透明人間

 誰かが声を掛けて来る。ふと、後ろを振り返ると、透明人間が立っていた。なぜ、透明人間がいたかが分かったかというと、俺にはなんとなく分かった。声も透明で、まるで聞こえない。けれど、俺にはそいつの言葉を理解する事ができた。そいつは、盛んに話しかけてきた。よほどうれしかったに違いない。奴が言うには、気がついたら、透明になってしまったらしい。毎日、いろんな人に話し掛けているが、誰も分かってくれない。どうやら、俺は声を掛けた12,346人目の男らしい。奴はとても喜んでいた。

 俺もうれしかった。透明な俺の存在に気がついてくれたのだから。

 

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