《 王様ゲーム 》



ある穏やかな昼下がり。
京の梶原邸で望美はちょっとばかり退屈していた。


「な〜んか暇だねぇ・・・少し退屈しちゃうな・・」
「ホント退屈そうだな、お前」
「あっ、将臣くん」
「んじゃ、ちょうど八葉も全員揃ってる事だし、ゲームでもやろうぜ?」
「ゲーム?」
「あぁ。久々に盛り上がると思うぜ?」
「いいけど、何をするつもりなの?」
「王様ゲーム」
「あっ、面白そう!」
「だろ?」
「うん。それじゃぁさ、白龍と朔も仲間に入れようよ」
「そうだな」


と、いうわけで望美・八葉・白龍・朔の十一人で王様ゲームをすることになったのだった。

「将臣・・『げぇむ』って何?」

ゲームという横文字を知らない白龍が将臣に問いかける。
白龍の問いかけに八葉と朔もうんうんと頷いている。

「あぁ、ゲームってのは『遊戯』の事だな」
「遊戯・・何かをして、遊ぶんだね?」
「そうだぜ。白龍は賢いなぁ」
将臣が白龍の頭をくしゃっと撫でる。

「それで、そのゲームとやらはどうやってやるのかな〜?」
「おっ、いい質問だな、景時。まぁ、口で説明するより実際にやってみた方が
 早いんだけど、ざっと説明しとくわ」
「宜しくね〜」
「王様と書かれた紙と一から十までの数か書かれた紙がそれぞれある。
 王様を含めて十一枚の紙のどれかがそれぞれの手元へと行くわけだ。  
 自分の手にした紙は決して他人に見せない事。そして『王様だ〜れだ』の掛け声で
 王様の紙を持ったやつが紙を見せて自分が王様だと証明する。  
 そして王様になったヤツは何でも好きな事を命令できるんだ。例えば
 『四番は俺に酒を持ってきて酌をしろ』とか
 『六番が十一番に肩揉みをしろ』とかな。  
 まぁ・・要するに王様の言う事を何でも聞くってゲームだ」
「ふぅん・・面白そうじゃん」

将臣の説明が終わると同時に口笛を吹き、楽し気な様子のヒノエ。

「言っておくが、王様は命令する時、必ず番号で命令しろよ?名指しは禁止な?
 そうじゃねぇと公平さに欠けるからな。  
 それから、王様の命令が終わってから該当者は紙を見せろよ?
 先に見せちまったら、相手を見て命令を考えちまうからな」
「御意〜ってね」
「兄さん、これ作っておいたよ」

と、譲が将臣に手渡したのは王様ゲームに欠かせない番号の書かれた紙。

「おっ譲、気が利くなぁ」
「ゲームの内容を知っている俺が説明を聞いていても仕方がないから、
 兄さんが説明している間に作っておいたよ」
「サンキュ」
「だけど、これを入れる箱か何かが必要だよな」
「そうだね・・ あっ!朔、あの壷、借りてもいい?」

望美が飾ってあった壷に目をつけた。

「えぇ、構わないけれど・・一体何に使うのかしら?」
「ゲームに使うこの紙を入れる為に使いたいんだけど・・」
「そうなの。いいわよ。持ってくるわね」

譲が作った番号の書かれた紙は四つ折りにされ、壷に入れられた。

「さぁ〜て、んじゃ始めるか」
「おい、将臣・・どの順でその紙を引くんだ?」
「別に誰からでもいいけどな・・面倒だから端からな。俺は最後でいいから」

と、順番に引いていった。
気になる順番は・・というと?
敦盛→ヒノエ→弁慶→リズ→九郎→景時→朔→白龍→望美→譲→将臣
という順だった。

「俺が『せ〜の』って声をかけるから、その後にみんなで『王様だ〜れだ』って言うんだぜ?
いいな?それじゃ行くぜ?せ〜の!」
「「「「「「「「「「「王様だ〜れだ」」」」」」」」」」」

