それを優しさと言うのか

 

指輪をめぐる旅が始まって二月はたっていただろうか。

ボロミアは、自分の体に起きている異変について誰にも話すことができずにいた。

太陽が天上にあるときは、歩けるだけ歩き、夜になっても深く眠ることなどできずにいたのだから、苛立ちを起こす気分の落ち着かなさを、ただの疲れだろうと、自分のことを苦々しく思っていたのだ。

同行する他種族、ホビット達ですら、疲れはみせているものの、それでも昼間は元気よく歩を前に進めるのに、彼らより大きな自分が、こんなささいなことで一番に脱落することなど、ボロミアには許せることではなかった。

だが、体の小さなメリーやピピンをマントで包むように眠る夜番のない幸いな夜すら、彼らが寝返りを打つ、そのいちいちに目を覚ましてしまうのだから、ボロミアの悩みは深かった。

何かが足りなくて、苛立つのだ。

今晩も、眠れそうにない。

 

ボロミアは、側に身を寄せているピピンを起こさぬよう、小さくため息を付くと、横たえていた身を起こした。

近くにあった暖かな体温がなくなるのを感じるのか、ピピンは、眠ったまま手探りをし、そのまま小さく体を丸める。

ボロミアは、その体を自分のマントで包み込み、そっと彼の側から立ち上がった。

「アラゴルン、夜番をかわろう」

ボロミアは、皆を気遣って、小さな声で、アラゴルンに声をかけた。

少し離れた岩陰に、アラゴルンは小さな火を守ってパイプを吹かせていた。

「まだ、いい。それよりももう少し眠っていろ。今日も風が強かった。あんたは疲れているはずだ」

アラゴルンは、すがめるような目でボロミアを見上げると、パイプの煙を吐き出した。

「眠れないんだ。どうせ起きているのなら、夜番を引き受けているほうが、ずっと気楽だ」

ボロミアは微かな苦笑いを浮かべ、うろんな目をした野伏を見下ろした。

「眠れないなら、余計、体を休めていろ。あんたは自覚していないかもしれないが、この中で弱い順に並べるならば、ホビットの次は、あんただ」

「…それは、ひどいな」

ボロミアは、アラゴルンの言いように、すこし傷つき、顔を歪めるようにしたが、それでも笑うと、小さな火の側へと腰をおろした。その様子をアラゴルンはじっと眺めていた。

「あんた、マントはどうしたんだ」

「ああ、ピピンが寒そうにしていたから」

「自分は、寒くないとでも言うつもりか」

「いや、まぁ、しかし眠っているときの方が寒く感じるものだし」

「とんでもない自信家だな」

アラゴルンは肩を竦めた。

「まぁ、そういうなよ。こうして火の側にいるのだから、そんなに寒いわけじゃない」

アラゴルンは、呆れた顔をしてボロミアを見やった。

ボロミアは、自分を恥じるように火へと視線を落とし、火に手をかざした。

「あんたに自覚がないようだから、はっきり教えておいてやるが、この仲間のなかで、あんたは弱いほうに属している。こうした野に下るような生活を送ったことがないくせに、強がるのはやめたほうがいい」

アラゴルンの視線は、ボロミアをじっと離れなかった。

「そんなに言うな。これでも私は戦士なのだから」

ボロミアは、視線の強さに顔を上げることができなかった。

「しかし、あんたはただの人間で、怪我や病気に弱く、ホビットより多少体が大きく、剣がたつに過ぎない」

「あんただって人間だろう?」

「ああ、しかし、俺はあんたと違って、野で眠ることになれている」

アラゴルンはため息を落とすように、ボロミアへと告げた。

さすがに、ボロミアはあまりに自分を弱いというアラゴルンが不満になり、炎が映すアラゴルンの顔に視線を上げた。

アラゴルンは、視線だけで、ボロミアの不満を受け止めた。アラゴルンの瞳は、ボロミアが思っていた以上に優しくボロミアを見つめていた。

「なにが不満だ?ボロミア。ギムリやレゴラスのことか?ドワーフは、元来、体が頑強にできているし、エルフに至っては、死にもしない」

「魔法使いは…」

ボロミアは、アラゴルンの軽口に上手くのる接ぎ穂を探した。

「あれは…どうなんだろうな。しかし、一番しぶとそうなのがガンダルフ老だと思わんか?」

「…ああ、そう…かもしれん」

自然にボロミアの口元に笑いが浮かんだ。

ボロミアは、今日はじめて、頬が緩むのを感じた。そして、それ程自分が緊張していたことを自覚した。

何度かこわばった頬を撫でた。

手の冷たさを感じ、焚き火へと手をかざした。

そんなボロミアを、アラゴルンは、じっとみつめていた。

視線は、緩やかにボロミアの全身を絡めとろうとしていた。

 

「…あんたは、疲れたりしないのか?」

ボロミアは、アラゴルンの顔を見ず、言葉を投げかけた。

小さな焚き火のなかで、小枝が爆ぜる音がした。

アラゴルンは、パイプを吹かせたまま、しばらく答えない。

「スライダーというのはこんな夜ばかりを過ごすのか?毎日緊張し、深くも眠らず」

ボロミアは、独り言のように言葉を重ねた。

「一人、じっとパイプを吹かして…」

「・・まぁ、そうかもしれない」

アラゴルンは、口から煙を吐き出した。

「きつい事を言ったかもしれんが、ボロミア、あんたはよくやっている。毎晩、石の建物に守られ眠ることになれているのに、こんな生活を送ることになっても、文句をもらさない」

「当たり前だ。私は自分からこの旅に参加することを選んだのだから、どんなことになろうとも、誰かに文句を言うことなどできるはずもない」

苦労を、当然のこととしてボロミアが口にするのに、アラゴルンは悲しい思いで彼を眺めた。もっと脆弱に生きる者等いくらでもいるというのに、ボロミアは気高く生きることしか知らないでいる。

