ある愛情

 


 男は関取のごとく肥満していた。彼の妻が毎日天塩にかけた料理を作ってくれるのだ。
「ねえ、これも食べてね」
「うーん、もう、お腹が一杯だよ」
「まあ、やっぱりおいしくないのね」
「そんなことないよ。ほら、もうおいしくていくらでも入るよ」
 男は女と結婚してから毎日食べ続けている。半年間で20キロは太った。
「まあ、そんなに太ったの? そうね、時々運動したほうがいいわ」
 男はローラー式ランニングマシンを買って、定期的に運動を始めた。1年後、彼は妻と外出した。何かの大会だった。男は見事グランプリを受賞した。
「あなた、やったわね」
「ありがとう。でも、これ何の賞なの? 」
「養豚コンテストよ」
「え、あっ、そうだった。僕は豚だったんだ」
「そうよ。動物翻訳機ができて良かったわね、あなた」
 女は満面の笑みを浮かべ、男をひざの上に抱き上げてから、くの字に折れ曲がったかわいい耳に頬擦りするのだった。


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