白き城の秘め事 連載第10回

 

(前回までのあらすじ)

王に愛妾として望まれたボロミアは、弟の反対で深く悩んだ。だが、どうしてもボロミアは、諦め切れなかった。

 

「では、ボロミア、作法にのっとり、あなたに準備を施していきます。服を脱いでください」

ボロミアは、ごくりと息を飲み込んだ。あれほど思い悩んだ末、決めたことだというのに、釦にかけた手が震える。

ファラミアは、うつむくボロミアの髪に触れた。さらさらと流れる金の髪は、指に優しい。

「兄上、もう一度考え直してもよろしいのですよ」

優しげな声を出すファラミアの指は、兄の耳の後ろを擽った。その動きに作為を感じ、ボロミアははっと顔を上げた。

深い思いを宿したファラミアの瞳がじっとボロミアを見つめていた。この弟は、美しい顔をしている。ボロミアなどよりずっと。弟の目に自分のごくありふれた顔立ちを見出し、ボロミアは、もう一度ゆっくりと顔を伏せた。

「私は、決めたのだ……」

「……では、前にお話ししたとおり、事を進めさせていただきます。ぐずぐずしていないで、早くお脱ぎください」

ボロミアは、勢いよく身を覆う衣を脱ぎ捨てていった。この部屋にできうる限りの採光を取り込もうとよく考えられた窓から入る光に、ボロミアの白い体が照らされる。

ファラミアは、後ろへと下がり、用意していた道具を手に取った。その手に光る刃物の輝きに、やはり、ボロミアは息を飲んでしまう。

「では、はじめます」

ボロミアの足元に跪いたファラミアは、壷に入った練薬をボロミアの下腹へと塗りつけた。そして、そこに刃物を当てる。

ざくり。と、最初の一束が、ボロミアの股間から陰毛が剃られた。

ファラミアは、手の中に残った兄の体毛を無造作に床へと散らばらせた。裸足の、ボロミアの爪先に、その毛は触れた。ボロミアは、耐えた。

「兄上、あなたは、本当にこんな目にあってまで、王にお仕えしたいのですか」

数日前、頬を打ってまで、兄を止めようとしていた弟は、あの時とは違う静かな声で、ボロミアに尋ねた。

ボロミアは、酒宴でホビットたちが、旅の途中であったことを王に楽しげに語るのを聞いていた。王が、自分の弟と、目配せで通じ合うのを見ていた。何度か命の危機を乗り越えた仲間たちは、そこにいるだけで、王を慰め、王を楽しませ、ボロミアが王を慕う気持ちなどまるで王に近づけさせない。

「私は、お前みたいに頭がいいわけでもないから、執政の席に座ろうと、どうせ、体でお仕えするしかなかったのだ。その方法がすこし変わっただけ」

「……そうですか。すこし足を開いてください」

弟の手が、ボロミアの股間に生える男の印を掴んだ。弟の手は大きかった。小さな子供の頃にいたずらに触りあったことはあったが、ボロミアは、思わず身を捩った。

「……っ」

「動かないで下さい。兄上。危ないです」

ぐいっと、ボロミアのものを掴み、逃げようとする兄の抵抗を封じた弟は、兄の下腹を覆う毛を剃り落としていく。弟は、ボロミアの羞恥に配慮しなかった。ファラミアは、ボロミアのものを掴み、その下に生えた毛もさえも剃り落としていく。

「もう少し体の力を抜いてください。急には、動かないでください。あなたの体に傷をつけるわけにはいかない」

前をきれいに剃り落としてしまうと、ファラミアは、ボロミアに言った。

「さぁ、では、そこに横になって足を開いてください。股の間もすべてきれいにしなくてはなりませんから」

そうしなければならないことはわかっていたが、寝台に横たわり、弟に向かって大きく足を広げなければならないとなると、ボロミアの足は震えた。頼りないほど力が入らず、足が広げられない。

こんなまだ、朝の光さえ、そこ、ここに残す部屋の中で、執政家の息子が全裸になり、大きく足を開かなければならない。

「私は、説明しましたよね? 王の前に上がる妾は、一方的に王に対して、貞節を誓わなければなりません。ここの毛は全てそり落とし、私は、あなただけのものだと、王に証明しなければなりません。それがしきたりです」

ファラミアは、ボロミアの足首を掴んだ。ボロミアは震えている。助けを求めるようにファラミアを見つめ、そこに救いがないと知ると、唇をかみ締め、シーツをきつく握った。

執政家の長男が、弟に片足を取られ、開いたままの足を閉じることも出来ず、ベッドに横たわっている。

その上、その股間ときたら、ボロミアの男の印を取り囲むように生えていた陰毛がすっかり剃りあげられているのだ。ボロミアの目尻が赤かった。

「兄上、泣くくらいなら、どうして、王の妾になるなどと!」

ボロミアはふるふると頭を振った。ボロミアは、弟に掴まれた足首をじっと見ていた。

「……兄上」

ボロミアの涙は、頬を伝ったりはしなかった。だがそれは、この世に二つしかない美しい緑の宝石を濡らしていた。

 

続く。