01.はじめまして


「はじめまして。安西秀(あんざいしゅう)です。どうぞよろし
く」
そういった彼。さらさらの髪。吸い込まれそうなほどに奇麗な
瞳。
とにかく全てにおいて私刈穂野枝(かりほのえ)の好みのタイプ
だっ
た。
この瞬間に私の頭は春になった。



そして休み時間。早速彼の好みを聞くべく彼の席へと急いだ。
そして一大決心をし彼に聞いた。
「あ…安西君!!初めまして刈穂野枝です。」
「ハジメマシテ」
彼の口から発された感情のこもっていない言葉
「あの…私あなたに一目惚れです!!好みのタイプを教えて下さ
い。」
好みのタイプを聞くだけのはずだったのに告白までしてしまっ
た…。
真っ赤になってしどろもどろしていたら彼は言った。
「お前と正反対のタイプがスキ。お前ウザいどっか行け。」
私の春だった頭に一気に冬が来た瞬間であった。



「佳代ーどうじよう…。」
さんざん泣いて鼻水を啜りながら言った。
「そりゃあいきなりあんな事言われたら困るっしょ。」
優しいお母さんのような顔をして言った。
「うわぁぁぁん」
「はいはい。泣きなさい。」
泣きながら思った。絶対に私は奴の事を諦めない…と。



「安西君おーはーよー!!」
「オハヨウ。朝からうるさい。いっぺん死んでこい。」
う…。やっぱり性格がきついわ…。
でも負けないも!!
「やだ!!死んだら安西君に会えないもの///」
言っちゃったよ!!また告白もどきをしてしまったゼ。
「俺別にお前に会いたくないしどうでもいいよ」
…そういって彼はさっさと行ってしまった。
その後ろを当然のごとく追いかけていく私も私だが。



「あはははははは!!!」
腹を抱えて笑い転げる友人。
「そんなに笑わないでよぉぉ。」
朝の事を佳代にしたら爆笑されてしまった。
言うんじゃなかった…。そう後悔した夏の出来事であった。








そのまま夏休みに入ってしまった。
私は勿論彼の家は知らない。電話番号だってわからない。
なんだかとても虚しい気分になった。
そんな時に電話がかかって来た。
『はお野枝。明日暇?』
佳代だった。スケジュール帳を覗くと特に何もなかった。
「うん。ひまひまだよー。」
『ならさ、明日映画見に行こうよ☆』
そういえば見たい映画があったんだよな…。
「うん!!行くー。」
『じゃあ明日十時に駅前でね♪』
「了解。じゃあバイバイ」
『うん。まぁ楽しみにしててよVv』
そして電話はきれた。
最後の含みのある笑いが多少気になったが…。



「のーえー!!」
佳代が息をきらして走り寄ってくる。
「遅刻だよ佳代。」
そう冷たく言い放つ私。
「まぁそう怒るなって。今日は折角スペシャルゲストを用意した
のに。」
「スペシャルゲスト?」
「うん。この方々ですーVv」
そこにいたのは同じクラスの赤井君と…安西君だった。
「安西君!!!と、赤井君。こんにちは。何々どうして?佳代の道連
れ?」
「あぁ…。まあそうだな。」
少し苦笑しながら言う赤井君。
ものずこく不機嫌そうな顔をする安西君。面白そうな顔をしてい
る佳代。

…そして安西君が居ることにものすごく喜んで満面の笑みの私が。

「さぁ映画を見に行こー!!!」
佳代の言葉で沈黙の時間は終わった。





「あぁー。楽しかったねぇ!!」
真っ赤な顔で話し掛ける私。
「何でお前はそんなに無駄に元気なんだ…。」
そういって目も会わせてくれない安西君。
今私達は2人だけでいる。
何故かと言うと…


**数分前**
「ねぇ野枝。私と赤井君付き合ってるのよVv」
満面の笑みで言う佳代。その隣で固まる赤井君。
ただただ驚いて口が開いたままの私。
別に驚きもしない安西君。
「だから私赤井君と二人で行動するからVvいじょ!」
そう言って脱兎のごとく赤井君を引きずりながら佳代は行
ってしまった。




だからそこに残された私達が必然的に一緒にいると言うこ
とだ。




「ねぇねぇ!!安西君どこかこれから行きたい所ある?」
ドキドキする心臓を押さえながら私は言った。
「別にない。しいていえば早く家に帰りたい。」
にこりともせずに易々と言い放つ安西君。
ちょっと気分が滅入ってしまった。
「そっか…。じゃあ帰る?」
「あぁ。」
「あ゛…。うん。わかった。バイバイ」
このままだと泣きそうなので走り出そうとした。
すると腕を引っ張られた。
「送っていく。」
この一言ですぐに元気を取り戻してしまう私って一体…。
「ありがとう」