「疲れているんだろう?」

アラゴルンは、ボロミアの顔をうかがった。

ボロミアの顔色は、この暗がりのせいばかりではなく、いいとは言えなかった。

「いや、疲れていないなどと嘘をつく気はないのが、まだ、十分耐えることができる範囲だ」

「では、どこか体の調子が?」

「どうだろう。私は見ているだけでわかるほど、どこかおかしいだろうか?」

「…さぁ?」

ボロミアの頬は旅の始まりに比べればいくらかこけ、その顔立ちに陰影を深く与えるようになっていたが、アラゴルンはそのことについて触れなかった。

「早くあんたのように、必要なだけの力で、旅ができるようになりたいものだ」

「あと倍は生きて野山をさ迷えば、あんたでも俺のようになれる」

「倍生きることの方が難しそうだな」

「そうでもない。少なくとも俺は長く生きることで苦労したことはない」

「ああ・・そうだな。多分、エルフも苦労したことがないだろうさ」

とてつもなく俊敏な若い仲間の顔を思い出し、ボロミアは口元を緩めた。身近で見たこともなかったエルフという生き物は、美しく、賢く、そして大変力強いものだった。

どう見たって自分より年少にしか見えぬのに、あの若いエルフは信じられない時間を生きている。その感覚は図りしれない。ほんの少しばかり、恐ろしくすらある。

ボロミアは、小さなあくびを漏らした。

小さくあっても、焚き火にあたっているのは、ぼんやりとした温かみを身体に与え、眠気へとボロミアを誘った。

知らず、もう一度、あくびを漏らしていた。

「ほら、眠いのなら眠ればいい。夜番は二人もいらない。明日、ホビット達に気遣われるような恥ずかしい思いをしたくないなら、さっさと体を横にしろ」

アラゴルンは、ボロミアを笑った。

「まだ、少し、話がしたいんだが」

ボロミアは、この雰囲気をもう少し味わいたくて、子供のような抵抗を示した。

「俺の方には話なんてない。これを貸してやるから、もう休むんだ」

ボロミアは、アラゴルンから無理やりマントを押し付けられ、仕方なく体を横にした。

確かに先ほどより、ずっと眠りは近くにあるように感じた。

体を包み込むアラゴルンのマントは、彼の体温を移して暖かく、ボロミアに、安心感を与えた。

ボロミアは、目を閉じた。

アラゴルンは、同じ位置に座ったまま、変わらずパイプを吹かしている。

「なぁ」

「もう、話は終わりだ。あんたは坊やじゃないんだ。静かに寝ろ」

「だが」

「ボロミア、眠れるときに眠るのも、野に生きるためには必要なことだ」

ボロミアは鼻を鳴らした。

とりあわないアラゴルンに、仕方なくボロミアは口を閉じた。

雲の間から、うっすらと月が見えた。

やはり、疲れは確実にボロミアの体を苛んでいたのだ。ボロミアはそのまますこしばかり眠ってしまった。

 

 

ボロミアにとっては、ほんのわずかの間、アラゴルンにとっては何本かの枯れ枝が燃え落ちる必要のある時間たった後、ボロミアは、目を開けた。

ボロミアは夢を見、その夢が自分にもたらした異変に驚いて、はっきりと目が覚めてしまっていた。

ボロミアは、肩に掛かるマントをきつく握り締めた。夜の闇は、まだ深かった。

「もう、起きたのか。まだ、夜明けまでは長いぞ」

気配に聡いアラゴルンは、ボロミアが瞬きした音に反応したかのように、ボロミアへと視線を投げかけた。

「いや…」

ボロミアは、土の上で、何度か瞬きした。

アラゴルンの視線を避けるように、彼のマントを肩口より引き上げた。

するとますますアラゴルンの体臭が、ボロミアを包み込み、ボロミアは困惑を隠せなかった。

まるで、夢の中で感じた匂いのようだ。

「いや、すこし目が覚めただけだ。もう一度眠る」

ボロミアは気遣うように眺めるアラゴルンと視線を合わせていられず、もう一度、瞼を閉じた。

しかし、目を閉じると、ますます自分の置かれている立場の困難さを強く感じた。

アラゴルンのマントから鼻を離し、土の匂いを強く吸い込んでも無駄だった。

ボロミアは、夢のせいで、自分が欲情していることをはっきりと自覚していた。

目覚めてしまった今、夢の内容を思い出す事は、できないが、しかし、口にすることを憚られる行為を行っていたことを覚えている。このマントのせいか、その相手はアラゴルンであったと思う。

