年上のかなり性質の悪い恋人は、蕩ける様な微笑みと、腰砕けになりそうな美声を駆使して   
場所を憚ることなく意味深な赤裸々発言を台詞を紡ぎだす。
  
「ふふ、美味しそうだと思ってね」
  
あかねは真っ赤になりながら、ごきゅんとケーキを飲み込んだ。



《 お菓子よりも魅惑的な 》


  
切っ掛けは夏のバーゲンで、蘭と一緒に買い物に来ていて貰った福引券。   
お互いに三回ずつガラポンを引けるのだが、こういうのは大概
  
「本当に、景品の玉が入ってるの?」
  
三回とも見事に『残念賞のポケットティッシュ』を引き当てた蘭が   
二回、同じく白玉を出したあかねに耳打ちする。
  
「まぁ、こういうのは運だし」   
「こういう時ぐらい、龍神が何とかしてくれればいいのに!」   
「そんな事いっちゃ、龍神様に悪いよw」
  
苦笑しながらも、最後のガラポンを回した。
  
・・・カラン・・・
     
「あっ!」   
「えっ!?」
  
金色の玉がコロコロと転がり、皿の端で止まった。   
一瞬の静寂の後、カランカランと当り鐘が高く鳴り、店員の声が響き渡る。
  
「おめでとうございます!一等の
 『異国情緒あふれる街+オランダ様式テーマーパーク 二泊三日』    
 ペア宿泊券が出ました〜」   
「「きゃぁぁぁぁぁ〜♪」」


  
本当は女二人旅の予定だったのだけど、この手合いの旅行券は
日程が制限されていることが多い。   
閑散時に集客することを目的としているので、この当選券も例に漏れず   
シーズンオフメインの日程しか、組まれてなくて   
創立記念日の代休を利用するつもりだったのだが、蘭はどうしても都合がつかなかった。
  
彼女が心の底から龍神に罵詈雑言を浴びせたのは、
抽選会場の比ではない事を付け加えておこう。
  
当然、チャンスとばかりに友雅が名乗りを上げる。   
モデルと言う仕事柄、サラリーマンよりも時間に都合が利くとはいえ   
急遽の休みのブッキングに、さぞかしマネージャーの胃痛は増えたことだろうが   
・・・あの友雅が、あかねに感づかせる様な真似を仕出かす筈もない。


  
斯くして機上の人となり、目的地に降り立ち早速の観光は   
教会群や、石橋に、帆船、江戸から明治・大正にかけての   
西洋文化と中国文化の入り混じった、一種独特の雰囲気の街。
     
そんな観光地の一つに、幕末の外国人居留地の邸と庭園をそのまま残した場所があった。   
過去の歴史や建物を見せる施設なのだが、一風変わったサービスがあって。
  
「・・・友雅さん、どうですか? おかしくないですか??」
  
写真館の壁際からひょっこり顔を出したあかねの服装は、先程までの普段着ではなく   
黒鳶(くろとび)に宍色(ししいろ)の西洋婦人の貸衣装。   
着慣れていないし、旅行先という高揚した気持ちもあって   
ほんのり薔薇色に頬染めて、隠れるように半身を隠して   
恥ずかしそうに、その反応を伺った。   
あかねにとっては、古めかしいアンティークなドレス。   
友雅にとっては、龍神から与えられた『知識』としては知っているが   
実際には初めて目にする、現代ではお目にかかれない興味深げなドレス。
  
「まるで、あかねの好きなチョコケーキのようだねぇ」
  
「私もそう思って、これを選んだんです。    
 本当はもっと、ウエストの引き締まった本格的っぽいドレスもあったんですケド    
 こっちの方がいいかなぁ〜って」   
「ふふ、とてもよく似合ってるよ。 じゃぁ、行こうか」   
「えっ? もうですか」
     
今さっき何とか苦心して着替えたばかりだと言うのに、記念撮影もせずに   
もう脱げと言うのだろうか。   
首を傾げるあかねの様子で、内心も全て分かってしまうのだろう。   
友雅はフッと微笑むと、その疑問を解消する。
  
「ここはね、この衣装のまま園内を散策することが出来るそうだよ。    
 折角なら時間いっぱい満喫しないと勿体無いだろう」   
「え? えぇ! この格好のまま外に出るんですか!?」   
「平時の土曜日だから観光客もまばらで人も少ないし、周囲の雰囲気も悪くない。    
 一人で恥しいのなら、私もどれかに着替えようか?」
     