それから家までの帰り道はあっと言う間だった。
私がいろいろと質問したり。結局は彼に適当にあしらわれ
たけど。
ただ一つだけはっきりと言ってくれたことがある。


「いつになっても私の事はスキになってくれないの?」

ものすごい勇気をだして聞いたこと。

それにあっさり答えてくれた彼。

「最初に言ったはずだ。お前みたいなタイプは嫌いだと。」




聞くんじゃなかった。あとからあとから涙が出てくる。
胸が締め付けられる。息が出来ない。
苦しい。すごく苦しい。
こんなにスキなのに伝わらない。
お願い。お願いよ神様。彼の心を私に頂戴。









そのまま新学期に突入。あの映画の時以来彼に会ってない。
言葉も交わしていない。
彼と話してしまったら私は諦められなくなる。
「野枝…。」
心配そうな顔をしている佳代。今は誰とも話したくなかった。



「このクラスに刈穂野枝って居るよね?」



いきなり私の事を訪ねてくる男の子が居た。
「あの…私ですけれどあなたは誰?」



「俺はねー、 荒谷純(あらやじゅん)って言うの。突然だけどス
キです。つき合って下さい。」


私の頭はその瞬間にフリーズしてしまった。
なにせ告白なんて初めての体験だし、ほとんどの人が私が安西
君を好きなこと知ってると思ってたし、
なによりこんなにモテそうな人が私に告白してくるなんて思い
もしていなかった。
しかも皆が居る教室内で。安西君の方を見ると彼は普通に本を
読んでいた。
ズキンと痛む胸。改めて彼にとって私は必要ないのだと実感。
でも私はもうきっと彼しかスキになれない。
そうわかった。否、分かっていた。


「ごめんなさい…。私にはす…きな人が居るので気持ちに答え
られません。」


だから断った。彼とつき合うと大切にしてもらえる。そう分か
ったけど。
「そっかあ。まあ知ってたけど。好きな人って秀の事だろ?」
「う…ん…。」
クラスの皆や安西君が居る前で言わせないでほしい。
その時安西君は言った。

「俺はお前をスキになることは一生ない。だから純とでも付き
合えば?」

私の心は壊れた。何かに壊されたような気がした。
コトバによって傷つけられた。
私が伝えたコトバが返って来た。
ほら今まで平気だったじゃない。いくら嫌いって言われても。
なんで…?

「あはは…。安西君らしいね。ごめんね」
「わかってたんじゃないのか?…おいお前」
これ以上居ると泣き顔を見られてしまうと思ったから私は話し
を遮った。
「ごめん。今までスキで。今も大スキだけど私あきらめるよ!」
精一杯の笑顔で言った。きっと変な笑顔だったんだろうな。
「安西!!あんたふざけるな!!!!」
佳代が怒ってる。どうしたのかなぁ?
もう私には関係ないのかな…。そう思った。
私は教室から出て屋上に向かった。


ここなら誰も居ない。だから泣ける。
「っ…。」
私あんなに嫌われてたんだぁ。笑っちゃうよね。
でも笑えないよ。だって初めて本気でスキになった人だもの。
あんなに素敵な人なんだもん。
安西君がこれまでズバズバと言ってくれたのはきっと優しさ
だったんだ。
こういう風になるから俺なんかやめとけって意味だったんだ。
あーあ。安西君悪者にしちゃったよ。
「許して。迷惑かけるのはこれで最後にするから。」
空に向かって呟いた。

「別に平気だけど。」

空が喋った…?違う聞き覚えのある声。大スキな人の声。
後ろを向くと大スキな人が居る。幻覚なんかじゃない。
なんでわざわざここに来たのだろうか。
後ろの夕焼けがとても奇麗な瞬間だった。
「どうして…。」
「俺ね、基本的に冷たい奴なの。」
うん。知ってる。
「嫌いな奴は徹底的に嫌いなの。」
…うん。
「でもな、愛情表現下手なんだ。だから気になる奴には酷い
言葉しかかけられない。」
何が言いたいのかわからない。安西君の考えてることが理解
出来ない。
「そうなんだ…。」
「お前鈍いんだよ。今言ったことを今日中に理解しろ。そし
たら俺もその気になるから」
そう言って彼は行ってしまった。




一人になって考えた。
言葉の意味を。
『でもな、愛情表現下手なんだ。だから気になる奴には酷い言
葉しかかけられない。』
『お前鈍いんだよ。今言ったことを今日中に理解しろ。そした
ら俺もその気になるから』
この二つの言葉。よく考えてみたらおかしいよ。
まるでまだチャンスがあるみたいな言い方。
期待を持たせるような言い方。


大スキな人がくれたラストチャンス。
それを私が見逃すはずが無い。


彼の背中を探しながら私は慌てて屋上から駆け降りて行った。








やっと探しあてた彼の背中。
その背中に抱き着きながら言った。


「秀君大好き!!」




「知ってる。」
彼は言った。その日彼の笑顔を久しぶりに見た。
「俺は冷たいけどいいの?」
「知ってる。」
「覚悟しとけよ?」
大スキな彼が言った言葉に私の心は踊る。








強烈な片思いでした。
やっぱり最後はハッピーエンドだけどねVv