「えっ・・えっ・・・私ぃ〜?」
「何だ望美、お前かよ・・まっ、一回戦には丁度いいんじゃねぇ?」
「そっ・・そんな事言ったって急には命令なんて思いつかないよ・・・どうしよう、将臣くん」
「どうしようじゃねぇだろ?そんなに深刻そうな顔するなって。何でもいいんだからよ」

まさか自分が王様になるとは思ってもいなかった望美は命令を何にするか
考え込んでしまった。
ちなみに皆の番号は以下の通りである。

王様:望美
一番:将臣
二番:リズ
三番:九郎
四番:譲
五番:白龍
六番:ヒノエ
七番:景時
八番:弁慶
九番:朔
十番:敦盛

「先輩・・まだですか? このままだとゲームが進みませんよ?」
「あ・・うん・・・ それじゃ、十番の人はお姫様の格好をして下さい。
 で、一番は十番の人のエスコート」
「望美さん、また聞きなれない言葉があったのですが・・・」
「あっ・・えっと・・・エスコートっていうのは・・・」
「簡単に言えば、相手の引き立て役ってコト」

説明に困った望美を助けるかの様に説明した将臣。

「で、俺が一番なんだが・・十番は誰だ?」
「・・・・・将臣殿・・私です・・」
「敦盛か・・(笑)」
「敦盛さんのお姫様姿・・見てみたいかも・・・きっと綺麗だろうね・・」
「俺と敦盛が逆だったら恐ろしい事になってたな(苦笑)」
「将臣くん、こうなったら将臣くんも正装してきてね?」
「な・・何だよ・・・後から命令付け足すなよ」
「ねっ、ねっ・・?お願い。将臣くんが正装したらきっとカッコイイと思うから」

両手を合わせてお願いする望美とその上目遣いにやられた将臣は
キッパリと断る事が出来なかった

「ったく、仕方ねぇなぁ。今回だけだぜ?」
「ありがと、将臣くんv 安徳天皇みたいな格好してきてね〜」
「はいはい・・」
「あの・・神子・・・」
「敦盛さんは十二単・・じゃなくて、女房装束ね〜」
「・・・・・分かった・・・」
「敦盛、行くぞ」
「あぁ・・・」

将臣と敦盛が望美の命令に従う為に部屋を出て行った。

「敦盛さん、もともと綺麗な顔立ちしてるから、きっと綺麗なお姫様に変身して来るよね〜」
「そうね。敦盛殿なら女である私よりも綺麗になって戻って来ると思うわ」
「姫君達は自分の美しさが分かっていないみたいだね。その美しさは男には敵わないんだぜ?」
「もう・・ヒノエくんったら・・・(////)」
「白の沙羅双樹が朱に染まったね」
「ヒノエ、望美さんをからかうのはそのくらいにしておきなさい」
「あ・・将臣と敦盛・・・」

白龍の一言で会話は停止し、将臣と敦盛の方へ皆の視線が集まる。

「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」

束帯姿の将臣と女房装束の敦盛の姿に一同絶句である。

「ま・・将臣くん・・かっこいい・・・・・」
「サンキュ。 って、ほら・・敦盛、扇で顔を隠してねぇで、顔を上げろよ」
「しかし・・・」
「扇、没収な・・」

将臣が敦盛の手からスッと扇を取り上げれば敦盛の顔が露になる。
薄く紅を差し、結い上げていた髪を下ろした姿はどこかの姫君の様である。

「敦盛さん・・綺麗・・・・」
「神子・・私は・・・男だ。この様な格好は・・恥ずかしい・・・」
「似合ってるぜ、敦盛」
ヒューと口笛を吹きながら敦盛に言葉をかけるヒノエ。

「敦盛、綺麗・・・」
「問題ない・・」
「いやぁ〜敦盛くん、見違えるよ〜」
白龍・リズ・景時も思わず感嘆の息を漏らす。

「みんな敦盛を見る目がヤバイぜ?」と将臣がニヤニヤ笑いながら言う。
「だって、ホントに綺麗なんだもん」
「それは認めるけど、敦盛は男だからな?」
「分かってるよ」
「なら、いいけどな」
「あ〜ん・・今ここにカメラがあればなぁ・・・」
「望美らしい意見だぜ。だが、それはないものねだりってヤツだぜ?諦めろよ」
「諦めきれないよ・・将臣くんはカッコイイし、敦盛さんは綺麗だし・・・あぁ、このまま
 何も残さないなんて勿体なさすぎるっ!!」
「気持ちは分かるけど、こればっかりは俺もどうもしてやれねぇな。
 さ〜て、敦盛に見惚れている所悪ぃけど、次・・行こうぜ?」