胸が落ち着かず、心臓が大きな音を立てていた。

いまだ、アラゴルンのマントに包まれていることが、それを増長させていた。

ボロミアは何度か体を動かした。

すこしでも気がまぎれるように、なにか別のことを考えようとした。

しかし、無駄だった。どう努力しても、思いは、そこへと帰ってきてしまう。

ばかばかしい程にボロミアの体は正直なのだ。

まさしく本能的な欲求をボロミアの身体は訴えている。

「・・どうした?」

ボロミアが眠れずにいることに気づいたアラゴルンが、声をかけた。

「なんでもない」

ボロミアはアラゴルンへと背を向けた。

ありがたいことにアラゴルンはそれ以上追求しようとしなかった。

しかし、体の変化はあいかわらず、ボロミアを責め苛んだ。

ボロミアは、自分が餓えているということを理解していなかった。

いつも、誰かしかに求められ、うっとおしい程の抱きしめる腕を持て余すばかりだったボロミアは、こんなに長い間一人寝を続けたことがなかった。

旅に慣れ始め、気持ちに余裕ができた途端、こんな思いをするとは、考えたこともなかった。

「眠れないのか?」

独り言のような静かな声でアラゴルンが呟いた。

ボロミアが答えないのならば、そのままそっとしておこうという、気遣いが伝わった。

ボロミアは、気まずさのあまり、返答が返せなかった。

アラゴルンと関係をもったことはあった。しかし、一度きりのことである。それ以来、自分をそういう対象としない彼に、打ち明けることができなかった。

無意識とはいえ、アラゴルンへと擦り寄ろうと、ここに足を運んだ自分が、あさましく獲物を漁っているようでボロミアは、恥ずかしかった。

背をむけたまま、彼に願った。

「歌でも歌ってくれるか?」

ボロミアは、肩越しにアラゴルンを見た。

アラゴルンは、口元に優しい笑みを浮かべていた。

ボロミアの悩みなど、まるで気付かず、旅の仲間を思いやっていた。

アラゴルンは、焚き火に木を投げ入れながら、小さな声で口ずさんだ。

ボロミアには、言葉の意味がわからない。だが、やさしいメロディだ。

ボロミアは、自分を落ち着けようと、歌へと耳を澄ました。

レゴラスの声より濁るアラゴルンの声は、美しすぎるエフルの歌に、安定感をあたえている。

「アラゴルン…」

「なんだ?」

しばらく歌へと耳を傾けていたボロミアは、小さくアラゴルンを呼んだ。

答えるアラゴルンに、歌が途切れる。

ぱちぱちと小枝がはぜる音がした。

ボロミアは、しばらく口をつぐみ、息をひとつ吐き出すと、覚悟を決め、アラゴルンを見た。

「あんたは、私を殴ったことがあっただろう?」

「…ああ」

旅をはじめて二週間もたった頃か、アラゴルンは、ボロミアがあまりにも憔悴しているため、拳を振り上げたことがあった。それは、王としてのアラゴルンを受け入れることができず苦しんでいるボロミアを助けようしての行為だった。野伏としての力でねじ伏せ、ボロミアよりも旅の指導者足りえる自分を認めさせようとしたのだ。

果たして、どのくらいボロミアに通じたのか分からない。結局、勝敗すらつかなかった。

そのあと、驚くべきことが起こり、ボロミアは、アラゴルンを、別の方法で受け入れることを認めた。

そして、旅の仲間である野伏のアラゴルンに心を開き、王としてのアラゴルンについては、考えることを先送りにした。

ボロミアは、そのときに流した涙について恥じているのか、今日まであの日のことを口にしたことはない。

アラゴルンも、素振りすらみせない。

 

「アラゴルン、あの時のあんたのように強い男になるには、どうしたらいい?」

ボロミアは、しっかりとアラゴルンを見ていた。

見られているアラゴルンがたじろぐほどの視線の強さだった。

「さぁ?多分、あんたが持っている正しさを捨ててしまえば、すぐ、俺くらいにはなれるさ」

アラゴルンは、ボロミアの態度をいぶかしんだ。ボロミアはあまりにも頑なな目をしていた。

ボロミアが、また、何かの悩みに取りつかれたのかと思った。

「つまり?」

ボロミアがもっとはっきりとした言葉を求めた。

「もっと、卑怯になれと、いうことだ」

アラゴルンの言葉に、ボロミアは深く頷いた。横になっていた体を起こす。

ボロミアの表情は硬かった。

アラゴルンは、ボロミアが心配だった。

「卑怯になれば、野伏のように強くなれると?」

「そうだな。すくなくとも、あんたのように迷うことはなくなるだろう」

「私は、迷っているか?」

「ああ、あんたは、かならず正義を心の中心に据えている。それは、すばらしいことだが、正義の意味がわからない相手に、きっとあんたは命を落とす」

「…そうか」

ボロミアは、悲しそうな顔でひっそりと笑った。

「…死んでしまえば、正義もないな」

「ああ、そうだ」

この話題を選んだボロミアの気持ちが分からず、アラゴルンは、小さく燃える焚き火へと視線を戻した。

旅が続くことは、神経を疲れさせる。

アラゴルンは、気付かれないようにボロミアを伺った。ボロミアの身体は、疲れを滲ませていた。

ボロミアは、戦士として近隣に名を馳せる勇者ではあるが、先の見ないこんな旅は、彼にとって不慣れなことばかりだろう。疲れてしまったのかもしれない。

アラゴルンは、歌の続きを口にした。

ボロミアは、体を起こしたまま歌うアラゴルンを見ていた。

「アラゴルン、私は、そんなに弱いだろうか」

思いつめた目をしたボロミアに、眠る気はないようだった。

アラゴルンは、ボロミアの拘りがわからず、首をかしげた。

「なにか、困っているのか?」

「…困っている」

ボロミアは、小さく呟いて、顔を伏せた。

アラゴルンは、ボロミアが口を開くのを待って、彼の髪が炎に照らされる様子をみていた。

「…私が卑怯になることを…あんたは、許すか?」

「…許すが…」

ボロミアの言うことが分からず、アラゴルンは、戸惑った返答しか返せなかった。

もっと具体的な話をして欲しいのだが、躊躇いと戦うボロミアは、アラゴルンが理解できないでいることも、分かっていないようだった。

 

