初日の出

 

 毎年、丸山恵子さんの一家は、元旦を迎えるのが楽しみです。それは、家族そろって、同居人、一郎さんの運転する車で、二時間ほど走ったところの筑波山へ初日の出を見に行けるからです。もう何年も丸山家の行事になっていました。

 午前二時ころ、一郎さんが、目覚ましのベルを止めます。恵子さんも起きました。一郎さんが、小学六年と三年になる子どもたちを起こします。いつもどおりです。

「さあ、今年も行くぞ!」

 そう声を掛ける一郎さんは、いつも元気一杯です。子供たち二人は、寝ぼけてゆらゆら体を動かして眠そうに起きていました。それでも、丸山さん一家は毎年行きます。家族は新年の初日の出を見られることに感謝しました。

   *

 やがて八年が経ちました。

 午前二時、一郎さんは、寝ているうえの男の子を揺り起こしました。すると、

「ごめん。俺、今日予定あるんだ。だから、行けない」

 上の男の子は、そういうと布団をかぶって寝てしまいました。一郎さんはがっかりしました。

 今度は、下の男の子の寝ているところへ行って、布団をぽんぽんとたたきました。すると、布団の中から声が聞こえてきました。

「……ごめん。僕、今日、友だちといくところがあるんだ…」

 下の男の子も、蒲団をかぶって寝てしまいました。一郎さんはとぼとぼと恵子さんのところへ行きました。

「みんな、行かないってさ…」

「もう、みんな大きいんですもの。仕方ないわ」

 恵子さんが悲しそうに言いました。一郎さんは、毎日仕事に追われ、会社でほとんど寝泊りするような毎日です。休日は月回と元日だけが休みでした。政府から家族交流の日ということで決められていました。もちろん、恵子さんも何年もパートをしていましたが、子ども二人を抱えて、収入はたかが知れていました。一郎さんが丸山家を支えていました。恵子さんは一郎さんに随分支えられてきました。二十一年前、彼女の夫は、恵子さんと二人の乳飲み子を残し、交通事故であっけなく死にました。その後に一郎さんがやってきてくれたのです。今では、家族同然です。一郎さんとの思い出のアルバムも三十冊以上になりました。

   *

 玄関のチャイムがなりました。

「福祉事務所ですが、引き取り作業に参りました」

 男の声が聞こえました。一郎さんと正月番組のテレビを見ていた恵子さんは慌てました。

「もう見えたのですか?何だか、法律とはいえ、厳しいんですのね」

「仕方ありません。母子世帯が自立できるようになるまでの公的援助ですから。母子支援事業法第三十六条により、お子さんたちが自立され、生活も安定し、父親型アンドロイド・一郎さんと初日の出を見に行かなくなったところで、支援の廃止となっていますので…」

 二十二世紀、ロボットに替わり、人間と同じ心を持つアンドロイドという新人類が誕生した。一郎さんもそのうちの一人である。人手不足に困った政府は、アンドロイドを開発した。

一郎さんは、また、次の生活困窮世帯を助けるため新たな任務につく。

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