《 ゆずわんこ受難の日々 》



秋の行楽シーズン。綺麗な青空、絶好の行楽日和。  
三連休だし、先輩を誘ってどこかへ出かけようかと思っていたとき、事件は起こった。

 
突然、体を包み込む白い光。  
暖かくて懐かしい気。
 
え、まさか、これって白龍の気――  
なんでこっちで? 京にいるはずじゃなかったのか?!
 
ばたん。いきなり俺の部屋に乱入してくる先輩。  
え、え、え、なんで?!

『神子の願い、叶えたよ――』
「ありがとう! 白龍! じゃあ三日後ね!」
 
そして脳裏に響く声は、間違いなく白龍の声。  
声が消えるとともに、白い光は消え――俺の体は、縮んだ。



   
「で、なんでおれは、いきなりちぢんじゃっているんです?」
 
ちょこんとふたりベッドに座って、会話する。  
小さくなったのはこれが初めてではない。しかし前回は怪我を治すためにやむなくお子様化したのであって、
今回は特に理由らしきものはない。  
どうみても先輩のたくらみなのだし、疑問に思うのは当然だ。
 
前回と同じくほぼ3歳児サイズ。  
先輩の発言から、連休明けには元に戻れるのだろうから心配は要らないのだろうが、
どうみても何かたくらんでいる。
 
えへへ〜と笑いながら先輩は紙袋から何か取り出す。

「実は、きっと譲君に似合うだろうなぁ〜って思って、これ作っちゃったんだv」

と、手に持つ茶色の布をびろ〜んと広げて見せる。
 
布の正体は、手触りのよさそうな茶色の犬の着ぐるみ。  
垂れた耳にくるんとしたしっぽ。ふわふわの肉球までついている。  
首輪にはネームタグがつけてあって、ご丁寧に名前まで入れられている。  
――その文字は、あ。先輩の手書きだ。
 
――ほんっとに、俺のために作ったんですね、先輩……  
あなたの手作りは何でも嬉しい……嬉しいんですけど……着ぐるみは正直微妙です。
男子高校生があまり欲しがらないと思うんですが……
 
で、まさか、これを着せるためだけに、白龍を呼び出したんですか?!
 
そんな俺の心の声が全く聞こえるはずもなく、先輩は無敵のにっこり笑顔で、着ぐるみを差し出す。  
その笑顔とまなざしは語る。

『着てくれるよね?』
 
無言のおねだり。  
きらきらとその瞳は期待に輝いていて。  
かつて、俺はこの期待のまなざしに逆らえたことはあっただろうか? ――いや、ない。

「……わかりました」
 
溜息と共に了承する。  
敗北。  
まあ一時のことだ。元のサイズに戻れば無理な話なんだしと、無理やり自分を納得させる。


「きゃああ〜んv 似合う! 可愛い!!」
 
がしっ!  
いきなり抱きしめられて、膝に乗せられる。頬ずりのオプション付きで!  
まあ、これくらいの役得があってもいいよな。うん。  
いきなり小さくされて、着ぐるみまで着せられたのだし、うん。
 
ばくばく言う心臓にいいわけをしつつ、思いがけない幸運を堪能する。

「もう、これでみかん箱があったら、完璧よね〜」
 
うっとりと夢見るように語る先輩がいる。  
ん? みかん箱???  
なんに使うんだ?  
その疑問に答えるべく、そこへ突然、『青森りんご』と書かれた箱を持って、兄さんが現れる。

「お〜い、望美、りんご箱ならあったぞ〜」
「ナイス! りんご箱もありだよね。うん、木箱だし、いい感じだよね〜」
「おう。サイズもいいくらいだしな。いい仕事しただろ?」
「うん。さっすが将臣君」
 