「…あ…あの…」

ボロミアは、どう切り出せばいいのかわからずにいた。

一旦自覚してしまえば、どうしても収まらない身体の欲求に負け、ボロミアはアラゴルンを誘うことを心に決めた。だが、切り出すのは難しく、話題が横滑りを起こしてしまう。

ボロミアにとって、誘いの言葉を口にするのは、恐ろしく勇気の要ることだった。いままで、ボロミアから誰かを誘ったことなど無い。

そんな必要はなく、ボロミアはいつも許すだけだった。

しかし、今、どんなに浅ましくともアラゴルンが欲しい。

「アラゴルン…あの…」

「なんだ?困ったことがあるのなら、力になるが…」

アラゴルンは、あまりに躊躇うボロミアの様子に、首をかしげて、彼に近付いた。

病気や、怪我を隠していたのかと思ったのだ。

我慢強いボロミアなら、ありえないことではない。

今までずっと隠してきて、とうとうどうにもならなくなり、仕方なく、打ち明けようとしているのではないか。

アラゴルンが近付き、覗きこんだボロミアの目は、涙を含んだようにしっとりと濡れていた。

「どうした?何を困っている?」

美しい色をした緑の眼球に濁りは無い。目に見える皮膚にも、疲れは見えるが、格別おかしな様子はない。

ただ、ボロミアの疲れた様子は、どこか気だるげで、隠せない色香が付きまとっていた。

昼間、マントのフードを払う様子や、くたびれたように吐き出す息に、アラゴルンが欲を覚えていることを知ったら、ボロミアはどんな顔をするだろう。

アラゴルンは、ボロミアの身体が抱かれることのできるものだと知っている。

殴り合い、決着をつけるはずだった勝敗の時、ボロミアは大きな誤解をして、アラゴルンがボロミアを欲しがっているのだと思った。

あの時、アラゴルンは驚いたが、結局、ボロミアの身体を抱いた。

ボロミアは、アラゴルンを受け入れ、おかしな拘りからは、目をそらすようになった。

そして、アラゴルンは、ボロミアに、口にできない拘りを持つようになった。

「…アラゴルン」

顎を掴み、じっと目を見詰めるアラゴルンに、ボロミアは、縋るような目を見せた。

その目が誘っていると感じるのは、アラゴルンの欲のせいだろうか。

「なんだ?どこか痛むのか?」

ボロミアは、アラゴルンの言葉に、恥ずかしさがこみ上げて顔を伏せた。

優しい気遣いを見せる仲間に対し、自分の言おうとしていることのなんと恥知らずなことか。

口元を手で覆い、何度か首を振ってみるが、近くにあるアラゴルンの体温が、ボロミアを更に追い詰めた。

浅ましい。汚らわしい。

…でも、どうしても、欲しい。

「アラゴルン…私は、あんたが思ってくれているほど、善人でも、正しくもないんだ」

アラゴルンは、顔を伏せるボロミアを見た。

口を覆う指が長くきれいだと、眺めていた。

「あの…あ…」

ボロミアは酷く躊躇っていた。何がそんなに彼を戸惑わせているのか、アラゴルンには、分からなかった。

だた、迷う彼は美しいと思う。

彼の信じられない一面を垣間見たアラゴルンは、ボロミアがとても美しい男であることに気付いた。

容姿もそうだったが、これは、人ならざる美しい生き物に囲まれて育ったアラゴルンにとって、あまり威力を発揮しなかった。

それよりも、ボロミアの精神の有り方が、アラゴルンの心に拘りを根付かせた。

ボロミアは、祖国のために、尊い教えを存分に学び、正しい方向に向かって真っ直ぐに伸びていこうとしていた。それなのに、事実、彼は、真っ直ぐなばかりではない。

張り巡らされた枝はしなやかで、柔らかく、上に向かって伸びることと同じように、幾重にも同じところを辿っている。

その有り様は、大きな森が育っていく過程のように複雑で興味深い。

深い森がそうであるように、彼の中にも闇が隠されている。

その闇は深い。大きな森がそうであるように。彼が、男を受け入れることができるように。

「言いにくいのか?

…言わなければならないことか?」

あまりにボロミアが逡巡を繰り返すので、アラゴルンは、ボロミアに問い掛けた。

落ち着き無く視線をさまよわせ、言いよどむボロミアの様子は、無理に聞き出すことを躊躇わせた。

たぶん、口にするために、ボロミアは何かを捨てなければならないのだろう。

なにを?…プライドを?