将臣の言葉で第二回戦の始まりとなった。

「せ〜の!」
「「「「「「「「「「「王様だ〜れだ」」」」」」」」」」」

「悪ぃ、王様俺だわ・・」
などと言いながら『王様』と書かれた紙をみんなに見せる。

王様:将臣
一番:白龍
二番:敦盛
三番:景時
四番:弁慶
五番:望美
六番:朔
七番:九郎
八番:ヒノエ
九番:譲
十番:リズ

「さて、それじゃ・・八番が四番に口付けな。 該当者は誰だ?(ニヤニヤ)」
「まっ・・将臣くん、何て命令出すのっ?(////)」
「何だ、望美が当たっちまったのか?」
「ち・・違うけど・・・(////)」
「何だよ・・だったら良いじゃねぇか」
「姫君が該当者から外れたとなると望みはあと一つ。もう一人の姫君だね・・」
「残念ながら、私は六番です」

と、朔がヒノエに番号の書かれた紙を見せる。

「チェッ・・って事は男って事かよ・・・」
「そういう事になりますね、ヒノエ」
「え・・まさか、弁慶・・お前か?」
「えぇ、そのまさかです」
「ま・・マジかよ・・・(汗)」
「コイツは面白い組み合わせになったな」
「将臣、面白がってんじゃねぇよ。男と、しかも相手が叔父である弁慶なんて
 オレはゴメンだぜ?」
「ヒノエ・・王様命令は絶対だぜ?(ニヤリ)」
「何で相手が姫君達じゃないのさ・・・」
「それがこのゲームの面白い所だぜ?」
「将臣殿・・」

朔が遠慮がちに声をかける。

「ん・・何だ?」
「あの・・殿方同士での口付けはその・・見ている私達も恥ずかしいというか・・・」
「仕方ねぇな・・ヒノエ・弁慶、百歩譲って手の甲に口付けで許してやるよ。
 朔に感謝するんだな」
「やれやれ・・それでも口付けには変わりないけどね・・まぁ、それで手を打つよ・・・
 ありがとう、黒龍の神子姫様」
「助かりましたよ、朔殿」
「オレの唇は美しい姫君達だけの物なんだけどね・・・」
「ヒノエ、僕だって不本意なんです。 さっさと終わらせてしまいましょう。
 そして、次こそは王様と書かれた紙を引いて、好きな命令をすれば良いんですよ」
「弁慶・・お前のその笑い・・怖いんだけど・・・」
「当然ですよ・・こんな屈辱的な事をする破目になるなんて予想外でしたからね」
「(うわ・・弁慶ヤバイ・・・)んじゃ、いくぜ?」
「えぇ、どうぞ・・・」

微笑んではいても目は微笑んでいない弁慶の手を取り、ヒノエは弁慶に口付けた。

「ほら、これでいいだろ? さぁ、次行こうぜ?次・・」
「あはは・・^^; ヒノエくん随分と張り切ってるね・・・」
「当たり前だろ?オレが王様を引いたら好きな命令できるんだからな・・・」
「ヒノエくん、何か良くない事考えてるでしょ?」
「あんな事とかこんな事とか? ふふっ。鋭いね、姫君は」
「バカッ!違うよ(////)」
「姫君、頬を染めて何を考えているんだい?」
「もぅ〜、からかわないでっ!(////) ほら・・次、行くんでしょ?次・・」


