12.罪


「なんでお前はいつもいつも遅刻ばかりなんだ!!」
「ご…ごめ、なさい…。」
「いい加減にしろよ!!入学してから一ヶ月なのになんで16回も遅
刻するんだ!?」

「電車に乗り遅れて…、道に迷ってたお婆さんが居て…」
「っはぁ…。分かった。もういい。教室に行け。」



私は成瀬菜子(なるせなこ)。さっき怒っていたのは同じクラスの
真田紀伊(さなだきい)。

彼は風紀委員で私は遅刻常習犯。
私何かしていると何かしら失敗を起こしてしまう。

今日の朝もいろいろと大変だった。
言い訳に聞こえるかもしれない。嘘だと思う人もいるかもしれな
い。
…だけど本当なのだ。私は昔から要領が悪い。
いつもなにかしら失敗をしてしまう。
幸い人に害を加えるような事は今までした事がなかった。
だけど今は真田君に迷惑をかけている。
その御陰で彼の苦労が増えている。
人に迷惑をかけている。







それが私の罪。






ガヤガヤとうるさい教室に入ると、石井愛理(いしいあいり)ちゃんが
話しかけて来た。
「菜子ー?今日も何か失敗しちゃったの?」
「愛理ちゃーん…。」
「また真田に何か言われた?」
「ううん。また私が失敗して遅刻しちゃって、迷惑かけちゃった
の…。」
「菜子はいつも一生懸命なのにね…。どうしたものか…。」
「ごめんね…、ありがとう。」
「HR始めるぞー。みんな席に着けー。」
「それじゃあ愛理、また休み時間に。」




HRが終わり、授業が始まり私が当てられた時だった。
「きぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
…そう。私は教壇につまづいてずっこけたのだ。
それとともに起こる爆笑。先生の苦笑い。
真田君の怒ったような怖い顔・・・。
ごめんなさい。ゴメンナサイ。






神様お願いです。私に要領の良さを与えて下さい。











それは休み時間に起きた出来事だった。
もうすぐ試験だと言う事でのんびりと歩きながら考え事をしてい
た時だった。
「おい。」
「はっはい!!何でしょうかぁ!!」
 そういいながら振り向いた瞬間の出来事だった。

バシャ

「…熱い。」
私は運悪く真田君にぶつかってしまった。
「きぁぁ!!ごめんなさい!!大丈夫!?」
「大丈夫じゃない。」
「…ごめんなさい」
泣きそうになりながら一生懸命拭いてたら真田君は言った。




「お前さぁ。やる事なす事迷惑なんだよ。人にすんごい迷惑かけ
てんだよ。それが分かったらもう離せよ!?」




そしてバッと私を振り切って真田君はさっさと行ってしまった。
私はその背中を呆然としながら見送る事しか出来なかった。
その背中を見送りながら必死になって今言われた言葉を整理し、
…泣かないようにするだけで精一杯だった。




「…ごめんなさい。」




誰も居ないのにその一言を呟いた。
その途端に涙が溢れて来た。
「う…ふぇ…っ、ふ…ぅ…。」
カタカタと何故か体が震える。
申し訳なくて…真田君にも申し訳ないけど、
皆私のやる事なす事で迷惑がっていると思った。いや、分かった。
泣き止もう泣き止まなければと思うのだが涙が止まらない。



「成瀬さん…?どうした?何で泣いてるんだ?」



突然話しかけられてビックリして誰かと顔を見たら、
それは…同じクラスの稲田隼人(いなだはやと)君だった。
「稲田君…?ど、してここに居るの?」
「あぁ。彼女待ってるんだ。」
「あ…そうなんだ。」
「何俺に惚れてたとか?……嘘です。んで何で泣いてるの?」
「え…あの、その…、いろいろとあって、で
「何で泣いてるの?」
有無を言わせないような顔でニッコリと微笑まれたらもう何も言
えなくなった。


「真田君に…ぶつかって、飲み物かけちゃって、それが熱くて、
真田君が、お前のやる事なす事迷惑で、皆迷惑してて…」


「…ちょっと待った。それ本当に真田が言ったの?」
「うん…。」
「ふーん。あいつが…ね。」
「ごめんなさい…。」
「んー。別に成瀬さんのやる事を迷惑だなんて思っている人はい
ないよ?」
「でも真田君は言ってた…。」
そう言ったらまた涙があふれて来た。
「大丈夫だよ。真田も本気でそんな事言った訳じゃないと思うし」
ぽんぽんと私の頭を撫でながら稲田君は言った。


突然ドアが開いた方を見たらそこにいたのは友達の井上遥(いのうえ
はるか)だった。



「隼人ぉぉぉぉぉ!!あんたはそんな可愛い女の子を何泣かせてるの
よ!?」



…え?彼女って、彼女って遥の事だったの?
「菜子!!こっちにおいで!!私がそいつぶっ殺すから。」
「え!?違うの。その真田君と…」
「真田ぁぁぁ!?あいつ何所に居るの?それじゃああいつを…」
「え…?え。あの」
遥はなんだかカンカンに怒ってて、暴走し始めていた。