アラゴルンは、ボロミアに無理をさせる気になれず、彼の側を離れることにした。

不躾なほど長い間、目を伏せるボロミアの様子を伺ったが、怪我などで困っている様子ではない。

ボロミアの気高い誇りを投げ打ってまで相談してもらう価値が、アラゴルンは自分にあるとは思えなかった。

ゴンドール国王としての、話なら、まだ、先でいい。

まだ、旅は長い。

立ち上がろうとするアラゴルンの衣服の端をボロミアは手に掴んだ。

本当に縋りつくような目をして、アラゴルンを見上げた。

…誤解されても、仕方の無いような。

多分、今のボロミアの目は、何も知らない人間でも、色香を感じることだろう。

「アラゴルン…あ……あの、よければ…私の身体を使ってくれないだろうか…」

小さくなりがちな声を、それでも最後まできちんと発音して、ボロミアはアラゴルンの顔を見上げた。

「…」

アラゴルンは、自分が間の抜けた顔をしている自覚があった。

「いやだったら…いい。でも、もし、相手が私でもいいんだったら…使ってほしいんだ…」

「俺に?」

「そう…嫌じゃなければ…」

ボロミアはアラゴルンの袖を強く掴んだ。

その力は皺が寄るほど強かった。

アラゴルンは、戸惑った。

「ボロミアは…どうして…」

質問を投げかけようとして、アラゴルンは、ボロミアの赤くなっている首元に目がいった。

ボロミアは色が白いせいで、誤魔化しがきかない。

首から耳へとほんのり赤くなっている。

吐き出される息も浅い。

この言葉を口にするために、かなりの勇気がいったのだろう。目元には、涙が溜まっている。

「…ボロミアは、俺でも、構わないのか?」

ボロミアを辱めることをやめようとアラゴルンは思った。

ボロミアはほっとしたように、頷いている。

この場で、何故?と問うことは簡単だったが、アラゴルンはしなかった。

誘う言葉を吐き出すために、ボロミア自身、恐ろしいほどの回数を自分に問い掛けたことだろう。

それでも、無視できなかったのだ。

アラゴルンは、ボロミアの硬く握り締めた手を掌で包んだ。

合図のように、舌を差し出そうとするボロミアに、軽く首を振って拒み、彼の手を引いて、立ち上がらせる。

「ここでは、まずい」

ボロミアに着せ掛けていたマントを拾い上げると、アラゴルンは先に立って歩きだした。

その後ろを、ボロミアは、頭を項垂れ付いてくる。

付いてこざるを得ないほど、追い詰められているボロミアがかわいそうだとアラゴルンは思った。

しかし、そういう彼の姿が、アラゴルンの気を惹くのだ。何故かはアラゴルンにもよくわからない。

世の中には、せつないものなど溢れている。そのいちいちに気を惹かれていたのでは、やっていられない。

しかし、彼をかわいそうだと思うたび、アラゴルンの心に灯るものがあるのだ。

アラゴルンは守っていた焚き火が遠目になんとか確認できるという程度まで離れて、大きな岩の後ろへと回り込んだ。

人が転がるには広すぎはしないが、狭くも無いスペースにボロミアを座らせる。

髪に手を差し入れ、顔を寄せると、ボロミアは目を閉じる。

安堵した顔で舌を差し出すのに、アラゴルンは苦笑を漏らした。

しかし、気付かれないうちに、舌を絡ませる。

甘い舌を味わいながら、アラゴルンは、ボロミアをいいようにしてきた男たちが、どんな奴らだったのかと考える。

こんなにも安心した顔をして、口を開くことが出来る相手。

両手を差し出して、肩を抱くことの出来る安心感。

男たちは、間違いなくボロミアを崇拝していたに違いない。

ボロミアには卑屈なところがまるでない。

求められることに対するこだわりが無い。

自分を差し出して恐ろしい思いをしたことなど無いに違いない。

長く続く口付けに、ボロミアが鼻から切ない声を漏らした。

アラゴルンは、ボロミアの髪に入れていた手を首へとずらし、ゆっくりと撫でる。

金の髪を伝い、隠されてしまっている首を撫で上げる。

ボロミアは、その感触をうっとりと受け入れていた。

優しくされることに慣れきっている。

アラゴルンは、手早く済まそうかと考えていた行為を、ボロミアが満足できるまであたえてやろうと思った。

自分に手を伸ばすしかなかったボロミアがかわいそうで、だが、そういうボロミアは、アラゴルンの心のどこかを熱くさせた。

 

「服をぬがしてもいいか?」

アラゴルンがボロミアの襟元に手をかけると、ボロミアは、首を反らして協力した。

反らした首の白さに、アラゴルンが思わずそこを撫でると、手の甲に、頬を摺り寄せてきた。

旅に疲れている頬は、滑らかとは言い難かったが、それでも、町で買う女たちよりも数倍も心地いい感触だった。

ボロミアは、目を閉じたまま、アラゴルンに撫でられる感触を満喫していた。

赤みの差した頬は、いつもより、ずっと健康的に見えた。

「触られるのが好きか?」

アラゴルンは、ボロミアを傷付けないよう、十分注意して声をかけた。

手の甲で、ボロミアの頬を優しく撫でた。

「…好きだ」

一瞬、ボロミアは躊躇ったが、何かを思い切るように、頬を摺り寄せたままアラゴルンを見つめた。

悲しそうに、緑の目が濡れていた。

それは、アラゴルンにとって、耐えられないような色香だった。

「ボロミア、あんたが、恥じることはなにもない。あんたが言い出さなければ、俺があんたを攫ってきていた。あんたの気持ちのいい身体を忘れられずにいたのは、俺の方だ」

アラゴルンは、金の髪に手を差し入れて、強く頭を引き寄せると、舌を伸ばせるだけ伸ばして、ボロミアの口を蹂躙した。

ボロミアも、アラゴルンの首に手を回して、縋りつくようにした。

「この身体を自由にできるなんて、俺は幸せ者だ」

アラゴルンは、ボロミアにしゃべる暇を与えなかった。

口付けの合間には、手早く衣装の留め具を外していった。

露になったボロミアの肌は、厚い衣服に守られて、いつか見たときのまま、白かった。

名のある戦士として、そこかしこに、傷が残っているが、そんなものはボロミアの身体を前に、興を殺ぐこともできなかった。

アラゴルンは、ボロミアの胸に唇を落とし、あちこちを啄ばんでいった。

優しい愛撫の感触に、ボロミアは、すこしばかり、戸惑った顔をした。

草の上から見つめる緑の目が、アラゴルンの表情をうかがっていた。

「アラゴルン…そんなことまでしてくれなくていい。あんたは…あまり、そういうことが好きじゃないんだろう?」

アラゴルンは、いつか吸ってくれとねだられた乳首に辿りつく寸前だった。

期待するように固くなっている乳首を口の中へ吸い込み、音を立てて舐ってやるつもりだった。

意外なボロミアの言葉に、アラゴルンは思わず顔を上げた。

「いいんだ…あ…あの…そんなことまでしてくれなくても……挿れてくれれば…いい」

ボロミアは、目尻を赤く染めて、泣き出しそうな顔で、アラゴルンを見つめていた。

もう少し、頭を起こせば、盛り上がっている涙が頬を伝うだろう。

思いつめた顔をしていた。

唇が震えていた。

アラゴルンは、ボロミアが痛々しく、切なく、思わず抱き締めていた。

「悪い……どうしても、我慢できないんだ。アラゴルン、あんたをつき合わせるのは、申し訳なく思っている。だから、そんなことまでしてくれなくていい。ただ……俺を使って欲しい」