第三回戦開始

「せ〜の!」
「「「「「「「「「「「王様だ〜れだ」」」」」」」」」」」

「私・・だよ?」
「白龍?」
「うん・・・」
王様になれなかったヒノエと弁慶はがっくりと項垂れている。

王様:白龍
一番:景時
二番:朔
三番:望美
四番:リズ
五番:九郎
六番:敦盛
七番:将臣
八番:譲
九番:弁慶
十番:ヒノエ

「白龍の命令はどんなの?」
「えぇと・・・三番の人が五番の人を優しく抱きしめて」
「(三番って私じゃないっ!よりによって白龍、何て命令出すのっ!!
 五番って誰なんだろう・・?
 みんなの前で抱きしめても恥ずかしくない相手って言えば、白龍と朔しかいないよね。
 だけど白龍は王様だから朔しか残ってないわけで・・・)」

などと短い間にこんな事を考えていた望美だった。

「(五番は俺じゃないか・・俺が抱きしめられるって一体どういう事だ。
 全く白龍は何ていう命令を出すんだ・・まぁ、さっきの将臣の命令よりはマシだが・・・
 だが・・男には抱きしめられたくないぞ・・)」

同じく九郎も心の中で色々と考えていた。

「三番と五番は誰かな〜?」
「ってか、もう聞かなくても分かるよな。およそ二名の様子が可笑しいぜ?」

景時の言葉に反応を示さない該当者に将臣が笑いを堪えて言葉を返す。

「あ〜、そうだね〜。お互い純情さんだからね〜。どうなる事やら」
「望美・九郎、お前等だろ?該当者は?」
「「えっ・・(どうして分かったの?・何故、分かったんだ?)」」
「(クスクス)見事に息がピッタリですね」
「「!!(////)」」
「流石は私の愛弟子・・反応も一寸の狂いもない。見事だ・・」
「「先生っ!(////)」」

再びハモる二人を見て、さらに皆の笑いは高まるばかり。
そんな中、白龍だけが冷静を保っていた。

「神子・九郎?どちらが三番で、どちらが五番なの?」
「俺が五番だから、望美が三番という事になる・・」
「ふ〜ん、そうだったんだ〜。 じゃぁ、望美ちゃん・九郎、そろそろ始めちゃってよ」
「か・・景時!人事だからって、そんなに気安く言うなっ!(////)」
「な・・なんだか、みんなの視線が痛いんですけど・・・」

それはそうである。今までの中で九郎が一番美味しい思いをするのだから・・・

「気にするな・・さっさと終わらせろっ・・・(////)」
「ぅ・・あ・・はい・・・(////)」
「えっと・・じゃ、じゃぁ・・行きますよ?(////)」
「あぁ・・(////)」

望美はそっと腕をまわし、九郎の身体を優しく抱きしめた。

「「(/////)」」

望美に抱きしめられ赤面し、硬直する九郎。そして、
どんなタイミングで離れれば良いのか分からず、そのままの状態で顔を真っ赤にしている望美。

「なんだか、抱きしめてるってよりも、抱きついてるって感じだよな・・」
二人の様子を見て苦笑する将臣。

「九郎さん、役得だよな・・」
と、兄 将臣の横でポツリと漏らす弟 譲。


どれ程の間、二人がこの状況でいたのかは正確には不明である。
だが、未だ王様になれずにいるヒノエと弁慶の二人は
王様になるべくこのゲームに燃えていたとか・・・
将臣と望美は、このゲームを提案して失敗したと後悔したのは言うまでもない・・・(笑)




* * * * * * * * * * * 


BLUE BLUE MOON の華霞紫苑さまから頂戴してしまった遙か3創作です。
実は某企画にてコチラの作品を拝読した際、
作中に登場する 『敦盛姫』(笑)のお姿を激しく妄想してしまった挙句、
「描いてもいいですか?!」 とお願いしてしまった私。
その図々しい願いを快く承諾して下さった上に、お話までも・・・!
あぁ、私ってば何てラッキーなんザマショv
>因みにその問題の(?)ブツへはココからもジャンプできます。
とっても純情でバレバレな九×望に、にんまりv
そして黒い弁慶さんが・・ぷぷっv ←ソコに反応したか!

紫苑さま、素敵な作品をどうもありがとうございましたー(ぺこり)

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