ソレだけは勘弁して欲しかった!   
確かに男性用の衣装もある、海軍風とか、貴族風とか
  
きっと似合うだろう・・・似合いすぎて困るのだ・・・
  
確かに園内の観光客は少ないがそれでも人はいる、そしてそれ以上に従業員がいる。   
唯でさえ、少しは抑えて下さい!と言いたくなる程にフェロモンを垂れ流しているような男が   
非現実的な衣装を纏おうものなら、観光どころの騒ぎじゃなくなるのは目に見えている。
  
それに、今自分が着ている衣装は本当に気に入っていて、簡単に脱いでしまうのは惜しかった。
  
色々諸々ぐるぐると考えて、吹っ切った『旅の恥は掻き捨て』だ。
  
「分かりました友雅さん、行きましょう」   
「ではエスコートさせて頂きますよ、姫君」
  
ラフな普段着と、レトロモダンなドレスの二人。   
麗しい美丈夫と、愛らしい少女。   
親娘とも、兄妹とも、恋人同士とも、見目に判断がつきにくい不思議な関係。   
異国情緒を醸し出しす洋館と相まって、妙に場の雰囲気に溶け込み   
それを目撃した人達は例に漏れず、溜息を零した。


  
散策し歩き疲れを癒す為に入った、園内の喫茶店は   
西洋料理発祥の地だといわれている館を移築した建物で、幕末当時さながらの   
レトロで落ち着いた色合いの内装に、静かにまったりとした雰囲気のもの。   
大きくとられた窓からは港が一望でき、程よい木漏れ日が差し込んできた。
     
友雅は店自慢のダッチコーヒーを飲みながら、美味しそうにケーキセットを食べているあかねを   
微笑を絶やすことなく、じっと見つめている。

  
折角だから、とドレスと同じ様なチョコケーキを頼んで
  
崩して一口ずつ食べていく様子は
  
・・・まるで・・・
  
そんな友雅のあまりの熱視線気付き、あかねはなんだか居心地が悪い。


  
「あの友雅さん、どうしたんですか」
  
年上のかなり性質の悪い恋人は、蕩ける様な微笑みと、腰砕けになりそうな美声を駆使して   
場所を憚ることなく意味深な赤裸々発言を台詞を紡ぎだす。
  
「ふふ、美味しそうだと思ってね」
  
あかねは真っ赤になりながら、ごきゅんとケーキを飲み込んだ。
  
「食べてみます」なんてケーキを差し出せる程、天然要素も薄くなってしまった。   
その言葉の裏の意味を読み取れない程、子供ではなくなっていた。   
だけど「それは後で」なんて言える程、大人な訳でもなく。
  
現状としては、おろおろと視線を逸らしながら、別の話題に摩り替えるのが精一杯だ。   
勿論、そんな様子も友雅にとっては「美味しそう」な目の保養に過ぎない。
    
「えっ、えと、蘭ちゃんは残念だったかたら、せめてそれらしいお土産がいいですね」
    
裏返りながら懸命に紡ぐ声が、余りにも愛らしくて、いじらしくて   
もっと、もっと欲しくなる。
  
「そうだねぇ、ちょっと行った場所に中華街があるから    
 横浜や神戸の様にさほど大きくはないけれど、その分面白い物があるかもしれないね」   
「わぁ、楽しそうですね」   
「チャイナ服なんてのもあるかも」      
「あっ、可愛いかもしれませんね」   
「うん、アオザイなんかもあるといいんだけど」   
「へ?」   
「明日行くテーマパークは、オランダを模した物らしいから    
 あの独特のエプロンなんかもいいよね」   
「・・・」
  
ニコニコと、それはそれは嬉しそうに微笑んでいる恋人に   
「ソレハ蘭チャンヘノオ土産デスカ?」とは恐ろしくて聞けなかった。
        


果たして、その結果や如何に




姫君主義のセアル様にあかねちゃん絵(こんなヤツ)を押し付けましたら
またまたこんなナイス!なお話になって帰って参りましたvらっきー♪
元ネタとなった施設は「グラバー園」だそうです。
お話読みながら無性に行きたくなってきました〜。
>レトロ系建築好きなので
あぁ、にしても、二泊三日かー。…あかねちゃん、大丈夫かしらん?←何が

セアル様、どうもありがとうございました(深々)

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