抱き締めたボロミアの顔が、アラゴルンの首筋にあたり、そこは、生暖かなもので濡れていった。

そんな頼み事をする屈辱が、ボロミアの身体を小さく震えさせていた。

「泣かないでくれ。なにも泣くことはないんだ。言っただろう?俺があんたを攫うつもりだった。言い出せなかったのは、あんたに比べて俺が卑しすぎるからだ」

「…優しいんだな。アラゴルン…」

ボロミアは、鼻を啜った。アラゴルンは、何度もボロミアの髪を撫でた。

「本当だ。ずっと、ボロミアのことを見ていた。あんたが昼間懸命に足を前に進めている間、俺は、そんなことばかり思っていた」

「嘘は言わなくていい」

「そんなことはない。本当だ。ずっとあんたを見ていた」

「…じゃぁ、もっと、わかりやすく態度に示してくれたら…」

「そうだな。悪かった。あんたに、恥をかかせた」

アラゴルンは、落ち着き始めたボロミアから、すこしだけ、身体を離した。

ボロミアは、涙で濡れた目に、星を反射させていた。

アラゴルンは、ボロミアの手を取り、指先に口付けた。

「許して欲しい。俺が、あんたを抱きたいんだ。俺のしたいようにして、構わないか?」

「…いい。あんたの好きにしてくれればいい。こんな身体でよかったら、好きに使ってくれ」

「なにを、卑屈になってるんだ?」

アラゴルンは、ボロミアの頬に口付けて、髪を後ろへと撫でつけた。

金の髪は、さらさらと指から零れていった。

こんな上等の感触は、味わいたくとも、味わえるものではない。

「…俺は、自分が、こんなにも浅ましい人間だとは、思ったことがなかった…」

「浅ましい?こう望むことが?誰かに愛されたいと思うことが、浅ましいとは、白の総大将は、あまりに禁欲的過ぎる」

胸に唇で軽く触れ、乳首を吸い上げたアラゴルンに、ボロミアは、熱いため息を漏らした。

「だが…こんなのは…こんな風にファ…」

ボロミアは、急に口を噤んだ。自分の言おうとしていたことに、気付いて、慌てて口を固く閉ざした。

身体を固くしたボロミアから、アラゴルンは、あえて、聞き出そうとはしなかった。

ボロミアの固く尖った乳首を舌で舐め回した。

ボロミアは、甘い声を上げた。

「…あいつに求めたように、あんたにまで求める俺は、まるで獣だ…」

ボロミアは、アラゴルンの与える感触に、しきりに身じろぎしながら、目を閉じ、自分を責めつづけた。

懺悔するようだった。

 

