09.冷たい手


なんで?何で私をおいて逝ってしまった の?
言ったじゃない。病気なんかで死なないっ て。
いつでも微笑みながらあなたは言ったよ ね。
なのにあなたは逝ってしまった。
悲しいよ。
あなたが居たから私は人を好きになれた。
あなたが居たから私は愛しいと言う気持ち を知れた。


あなたは私が強いとよく言って居たね。本 当は違うんだよ?
あなたが居たから私は強くなれたの。
だからあなたが居ないと私は弱いまま。
置いていかないで…。戻って来て…。
あなたが居ないと私の価値なんてないも同 然。


私はあなたの死際に間に合わなかった。
私が病院についた時。あなたはすで に・・・.
そして握った私の大好きだった温もりのあ る手。
でもその時握っていた手はすでに冷たかっ た。
その手を握った瞬間私の心も凍てついた。
もう誰にも心は開かない。人を愛さない。


神様。お願いです。私の最初で最後の願い をどうか聞き届けて
下さい。

あの私の愛した男の人を・・・浅羽佑司 (さはゆうじ)を返して
ください。














私の願いも虚しく佑司は帰ってこなかっ た。
…うん。叶うはず無いと分かっていた。
でも諦めたくなかったの。

私はあなたの前で泣かないと誓ったよね?
それは私よりあなたの方が苦しいはずだから。
ただ悲しみを我慢していただけ。

…けどね今だけは泣いていいよね?
約束を一度だけ破らせて?
一度だけ。それが過ぎたらもう泣かないから…。
もう感情なんかステテシマウカラ。













あれから二年が経った。私は高校二年生になった。
だけど私の心は二年前のままだった。
いつまでも佑司の事が頭から離れなかった。






「渡辺さん。ずっと好きでした。その…俺とつき合って下さ
い。」





何故私をスキだと言うの?もっといい人がいるじゃない。
ずっと好きだったと言っても本当はそうでもないクセに。
…もう私は誰も愛せない。ごめん。
もっといい人を探して?
そう。もう私なんかにかまわないで。
お願い。誰も私の痛みを消さないで…。

私と佑司をつないでいる物はもうこの心の痛みしかないの。
これだけが絆。私と佑司との永遠の絆。
心の軋む音と痛みだけが繋いでくれている。
苦しいけど仕方が無い。
これが私の選んだこと。



「渡辺?」
話し掛けて来たのは同じクラスの安藤裕葵(あんどうゆうき)
だった。
「…何。」
きっと私はものすごく怪訝な顔をしているのでしょう。
長年ずっと悩んでいたら笑うと言うことも微笑み方すらも忘
れてしまった。
思い出そうなんて考えないけど。
「大丈夫?もう暗いし雨も降ってきそうだから帰ったら?」
そう言われて外を見ると確かにそうだった。
あの時と全く同じだ。
湿っぽい風。真っ暗な外。
…そして学校の空気。









クルシイ。モウイナクナッテシマイタイ。









「イヤだ!!!!!」
「渡辺?」
「イヤだイヤだ!!!なんで?置いていかないで!!佑司!!佑司…。」
「渡辺落ち着けどうし…」
「何で?何で死んじゃったの?どうして?私が傍にいなかった
から?
私の所為で?ゴメンナサイ…。謝るから帰って来て!!!!!」
「渡辺!!!!!おい!?」


そのまま私は意識を手放した。










10分程気を失っていたのか私は保健室にいた。
…寝ている間に私は夢を見ていた。
そう。佑司と会った最後の瞬間だった。


薬の匂い。白い病室。風になびくカーテン。機械の音。
隣にはいつもの様に穏やかな笑みを浮かべた佑司。
「夏樹(なつき)」
「何?佑司」
「夏樹…。」
「だから何よー?」
いつもの様に佑司の病室で林檎を剥いていた時の事だった。



「俺きっともうすぐ死ぬ。」




「何馬鹿な事言ってるのよ?」
「馬鹿な事なんかじゃない。本当だ。分かるんだ。」
「佑司…?」
「…」
いきなり言われた言葉に私はただ驚いていた。
佑司は今まで死ぬとかそういう言葉を聞いたことがなかった。
いつも病気と戦っていた佑司が初めて弱気になった瞬間でもあ
った。
「何言ってるのよ!!私が傍に居る限りは絶対に佑司は居なくなら
ないわ?
だって私がずっと捕まえておくもの。」
本気だった。ずっといつまでも佑司の傍に居る気だった。
佑司さえ迷惑じゃなければいつまでも。

でも私が望んだ答えを佑司は返してくれなかった。

「夏樹…。ありがとう。俺が死んでしまった後必ず幸せになって
くれ。」
「ゆう…」
「聞いて?夏樹。俺はいつまでも君を愛して居る。ずっとだ。天
国に逝った後も。
でもこの言葉が重荷になった時は…今言った言葉を忘れてくれ。
できれば俺の事も。それだけだ。」
「佑…っふ…ぅ…」
涙がとめどなく出て来た。
「ごめん…夏樹。」
その後佑司は何も言わなかった。
ただ抱き締めてくれていた。
「気掛かりだし悔しいよ。きっと夏樹の事を誰かにとられてしま
う。
でもそれで幸せになってくれるのなら本望だ。」
「いや…。お願い居なくならないで…。」
「ごめん…。」



その次の日。佑司は居なくなってしまった。




「渡辺だいじょうぶかー?って何で泣いてるんだよ…?」
「安藤には関係ない。大丈夫だからほうって置いて。」
「イヤだ。心配だもん。もうすっかり真っ暗になっちゃったし送っ
ていく。」
「別にいい大丈夫だ。」
「強情。意地はるんじゃない。そんな顔してると幸せになれないん
だよー。」
「うるさい!!」
…図星だった。前にも佑司ににそう言われたことがあった。
「なんで急に怒るんだよ?」
「私の事なんかほうって置いてよ…。優しくしないで。
私の事なんか居ないと考えて。近寄らないで。」
「渡辺・・・?」
「誰も癒さないで。私に触らないで。佑司を消さないで。」
「…佑司って誰?」
「あなたには関係ない。」
傍に置いてあった鞄を取って立とうとしたらまだ余韻が残っていてフ
ラっと来た。


「危ない。やっぱり送っていく。」


そう言って有無を言わせないようにスタスタと玄関まで手を引かれて
行った。
「離してよ!!」
「イヤだ。離したら消えちゃいだからイヤだ。」
「あんた私の家知らないでしょう!?だからついてくるな。」
「何で知らなかったら送っちゃ行けないんだよ?」
「とにかく嫌なの!!離せ!!」
「もう黙れ!!」
そう言って私の口を塞いだ。
安藤の口で。
「やめてよ!!!何でこんな事するの!?最低。」
「最低でもなんでも結構。」
そう言って私を家に送るだけ送って安藤は帰っていった。









「お姉ちゃんあれ彼氏?」
妹が聞いて来た。
「違う。」
「やっぱり…か。」
妹はわかっていたかのようにいった。
「何よ?」
「だってお姉ちゃん変わらないから。佑司君が死んでから。」
図星だった。ほんとぅにそぅなのだ。あれから私は変わらない。
変わってしまったら佑司を今度は私がおいていくことになるから。
「…うるさい。死んだなんて言わないで。」
つい口調が強くなってしまった。
「…ごめん。私もう寝るね?おやすみ。」
いつもいつも上手くいかない。歯車が噛み合わない。
何もかもが駄目だ。私は佑司がいないと駄目なのだ。



それにしても安藤。あいつはいったいなんなのだろうか…?










こういうお話書きたくて…。
なんかとても書いてて切なくなります。