傘 「わ、雨だ。」 ざぁざぁ。 晴れていたのに、突然の雨。 「通り雨だよ。」 うん。そうだよ。 でも私はそんな事口に出さない。 出せない。 きっと覚えてないんだろうなぁ。 今朝お母さんに言われて折り畳み傘入れたこと。 記憶にないんだろうなぁ。 ざぁざぁ。 雨、一向に降り止む気配ナシ。 「…最悪。」 嫌そうな顔をする君。 君は雨が嫌いかも知れない。 でも私は雨好きだよ。 ううん。大好き。 だって雨の日には君に会えるじゃない。 朝から雨が降ってる日には会えないけど、でも。 でもこういう日にはいつも会える。 いつも一緒にいれる。 ぽたり、ぽたり。 「うぁ〜…。ジメジメする。」 雨、止んじゃった。 太陽みたいな笑顔。 もう高校生なのに、すごく幼くみえる。 小さい頃からずっと見続けたその顔。 「…紗英に電話すんの忘れてた。」 ふと、思い出したのか鞄の中の携帯を探す。 「マジかよ…」 そう言って苦笑いする君。 やっと私に気づいてくれたのね? ぽんぽん。 私を二回かるく叩いて、携帯を出す。 ぴっ。ぴっ。 「あぁ、紗英?ちょっと聞いてくんない?」 電話の向こうから聞こえる女の子の声。 …私が人間だったらよかったのに。 ふと、頭をよぎった。 戻る。 入り口。 |