物質転送装置

 

 これは、乗物を使わず、自由に行きたい所へ行けたら、そんな夢を追う男たちのドラマである。

 

「先生、物質転送装置が完成しました! 」

 目を丸くした向山助手がFax電話らしき物を抱え、東山博士の研究室へ駆け込んで、叫んだ。下がった眼鏡を上げながら東山博士は向山の抱えている機械を見た。

「わしには、ただのFax電話に見えるけど…… 」

「先生、まあ見てください」

 向山は機械を電話モジュールジャックに差し込んだ。

「この書類をここへ入れ、転送ボタンを押します」

 書類は徐々に薄くなり、影も形もなくなった。そして、もう1台の機械にぼんやりとした形を現し、ついに先ほどの書類がくっきりと形を現したのである。それを目の当たりにした東山博士は肝をつぶした。

「やったじゃないか、向山くん! 君はノーベル賞ものだよ」

 東山博士は興奮して叫びながら、向山助手の手を握り締めた。向山は肩を落としながらつぶやいた。

「しかし、ただ一つ欠点があります」

「ほー、何かね? 」

「残念ながら、今のところ、書類しか転送できないのです…… 」

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