アラゴルンは、舌を動かしつづけながら、驚愕をやり過ごそうとした。

ボロミアが、口にしようとしていたのが人の名前だとわかり、アラゴルンは驚いた。

アラゴルンは、ボロミアを支配してきた人物を知っていた。

ボロミアの弟だ。

理知的な顔立ちのファラミアが、ボロミアを組み敷くシーンが、頭に浮かんだ。

淫靡だった。

国中から尊敬され、愛されている兄弟が、暗い部屋の中でだけは、そんな狂った行為に没頭しているのだ。

「ボロミア…あんた、一体どれだけの愛人がいたんだ?」

アラゴルンは、次々と、ボロミアの留め具を外していき、ボロミアの肌が夜気に触れる部分を増やしていった。

下肢を覆う衣装は、くるりと剥いた。

ボロミアの白い腹から続くものは、濡れて立ち上がっていた。

「…この身体が、一人だけ、なんて信じられないな」

アラゴルンは、物欲しげな部分を無視して、引き締まった腹を指で撫で回した。

筋肉は、アラゴルンの指が辿るたび、さざなみのようにこまやかな反応を返した。

「…俺は、誰かに好きだと言ってもらうのが、好きなんだ。何人かなんて、覚えていない」

「正直すぎる答えだ」

アラゴルンは、早くなる息に上下する胸を撫でた。

体温に、ボロミアの剥き出しになった足が、アラゴルンに絡みつこうとした。

アラゴルンは、ボロミアの足を広げさせ、間に身体を挟み込んだ。

ボロミアは、足を狭めて、アラゴルンを拘束した。

言葉では知らなくとも、身体は十分に誘うことを知っていた。

擦りつけてくる腰を、押さえつけ、アラゴルンは、もう一度、首筋から順に、唇で、ボロミアの身体を辿っていった。

ボロミアは、実に細やかな反応を返した。

鼻から漏らす切ない声は、アラゴルンを煽り立てた。

絡み付いてくる足と、手は、アラゴルンを絡めとって、離そうとはしなかった。

アラゴルンは、待ちわびているものの側で、濡れている金色の毛を、舐めた。

「あっ…」

ボロミアは、腰を突き出した。アラゴルンは、わざと、ゆっくり滑らかな金色を舐め回した。

ボロミアの喉が反り返っている。

突き出した顎が、切なげだった。

上目遣いに見るボロミアは、薄く汗をかいていた。

「この身体を自由にしてきた奴らが羨ましいな」

ボロミアは、声を押さえようとはしなかった。

腰を突き出し、アラゴルンに要求した。

「早く。アラゴルン…頼むから、早く」

腰を揺するボロミアに、アラゴルンは、わざと外したところにばかり口付けを与えた。

「俺の好きにしていいと、言っただろう?」

「…なぜ?」

アラゴルンを見つめるボロミアの目は、本当に不思議そうだった。

「俺は、俺のやり方で、あんたのことを可愛がりたいんだよ」

「…嫌いなんじゃないのか?」

「嫌いじゃない。こんないい身体を好きにできるチャンスを逃すのは勿体無い」

「だったら、この間…」

ボロミアは、言いかけたまま、恥かしそうに目を伏せた。

前回の性交を思い出したのだろう。

アラゴルンには、ボロミアの要求にあまり答えてやらなかった覚えがあった。

「あんたが、あんまりにも、好き者だから、驚いただけだ」

アラゴルンは、軽妙に言い放つと、ボロミアの足を持ち上げ、胸につくほど深く折り曲げさせた。

ボロミアは、自分から足を引き寄せる従順さで、アラゴルンに従った。

「あんたの身体に触るのも、舐めるのも嫌いじゃない。多分、あんたが、嫌になるくらい、好きだ。あんたは、とてもいい感触だ」

アラゴルンは、剥き出しになっている太腿に、唇を押し当てた。

もっと別のところを唇で触れて欲しいボロミアは、腰を捩っている。

アラゴルンは、太腿に吸い付いたまま笑った。

「ただし、あんたは、甘やかされすぎてると思うがね」

アラゴルンは、待ちわびて、濡れつづけているものを、吸い上げた。

ボロミアが、安堵のため息を漏らす。

アラゴルンは、ボロミアのものを口に含んだままで、笑った。

こうまで、あからさまにかわいらしい態度を示されては、可愛がってやらずにいられない。

アラゴルンは、ボロミアの尻に手を回して、そこの肉を揉みこむようにしながら、口のなかのものを吸い上げた。

ボロミアは、鼻声を漏らしている。

アラゴルンの髪を掴み、欲望のままに、自分のものへと押し付けている。

アラゴルンは、浮き上がってくる腰を両手で掬い上げ、ボロミアの身体を反り返させた。

ボロミアは、肩だけで身体を支えるようして、両足をアラゴルンの肩にかけた。

アラゴルンは、片手で、ボロミアの尻が落ちないように支え、指を、ボロミアが真実待ち望んでいる場所に、触れさせた。

ボロミアの足が、アラゴルンの頭を強く挟んだ。

言葉にならない声が、ボロミアの口から零れた。

「ボロミア、もう少し、大人しくしてくれ」

続きを欲する身体に、強く挟み込まれて、アラゴルンは、脈打つものから顔を離した。

挟み込まれた頭が痛いほどだった。

足を開かせて、自分の肩に置かれた太腿を撫でると、切ない声をボロミアは漏らす。

「アラゴルン…アラゴルン」

アラゴルンは、もう一度、指で、その場所に触れた。

絞り込まれたその部分は、アラゴルンの指が触れるたび、ひくひくと蠢いた。

アラゴルンは、ゆっくりと撫でた。

指の腹を使い、強弱をつけて、焦らしていった。

刺激の欲しいボロミアは、アラゴルンの顔を見上げた。瞳が揺れていた。

「王?」

いじましいような伺う声だった。

せつない目をしたボロミアが口にした言葉に、アラゴルンは、胸が締め付けられる思いがした。

アラゴルンは、自分の衣服のなかから、塗り薬を混ぜた香油を取り出し、素早く指に馴染ませると、ボロミアの中へ指を埋めた。

ボロミアは、王と、繰り返し、アラゴルンを呼んだ。

アラゴルンは、傷をつけぬよう気をつけながらボロミアの中を広げていき、ボロミアの反応を確かめながら、指を抜き差しした。

「アラゴルンと、呼べばいい」

「…ああ、でも…」

「…あれは、気にしないでくれ。ただの遊びだ。その方が気分がでるかと思ったんだ」

ボロミアの口から、王と呼ばれることは、アラゴルンに、恐れに近いものを与えた。

その尊い口から、王と呼ばれるほど、自分が尊大な存在だとは、アラゴルンにはどうしても思えなかった。

だが、ボロミアは、簡単にアラゴルンを王と呼ぶのだ。

昼間は決して呼べぬくせに、こういう時には躊躇いもせず。

それが、どんなに酷いことなのか、指一本で快楽に身体を火照らせている、きれいなけだものにはわからないのだろう。

アラゴルンは、慣れた刺激に緩んできた部分へと、もう一本指を押し込んだ。

ボロミアの顎が反り返る。

足が、アラゴルンの頭を締め付けた。

顔の前には、濡れきったものが揺れている。

アラゴルンは、それに舌を這わせて、抜き差しする指の速度を速めていった。

「あっ…ああ…アラゴルン」

抜こうとする指を追うように尻が、動く。

アラゴルンは、肩から足を下ろさせると、ボロミアの身体を反転させ、草の上で犬這いにさせた。

ボロミアは、足を大きく開き、腰を上げる姿勢のまま、期待するように待っていた。

アラゴルンは、その背中に伸し掛かった。

ボロミアの媚態に煽られつづけたアラゴルンのものは、なんの準備をしなくとも、その狭い部分を貫くのに支障はなかった。

「…ああ!」

ずぶずぶとアラゴルンのものが、ボロミアを押し広げると、ボロミアは、堪らない声を上げた。

