子悪魔

 

 手鏡を2枚用意し、夜中の12時、2枚の鏡をきっちり30cmの距離に置きます。脇からそっと覗いて下さい。遠くから黒い影が近づいてくるのが見えるはずです。それは紛れもなく子悪魔です。捕まえることができれば、貴方の下僕となり、願いは必ず叶えられるでしょう。

「本当かよ」

 小太郎は手にしていた「悪魔召還」の本を閉じた。その夜、小太郎は本に書かれていたとおり、鏡を置いて、脇から覗いた。なにか黒い物体が矢のように通り過ぎて行った。

「何だ! 今のがそうか?

 鏡の間に頭を入れ覗いたが、自分の頭が鏡の中いっぱいに広がって何も見えない。自分の顔が果てしなく続いているだけだった。

 次の夜も、鏡の間を通り過ぎる黒い物体を見ることはできたが、それが何か分からなかった。手鏡を姿見に替えてみた。12時になっても、何も変化は起きなかった。やはり手鏡でないと駄目らしい。

 次の夜、手鏡で12時同時に手を入れてみた。子悪魔は現れなかった。

「タイミングが合わないと駄目なんだな」

 小太郎は子悪魔が通る時間を計ることにした。ビデオカメラをセットし撮影した。スロー再生すると、黒い物体が通り過ぎるのは見えるのだが、はや過ぎて何かはやはり分からなかった。しかし、この物体には尻尾があることが分かった。1mほどある。それが通りすぎるのに0.5秒ほど掛かっている。通過開始時間は12時ちょうど。

「この尻尾を掴めばいいな」

 次の夜、小太郎はついに子悪魔を捕まえることに成功した。

「この野郎、忙しいのに何しやがる!

 尻尾を掴まれながら子悪魔は、小太郎を見て文句を言った。

「あれ、俺の下僕になるのではないの?

「馬鹿野郎!

 子悪魔は悪魔召還の本を見つけて、フムフムとうなずいた。そして、最後のページを広げ、小太郎に見せた。

「発行日を見やがれ。いつの本だと思っているんだ!

「30年前のだけど」

「馬鹿野郎! 時代は変わってるんだよ!

 子悪魔はぷんぷん怒って、鏡の中に入っていってしまった。

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