《 月の揺り籠 》



街の、とあるアンティークな雑貨屋で、1時間程前から思案顔で立ち尽くす少女の姿があった。
―――今日は、友雅の誕生日。
彼への贈り物を買うために、少女・・・あかねはこの店に立ち寄ったのだ。


二人で現代に戻ってきて、龍神のはからいなのか既に友雅の戸籍も記憶も用意されていた。
あれから、一年。
去年の今頃は最終決戦の直前で、誕生日どころではなかったから。
今年こそちゃんとお祝いしたい。
さんざん悩んだ結果、あかねは一番端にあったものをそっと手に取りレジに向かったのだった。



明日は休みだから泊まっていく旨を伝えると、外食にしようかと言われて首を横に振った。

「ううん。明日は友雅さんのお誕生日だから。私・・・お料理苦手だけど頑張って作ります。」
「それは楽しみだね。明日はできるだけ早く帰ってくるよ。」

電話越しでも、彼の声は優しくて胸が温かくなった。



玄関のチャイムが響き、パタパタとスリッパを引きずりながら駆けていく。
カチャリとドアを開けると、スーツ姿で少しくたびれた、でも嬉しそうな友雅の姿があった。

「お帰りなさい、友雅さん。」
「ただいま、あかね。会いたかったよ・・・。」

あかねはつま先立ちで、かがんだ友雅の唇に自分のそれを重ねた。
軽く触れるだけのキスなのに、それだけで胸が熱くなり鼓動が早くなってしまう。
真っ赤になりながら離れると、友雅はくすくすと笑った。

「いつになっても初々しいね、君は。」
「うぅ・・・また子供扱いする〜。」
「私はね、あかねのそんなところも大好きだよ。」

彼女がぷいっと背を向けるのも、もう見慣れた光景だ。

「早くしないとご飯冷めちゃいますよっ。」
「先にあかねを食べたいのだけれど?」

あかねは皆まで聞かず、さっさとキッチンへと消えてしまう。
友雅は苦笑しながら肩をすくめた。



「すごいね・・・全部君が作ったのかい?」
「そうですけど、全然すごくなんかないですよ。
 本を見ながら、簡単なものばかり作って、あとはほとんど盛り付けで誤魔化しちゃったんです。」

と、ペロリと舌を出す。
その可愛い仕草とテーブルに並んでいる色鮮やかな料理を目の前にして、友雅は一つの案が浮かんだ。

「・・・ねぇあかね。」
「はい?」
「せっかくだから、君が食べさせてはくれまいか?」
「はい。・・・・・・・・・って、ええぇっ!?」

あかねは、椅子から飛び上がらんばかりに驚いた。

「先日、ドラマで見たのだけれどね・・・愛し合っている者同士が食べ物を口に入れ合うというのは
 何とも麗しい光景ではないか。」

と、友雅はどこかうっとりと酔いしれていて。(イっちゃっていたと言っても良い。)
そんなことを予想もしていなかったあかねが耳まで真っ赤になったのは当然としか言い様がない。
けれど、そんなあかねの態度に悲しい表情になった友雅が、
「誕生日には私の望むことをしてくれると思ったのだけれどね・・・
 あかねは、それ程までには私を愛してくれてはいないのだね・・・。」
と、勝手に話を進める始末。
そこまで言われてしまっては、後に引くなんてできるはずがなく。
かくして「お口あ〜ん」が実行されたのだった。


「そうだね・・・まずは唐揚から頂こうかな。」

人の恥じらいなどお構いなしに、友雅は食べたい物を言っていく。
あかねは、ドキドキとうるさい心臓の音を聞きながら彼の口元へと運んだ。
すると、閉じられていた形の良い友雅の唇が開き、差し出した唐揚が中に消えていった。
当たり前と言えば当たり前で、たったそれだけのことなのに恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまう。
しばらくそれを繰り返していると、今度は友雅がたまご焼きをつまんであかねの口元に差し出した。

「私ばかりがいい思いをしては悪いからね。」
「い、いいですよっ、自分で食べられますから!」
「・・・そんなつれないことを言わないでおくれ。それでは私だけが自惚れているようではないか。」
「・・・・・・・・。」