「…遥サン。少しの間俺とお話しましょうね?」



「そんな暇はなぁぁぁぁーい!!…ふごっ!?」
…遥はズルズルと稲田君に引きずられながら教室の外に消えて行
った。
「あ!!そうそう確認したい事があったんだ。」
「何?」
「成瀬って真田の事好きだよね?」
「ふぇ!?そんな事言われたってわからないよぅ…。」
好き!?私そんな事考えた事ない…。毎日が忙しくて一生懸命で…。
「…そうか。でも俺から見たら成瀬はどうみても真田が好きなん
だと思うよ?」
「…そうなの?」
「だって成瀬が真田の話をする時ほとんどが笑顔だもん。」
「ぇぇぇ////」
そんなに私って分かりやすい子だったの???
「そうなのかなぁ…?」
「多分そうだと思うよ。それを両方に分からせるために作戦たてる
からちょいと待ってて?」
「ふぇ?う…うん。」
何の作戦なんだろう…?まぁそれはともかく遥って稲田君と付き合っ
てたんだ…。
私の知らない事がどんどん増えて行く。不安も増えて行く。
焦りが始まる。その御陰でヘマをし、…皆にも真田君にも迷惑をか
ける。
…私がいなければ皆は落ち着く?
そんな取り留めの無い事を考えてた。



「成瀬さん長らくオマタセイタシマシター!!作戦立て終わったから
ねvv」



「終わったの?」
「それでわ今から計画ジッコー!!」
「えぇ!?今からぁぁぁ!?」
「うんvvそう。今遥に呼びに行ってもらってるから♪」
「誰を…?」
「内緒vv後でのお楽しみー☆」
いったい誰なのだろうか?
「もう少ししたら来ると思う。成瀬さんにとって悪い事にはならない
から安心して?」
「う…うん。」
「それとちょっと抱きしめたりするかもだけど驚かないでね?何もし
ないから。」
「え…???でも…」
「大丈夫。絶対に遥は怒らないから。」
「うん…。」
「それでわ今から作戦ジッコー!!」









「菜子…。俺と付き合わない?」
「へ…へぁ?」
「真田に泣かされたりした時は絶対に俺が守るから…。」
な…何を稲田君は言い出すのだろう?
わけが分からない。頭がグルグルする。
「だから俺のものになって…」
「あ…あの…。」
言葉を発そうとした誰かに瞬間グイっと腕を引っ張られて抱きしめ
られた。



「まてよ!!」



「何かな?真田君?」
真田君…?
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?何でここに真田君が居るの???」
「…お前は黙ってろ。」
「菜子を離せよ。そいつは俺のだ。真田のものじゃない。」
「だがお前の物でもないだろう?」
「今俺は菜子に告白した。菜子?俺と付き合うよな?」
「え…!?あの…」
「ふざけるんじゃねえよ。こいつは俺がずっと見てたんだよ!
だからお前と付き合わせたりしない。」
「でもお前にとって菜子は迷惑の対象なんだろう?だから今日酷い言
葉を言ったんだろ?」
稲田君の言葉が苦しい。真田君に言われた言葉を思い出してしまう。
「…真田君ごめんなさい。もう私迷惑かけないから…。」
最後は泣き声になりながらの言葉になってしまった。
「違う。…俺になら迷惑をかけてもいい。あれはカッとなって言った
んだ…。本当は…」
その言葉を言い終わる前に稲田君はまた突然言った。


「あとはお二人でどうぞー。俺はさっさと遥と帰るからねvv」


「っな!?」
「俺はお前が素直になれなくて成瀬を泣かせたから言っただけ。
さて、じゃあララバイ☆」
風のように稲田君はさって行ってしまった。





後に残された私達は二人で固まっていた。




「あのね、稲田君は遥と付き合っててるの。」
「うん。なのに何で成瀬が告白されたんだ?」
「なんか二人で作戦を立てたらしくて、私には内容教えてくれなく
て…。」
「…ふーん。なんとなくは分かった。」
そこからの時間がとても長く感じられた。



「…成瀬は稲田が好きなのか?それとも好きな奴ず居るのか?」



突然真田君は聞いて来た。
「なんで?」
「いや。ちょっと気になってな。それで居るのか?居ないのか?」
何でこんな事を突然聞いてくるのかわからなかったが一応答えた。
「ううん。別に居ないよ?」
「そうか…。なら言うけど…その…。」
どうしたんだろう?いつもの真田君らしくない。
…私また何かしちゃったのかな…?
「何でまた泣いてるんだよ…。」
「ごめんなさい…。迷惑…ば、りで、」
「違うんだ…。お前が迷惑かけてくるのは別にイヤじゃない。」
「でも…。な・・んで?」

「なる…菜子が好きだから。」

そう言ってギュっと真田君は抱きしめて来た。
「…でも…。さっき…」
「あぁ…。さっきは悪かった。その…お前が火傷したらどうにもならな
いからもっと注意しろって優しく言えばよかったのに反対の言葉が出て
きた…。」
そうだったんだ…。
…ちょっとまて、私今告白されたんだよね?…どうしよう…。
一気に顔か真っ赤になってくる。
「それで返事はくれないの?」
真田君が顔を私の目線に合わせて聞いてくる。
「えと…あの、ですね、」
「あと十秒のうちに言わないとどうなるかしらないよ?」
「でも」
「じゅう」
「あの」
「きゅう」
「ちょっと」
「はち」
「待ってよぅぅ」
「なな」
「す…」
「ろく」
「…」
「ごー」
…このさいだ!!言ってしまえ菜子!!


「私は真田紀伊君が好きです!!」


「本当か?」
…本当に好きです
恥ずかしくてとても小さな声で言ったけど聞こえたみたいで、
「今日から俺の物ね?
真田君にそう言われて嬉しがっている自分も居て。
「え…と。うん」
「じゃあ手始めに一緒に帰ろうか?」
一緒に帰ろうと言われて心を踊らせる自分も居た。
「うん。」
「荷物取ってきな?」
「うん!!」
そうここで油断しては駄目だったのだ。


「にぃああああ!!!!???」


「…菜子」
私の目には溜め息を着いている紀伊君が視界に入っていた。




こんな子クラスに一人はいそうですよね?
いつもドジをしてしまう可愛い子。