兄さんまでグルだったのか。なにやらふたりで分かり合っているのが、面白くない。

「と、いうわけで……よいしょっと」
 
ふわり。と、体が浮いて……あ、先輩に抱っこで運ばれている!  
と、驚きと感動を味わう暇もなく……俺の体はりんご箱の中に納められた。

「か・ん・ぺ・き!」
「ああ、いい仕事したよな〜」
 
ハイタッチを交わしながら、ふたりで満足そうな笑みを浮かべている。
 
ま、まさか!  
これって、これって、拾ってくださいってやつじゃ……いくらなんでも悪ふざけが過ぎます! 先輩!!  
思わず、涙がにじむ。  
あ、しまった。ミニマムバージョンだと涙腺もお子様仕様だったんだ。

「か、かわいい!」
 
がしっ!  
またもや抱きしめられる。

「私、譲君わんこが落ちてたら絶対拾う!!!
 こんな瞳で見上げられたら、素通りなんて出来ない!! 
 で、うちで大事に飼う! ずっとべったり一緒に暮らす!!」
 
高らかに宣言する先輩。  
あ、悪くないかも――ずっとべったり一緒、かぁ。  
いつでも一緒。散歩も一緒、ご飯も一緒、寝るのも一緒、お風呂ももちろん……ごふっぅ! 

「駄目だ、譲はうちのだ!」
 
邪な妄想を遮ったのは、兄さんの抱擁というか、羽交い絞め。  
み、実が出る!! ちょっとは力加減をしろよ!

「ええ〜〜〜!ずるい、将臣君。いつも一緒なのに〜。
 あ、譲君苦しがってる! 返してよ、もう」
 
ひょいと再び先輩の腕の中へ。  
あったかいなぁ、柔らかいなぁ。着ぐるみぐらい、まあいいか。  
このまましばらくちびっ子生活もいいかもなんてことを考えていると、
その心を読み取ったかのごとく、頭上よりとんでもない台詞が降って来る。

「今度はなに作ろっかなぁ? ん〜っと、ダルメシアンも似合いそうだな」
「そうだ、あの白くてふわふわもこもこってした犬はどうだ? あれも可愛いんじゃね?」
「ああ、トイプードル!」
「そうそう、それそれ!」
「うんうん、可愛いよね♪ 真っ白のボアで作ったら可愛いだろうなぁ」
 
どうしてその形容詞で犬種の特定ができるんですか、あなたたちは。  
生まれたときからのお付き合い、ツーカーの仲のふたり。
どういうわけか先輩は、あの兄さんのアバウトな表現を正確に読み取ってしまえる。  
ちりちりと胸が痛い。  
そんな俺の胸の痛みもおかまいなしに、究極の選択が押し付けられる。

「次は、ダルメシアンとトイプードル、どっちがいい?」
 
だっこしたまま問いかけられる。  
小首を傾げてにっこり笑い、その瞳は期待にきらきらと輝いていて……  
さらさらと髪が流れる音すら聞こえてくるそんな至近距離で、
そのおねだり顔は反則なほど可愛くて……  
 
かつて、俺はこの期待のまなざしに逆らえたことはあっただろうか? ――いや、ない。  

「…………ダルメシアンで」
 
せめて、せめて、トイプードルだけは、勘弁してください。
   
その後、白龍が再び現れるまでの三日間、
先輩のど根性の突貫工事で作り上げられた着ぐるみファッションショーが開催され、
兄さんにはおもちゃにされる日々が待っていたのであった。

 
――哀れなゆずわんこに愛の手を。



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琴子さまから頂戴してしまいました♪
私が琴子さま宅のゆずりんに妄想し押し付けたブツ
(この背景絵・大きい版→)から生まれたお話ですのよ!ラッキーvv
唯でさえ属性値高い神子様の 『お強請り』攻撃。
加えて最強(もしくは最恐:爆)タッグの望美&将臣!
…勝ち目ないです、譲くん;
作中のセリフ 『実が出る!』 に笑いました。ぷぷー。
まぁ、あのガタイに力一杯抱きつかれたら、辛いわ確かに(苦笑)
その分望美ちゃんの柔らかさが一層引き立…ごほほ;←オヤヂ発言
これがもし夏休みとかの長期だったらどうなっていたか。
想像するだに楽しい♪←マテコラ

琴子さま、どうもありがとうございました!(深々)

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