打ち出の小槌の発明に驚いた。

「父さん、ついに僕は父さんが言う画期的な発明をしたよ」

 老人は父親と話した若かりしころを思い出し、打ち出の小槌を振り上げた。山吹色に光り輝く金塊が出てきた。振れば振るだけ出てきた。しかし、老人には金塊は重くて手に持つことすらできなかった。老人は考えて軽くて価値のあるダイヤモンドにした。たくさんのダイヤモンドを出した。早速宝石店によろけながらたどり着いた。

「どうだい? このダイヤ。ワシが作ったのだぞ」

老人のせいで、この後、ダイヤの価格が暴落して全く価値はなくなった。

彼は部屋の中の金塊がじゃまなので、運送業者に運ばせることにした。運送業者がやってきた。

「どうだい? すごい金塊だろ。ワシが作ったのだぞ」

その後、金塊の相場が大暴落して全く価値がなくなった。老人は考えた。価値のある物は作りすぎると価値がなくなる。

彼は手っ取り早くお金を出すことを思いついた。1時間降り続け、彼の周りには1万円札の山ができた。早速手提げ鞄に詰め込んで玄関を出た。

庭にパトカーが数台止まっていた。

「おお、警察が警備に来てくれたのか」

「はい、また貴金属を作られたのですか? 」

 彼は警官に愛想を振る舞いながら鞄のファスナーを開いた。

「どうだい、すごい札束だろ? ワシの発明で作ったのだぞ」

その場で、彼は通貨偽造の罪で現行犯逮捕されたのだった。

 

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