「どうだ?美味いか?」

辱めるアラゴルンの言葉にも、ボロミアは、狂ったように頷いた。

「たいしたものだな。ここまでになるまで、一体何人を食い散らかしてきたんだ」

ボロミアの内部は、しっとりとアラゴルンを包み込み、食いちぎりそうなほど、強く締め付けていた。

「アラゴルン…アラゴルン」

力強く奥を抉るアラゴルンの腰に、ボロミアは、悲鳴をあげながら、身体を熱くしていった。

仰け反る首が、髪を散らし、時折見える横顔には、涙が頬を伝っていた。

全身で絞り込むようにして、ボロミアはアラゴルンを味わっていた。

まるで、身体の中心がそこにあるように、全ての神経がそこに集中していた。

薄い粘膜一枚を掻き毟しっていく固いもの。

それに、ボロミアは、完全に支配されていた。

アラゴルンに揺すられ、ガクガクと、前のめりに倒れこみそうになっていた。

「ああ…アラゴルン」

アラゴルンは、抱き上げるようにして、ボロミアを自分の膝の上に載せた。

深い挿入にボロミアは、仰け反った。

背中の描いたカーブは、この上なく美しかった。

ボロミアは、身体を捩って、アラゴルンの唇を求めた。

アラゴルンは、応えながら、ボロミアの尖った乳首を指で弄くった。

あわせた唇の中に、ボロミアの喘ぎが溢れていった。

そこに爪を立てると、絡め合わせていた舌が、引きつったように、動かなくなった。

「ここを弄られるのも好きなんだろう?」

アラゴルンは、下から突き上げながら、ボロミアの乳首を引っ張った。

ボロミアは、舌をひくひくと痙攣させた。

声すら、出ない様子だった。

吸い付く穴は、アラゴルンをきつく締め付けた。

「ボロミア、力を抜け。そんなに締め付けられては、思うように、あんたを可愛がってやれない」

ボロミアは、頷いたが、頷いただけだった。

陶然と自分の中の快楽に潜り込み、アラゴルンを離そうとはしなかった。

動きの取れないアラゴルンをおいて、ボロミアは、小さく腰を揺すり始めた。

自分で、自分のいいところを擦り始めた。

「なんとも、すざまじい…な」

ボロミアの内部は、緩急を交え、アラゴルンを締め上げ、しっとりと絡み付いてくる感触は、持っていかれないようにするだけでも、かなりの忍耐を要した。

アラゴルンは、汗に濡れ、金の髪を張り付かせる項を唇で噛んだ。

ボロミアは、気持ちのいい声を上げて、ますます腰をふる速度を上げた。

「そんなに、気持ちがいいのか?」

耳の下、顎の先、首筋へと唇を滑らせながら、アラゴルンが尋ねると、ボロミアは、躊躇いもなく頷いた。

快楽に火照った顔のまま振り返り、きもちがいい。と、うわ言のように、繰り返した。

「満足してもらえて、よかったと思うべきだな」

アラゴルンは、強引にボロミアの腰を止めて、もう一度、草の上で這う形にさせた。

頭を低く押さえつけ、尻を思いっきり両手で開いた。

「好きなだけ食えばいい。あんたが差し出したプライドに比べたら、ほんのちっぽけな価値しかないものだがね、だが、あんたをよがらしてやることはできる」

アラゴルンは、腹を突き破る勢いで、ボロミアの中に押し入った。

ボロミアが本当の悲鳴をあげるまで、尻を犯しつづけた。

 

ボロミアは、べっとりと濡れて、草の上で喘いでいた。

溜め込んでいたものを全て吐き出したように、もう、なにも身体のなかに残って気がしていた。

足の先まで熱く、ふわふわと感覚がなかった。

「大丈夫か?」

先ほどまで、恐ろしいような快楽を肛虐によって、ボロミアに与えていたアラゴルンは、自分の額の汗を拭うと、胸を喘がせているボロミアを見下ろした。

ボロミアは、指一本どころか、口の端をあげることも出来ず、表情を変えることもできなかった。

呆けた顔をしていると、自分でも思っていた。

「満足したか?」

アラゴルンは、からかうように、ボロミアをのぞき込んだ。

ボロミアは、上下する胸を止めることができなかった。

激しく息を吐き出す自分が恥かしいのに、それを止めることができなかった。

なんとなく目頭が熱くなる気がしたが、それだって、ボロミアの思い通り留めることができはしなかった。

「あんたは、泣く癖があるのか?」

顔を覗き込んだ、アラゴルンが、ボロミアの目の下を拭っていった。

かさついた指先は、火照った身体に心地よかった。

「……ありがとう」

礼だけ言って、ボロミアは、顔を背けた。

アラゴルンは、その髪を撫でた。やわらかな感触だった。

「礼を言われる筋合いはない。俺が、あんたを楽しんだんだ」

ボロミアは、アラゴルンを見ようとはしなかった。

だが、拒絶とは、まるで違っていた。

アラゴルンは、自分の身体を拭うついでに、動けない様子のボロミアを簡単に拭った。

ボロミアは、抵抗するだけの気力がないらしく、大人しかった。

胸がまだ、落ち着かない息を漏らしていた。

「どうするんだ?あんたの愛人たちは、あんたのことをどこまで綺麗にしてくれたんだ?」

アラゴルンは、広げたままの足の間に手を伸ばした。

ボロミアは、そこまで拭おうとするアラゴルンの手を慌てて止めた。

アラゴルンは、からかう目つきで、ボロミアを見た。

「いい。自分でする。そんなことまでさせられない」

生真面目なボロミアの顔をアラゴルンは、笑った。

「どうせ、奴らに一から十まで全部させていたんだろう?今更、恥かしがる必要がどこにある?」

ボロミアは、顔を伏せた。

「あんたには…迷惑をかけたんだ。そんなことまで、させられない」

ボロミアは、悄然としていた。

自分の痴態を恥じていた。

「ボロミア、俺では、満足できないというのなら、はっきりと言ってくれ。俺では、あんたの愛人になれないのか?」

落ち着きを取り戻しつつあるボロミアは、やはり、かわいそうなほど、奇妙に正しかった。

アラゴルンのほうが、目を見張りたくなるほど、快楽に貪欲にもなれるくせに、人から、それを搾取する自分を、こうまで罰しようとするのだ。

この同居は、ねじれた美を備えていた。

この美しさを、どう、捉えればいいのか、アラゴルンは、胸に湧く感情の処理に困った。

強引に、ボロミアの手を離させ、自分の出したもので濡れたボロミアの後ろを拭った。

「舐めて綺麗にしてやってもいいぞ」

アラゴルンは、本音でもある軽口を叩いた。

ボロミアは、首筋まで真っ赤になった。

「そういう初心な反応も、見せてくれるんなら、今後が楽しみだな」

アラゴルンの言葉に、ボロミアは、ますます顔を赤くした。

 

アラゴルンは、ボロミアの後ろを開かせ、中に指を入れて、奥まで綺麗にしていった。

ボロミアは、じっと大人しく耐えていた。

赤くなった顔を伏せ、アラゴルンに縋りつくように、身体を預けていた。

「俺は、あんたのことが好きだよ。ボロミア」

アラゴルンの言葉に、ボロミアは、はっとしたように、顔を上げた。

アラゴルンは、畳み掛けるように、にいっと笑い、ボロミアの唇に口付けを与えた。

ボロミアの唇は、やはり上等の感触だった。

 

アラゴルンは、ボロミアを抱き締めた。

ボロミアの手が、アラゴルンの髪に差し込まれた。

 

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リリコ様。こんなんで、どうでしょう?

いただいた感想メールに感激して、考えた続きです。

羞恥系???

楽しんでいただけるといいんですけど(笑)