《 優しい心 》



神子との逢瀬は夜が多い。
神子が光の苦手な私を気遣ってくれているのだ。
いつも思ってしまう。何故、怨霊である私にこの様に優しく接してくれるのだろうかと。
以前、神子に問いかけた事があった。
すると神子はこう答えた。

『それは、私が敦盛さんの事を好きだからですよ』
と、にっこり微笑みながら。


私の事が・・好き・・・?
ありえない、その様な事など・・・
嬉しいと思う反面、信じられないという思いの方が強かった。
だが、神子は嘘を吐く様な人ではない。
先程の言葉は、信じてよいのだろう。
この身が怨霊などではなく、生身の身体ならば・・と、この時程後悔した事はなかった・・・



「敦盛さん」
「神子、私に何か・・?」
「はい。今夜、神泉苑へ行きませんか? ぁ・・敦盛さんの都合が良ければ・・の話しですけど・・・」
「神子が望むなら、同行しよう」
「わぁ、ありがとうございます」

嬉しそうに微笑む神子を見て、つい私も微笑んでしまう。
何故だろう・・・?神子と共に過ごしていると、自然と微笑んでいる自分がいる。
悪い気はしない。ただ、怨霊となってからは笑う事などなかった。
だから、不思議な感じがするのだ。
兄上と戯れていた頃を思い出す・・・
あの頃はこうしてよく笑っていた・・・
そんな事を懐かしみながら、神子と出かける刻限を待った。

「敦盛さん、行きましょ?」
「あぁ、分かった」

私達は景時殿と朔殿の邸を出て、神泉苑へと向かった。

「月が泉に映っていて綺麗ですね」
「神子の様だ・・・」
「えっ?」
「いや・・何でもない・・・」

思わず口から出てしまった言葉に頬が熱くなるのが分かる。
優しくやわらかな月の光がまるで神子の様に思えたのだ。
ただ、それだけなのだ・・
それだけなのに、何となく気恥ずかしい感じがする。

「敦盛さん、今夜も笛の音を聴かせてくれますか?」
「あぁ、私の笛の音で良いのならば」
「敦盛さんの笛の音がいいんです」

そう言って神子は泉の淵に腰掛けた。
私の笛の音を聴く態勢に入っているのだろう。
神子はいつでも私の笛の音を所望する。
私は神子が望んでくれる事が嬉しく、神子の為に精一杯その音色を奏でる。

「敦盛さんの笛の音って、いつ聴いても綺麗ですね」
「ありがとう、神子・・ 私には笛を奏でる事くらいしか出来なくて・・すまない・・・」
「どうして謝るんですか?これだけ綺麗な音色を出せるなんて凄い事ですよ?
 誰にでも出来ることじゃありません!」
「み・・神子・・・」
「私だけじゃなく、敦盛さんの笛の音が好きな人ってもっともっといると思うんです」
「そ・・そうであろうか・・・?」
「きっとそうです」
「神子がそう言うのならば・・・ありがとう、神子」

神子の言葉がこんなにも嬉しいと思う。
神子はいつでも私の心を温かくする言葉をくれる。
神子、貴女という人は不思議だ・・・

「敦盛さん、一つお願いがあるんですけど・・・いいですか?」
「神子の・・願い?」
「はい」
「私にできる事ならば・・・」

神子の願いとは何であろう?と思いながら神子の隣に腰掛ける。

「敦盛さんの髪型ってとても不思議ですよね?」
「そ・・そうだろうか?」
「う〜ん・・そう思うのは私だけなのかもしれないんですけど・・・
 あぁ、それで、その髪を解いたらどうなるのかなぁ〜って考えてたら、気になっちゃって・・・
 きっと、長いんだろうとは思うんですけど、どうしても見てみたくて・・・
 それで、敦盛さんの髪を解いてみても良いですか?」

私は神子の願いの内容に驚いた。
まさか、私の髪の下ろした姿を見たいなどと・・・
その様な願いだとは思ってもみなかったから・・・

「あの・・やっぱり・・・ダメ・・・ですか?」

神子が遠慮がちに問いかけてくる。

「いや・・構わない。 では、解こう」
「待って!!」

結い上げていた髪を解こうとする私の手を神子が掴む。

「み、神子?」
「私に、解かせて下さい」
そう言い、私の髪に触れる神子。

「駄目だ、神子・・・怨霊である私に触れるなど・・神子が穢れてしまう・・・」

「敦盛さん・・敦盛さんは怨霊なんかじゃありません」
「神子・・・ありがとう・・だが、これは真実だ・・・」
「敦盛さんは誰よりも優しく温かい心を持った人ですよ」
「・・・神子・・・・・」

神子は私に語りかけながら髪を解いてゆく。
解かれた髪はさらさらと肩を滑り落ちてゆく。

「私は敦盛さんを怨霊として見た事なんて一度もないんですよ?
 いつだって、一人の人として見てるんです」

神子の細い指が私の髪を梳いてゆく。それがひどく心地良い。
神子の手で浄化されたいと願っていた私の心はいつしか変わっていた。

「敦盛さんの髪ってやっぱり綺麗ですね。それに結い上げてると分からないけど、
 こんなに長かったんですね・・・」
「私の髪よりも神子の髪の方が・・綺麗だと・・・思う」
「そんな事ないですよ」

私の髪に触れながら微笑む神子。
何故か神子を愛しいと思う。
これが・・恋心というものなのだろうか?

「神子・・・」
「はい、何ですか?」
「私からも、一つ願いがあるのだが・・構わないだろうか・・・?」
「はい、何でも言って下さい」
「・・・それならば・・・・・・」

私は、背後にいた神子へと向き直り神子をそっと抱きしめた。

「あの・・敦盛・・・さん・・・?」
「すまない・・神子・・・・少しの間、こうしていても良いだろうか・・・?」

私の行為に驚く神子にそう告げて、そのまま神子の温もりを感じていた。
神子は頷いてその身を私に預けてくれている。



神子、私は貴女に浄化されたいと願っていた。
だが、今は少しでも長く貴女と同じ時を過ごしたいと願ってしまう。
怨霊である私がこの様な想いを抱くなど、許されない事なのであろうが、
この身が朽ち果てるその瞬間まで貴女と共に居たいと望んで構わないだろうか?
神子はいつでも私に安らぎを与えてくれる。いや・・神子の存在そのものが
私にとって安らぎなのかもしれない。


神子・・私はこうしてあなたに触れていられるのならば、
怨霊である事も悪くはないと思ってしまう。
不思議だな・・今まであれ程、貴女に浄化される事を望んでいたというのに・・・


神子、今暫く貴女の事を想っていても良いだろうか?
私が初めて大切だと、愛しいと想った存在。
神子・・以前、貴女が私にくれた言葉を私も伝えよう。


『私も、貴女が好きだ・・・』と・・・




* * * * * * * * * * * 


BLUE BLUE MOON の華霞紫苑さまから頂戴した、敦×望SSですv
私が調子に乗ってしてしまったリクエストを、
こんなに早くいただけてしまうとは。あぁ、ありがたや〜・・・
怨霊である自分の存在に引け目を感じ、
つい後ろ向きに成りがちな敦盛くんに
包み込む様な優しさで接する神子ちゃまが
いいじゃありませんかv
髪フェチには嬉しいシーンもありましたし♪
最後のちょっぴり大胆な行動のあっつんに・・・いやーん/// 
>五月蝿いババァ

紫苑さま、素敵なお話をどうもありがとうございました!(ぺこ)

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