友雅は本当に、人を言いくるめるのがうまい。
仕方なく(というか、半ば諦めて)、あかねもまた友雅に夕食を食べさせてもらったのだった。


楽しい(?)夕食も終わり、ケーキを食べて。
あかねがお風呂からあがると、先にあがった友雅がベランダで夜風にあたっていた。

「友雅さん。」

声をかけると、シャツの前をはだけさせた彼が振り向いた。

「あぁ、あかね。今日はありがとう。毎日君の手料理を食べられる日が早く来ると良いね。」
「あ、あと一年待ってください・・・。それよりね、友雅さんにプレゼントがあるんです。」
「君は・・・さっきもあんなに祝ってくれたというのに、これ以上私を喜ばせてどうしようというのかな?」
「それはそれ。これはこれです。・・・・・受け取って下さい。」

小さな紙袋は、友雅の大きな手へ渡された。

「・・・開けても良いかい?」
「はいっ。」

ガサガサと紙袋を開き、中から出てきたのはシルバーのチェーンのネックレス。
翡翠色のガラス玉が通っていて、中には三日月の模様が浮かんでいた。
友雅が何も言わずそれを見つめていると、あかねは慌てて説明をした。

「あ、あの、あんまり高いものは買えなかったんですけど・・・
 そのネックレスの飾りが、友雅さんの宝玉にとても似ていて懐かしかったの。
 他に、何を送ったら良いか分からなくて・・・気に、入りませんでしたか・・・?」

おそるおそる尋ねるあかねの問いに、友雅は静かに瞳を閉じて首を横に振った。

「いや・・・その逆だよ。君は本当に私を喜ばせるのが上手だね。・・・つけてくれるかい?」
「はい!じゃあ、後ろを向いてください。」

友雅は、言われるままにかがんでさらりと流れる髪を前にたらした。
その、何とも言えない彼のうなじの艶かしさに、あかねはドキドキしながらネックレスを首元にすべらせた。
カチリ、と音が鳴る。

「良かった、サイズぴったりですね。」
「君に私のサイズを覚えててもらえるなんて光栄だね。」
「・・・・・何かその言い方いやらしいです。」

友雅は笑いながら首元のネックレスを見つめて目を細めた。

「月、だね・・・。」
「はい。京にいた頃、友雅さんが良く言っていたことまで思い出しちゃって。
 気がついたら、それを買っていたんです。」

その言葉を聞くと、彼は前髪をかきあげながらため息をついた。

「参ったな・・・・・・。」
「え?」

一体この姫は、どこまで分かって口にしているのだろうか。
我が身にあった宝玉の翡翠の色。
その中に浮かぶ月。
その二つが意味するものの答えを。

「これは、君から私への愛の告白だと思っていいのかな?」
「えぇっ!?あ、あの、確かに友雅さんへの贈り物ですけど、そんな・・・えっと・・・。」

あたふたと焦りながら、赤くなりながらあかねは言葉を探す。
そんな彼女に構わず、友雅はあかねを引き寄せた。
瞬間、友雅の香りでいっぱいになる。
よく分からないけど、喜んでもらえたようだと思ったあかねはその身を彼に委ねた。

「お誕生日おめでとうございます、友雅さん。」
「ありがとう、あかね。最高の贈り物だよ・・・。
 桃源郷の月は、私の胸の中に。確かに受け取ったよ、姫君。」
「え?」

彼の言葉の意味を理解する前に、友雅の唇が降りてきた。




二人の遥か遠くで、一筋の流れ星が夜空を伝った。
叶えられた願いは、これからもずっと続いていく・・・。





如月美羅さまのフリー創作を戴いちゃいました!
くふふふ〜vんふふふ〜vv ←気持ち悪っっ
エプロン姿のあかねちゃんといい、『おかえりのちゅぅ〜v』といい、
『お口へあ〜んv』なシュチュエーションといい・・・・・・♪
余りの萌えツボの多さにすっかり陥落したワタクシ。くぅ〜っv堪りません〜〜v
あかねちゃんのプレゼントを自己解釈(?!)して喜ぶ友雅さんがこれまたvv
ほんのり妖しげ〜な雰囲気を感じ取ったのは気のせいではない筈!:キパ!
やっぱりこの後あかねちゃんはメインディッシュとして 「いただきます♪」されちゃうのかしらんv
>ヲイ待て!オバハンーーー!!

美羅さま、甘い友あか話をどうもありがとうございましたv(ぺこり)

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