終末

「大統領、点火スイッチを押しましょう!」
 彼は執拗に迫る。
「我々が優秀なことを思い知らせるべきです。あんなゴミども、この世から抹殺するのです」
 私はまだボタンを押せない。私は黙っている。
「さあ、大統領、すぐにスイッチを押しましょう。
我々民族が滅ぼされる前に先手を打つのです。
奴らを放っておいては、我々はいつか侵略されるのです」
「……」
「さあ、一刻も猶予できません。あいつらは東京湾をすでに侵略しています。東京湾がなくなってからでは遅いのです」
 私は時計を見る。十時ちょうど。
「ねえ、点火スイッチ押すけど。小林君さあ、きみがSFオタクだということは分かるよ。
でも、いちいち焼却炉の点火スイッチ押すたびに、そういうの止めてくれないかなあ。
清掃局での点火時間は十時って、決まってんだからさ」
   (了)

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