料理を作ろう 〜メリピピ編〜
「ボロミアさん、だからそれは、入れちゃダメだって!」
「もう、鍋から離れて!そんなにかき回しちゃ中の具がめちゃくちゃになっちゃうよ!」
焚き火にかけられた鍋のまわりで、もう何度目かわらからない悲鳴が上がった。
今日は朝からフロドの調子が悪く、いつも料理を担当してくれているサムは、彼の側についていた。そのため、メンバーのなかでは食い意地が張っている分、料理の腕もなんとかなるメリーとピピンが代わりに料理をすることになったのだが。
大きい人のなかで、どうしても手伝いたいと申し出て、迷惑を掛けまくっている人物がいた。
最初は「わぁ、ボロミアさんと料理が作れるなんて最高!」とか、「教えてあげるよ。大丈夫。簡単、簡単」なんて言っていた二人組みも、ボロミアの不器用ぶりにさすがにちょっと角がでそうだ。
ホビットにとって最高の食材であるキノコせっかく選んだというのに、この大きい人ときたら、食べられるキノコとそうじゃないものを何度教えても見分けられないし、薬味の適量という言葉だってしらないし、かき混ぜてとたのんだら、いつまでも、いつまでも鍋のなかをかき回している。
「…あのね。ボロミアさん…」
「次は何をすればいいですかな?」
役に立とうという気持ちだけは一杯のボロミアは、失敗を挽回しようと、手伝う気は満々だ。
すまなさそうな目をして、メリーの指示待つボロミアに、二人は、もう、この人のかわいさには適わない。と、一番簡単な、薪拾いをしてくれるよう頼んだ。
どんなに愛らしい人の願いでも、とりあえず、鍋の側から離さないことには、まともな食事にありつけなくなってしまう。
「すぐ拾ってきますから」
薪拾いなら何度もしたことのあるボロミアは、勇んで二人を後にした。
その間に、メリーは、鍋に入ってしまった、毒ではないが、おいしくもないボロミアの取ったキノコを取り去り、ピピンは、薬味の利きすぎた味を何とか食べられるレベルに試行錯誤だ。
「おや、二人だけですか」
ボロミアが料理をすると言い出した時点で、なにやらいそいそと出かけていたレゴラスが、猪を引き摺って帰ってきた。
「うっそー!すごい大きな猪じゃん!!」
「さっき、アラゴルンもウサギを何羽か捕まえてましたよ。ギムリもおいしそうな木の実を拾っていたようだし、今晩はご馳走ですね」
ボロミアの手料理という餌につれた男たちが、せっせと食材を取りに出かけていたというわけだ。
なにを夢見ているのかしらないが、メリーとピピンの二人は、ボロミアの料理の腕をとっくり拝ませてもらったので、決してこんな猪をボロミアに預ける気になどなれない。
「レゴラス、とりあえず、この猪をさばこうよ」
「あっ、アラゴルン!そんなにウサギが取れたの?そっちでちょっと待っててよ。この猪と一緒にさばいとこ!」
ボロミアの姿が見えないので、がっくり肩を落しているアラゴルンの元へ、3人は猪を引き摺って近づいていく。
解体作業だってサムが一番上手だが、剣を使い慣れたアラゴルンも、これはなかなか上手くやる。
上等な食材を大量に手にいれたホビットは、つい上機嫌になってしまっていた。
「うわぁ!!!」
「早く火を消せ!ボロミア、とりあえず、まず火を消すんだ!」
少し離れた…多分、間違いなく鍋がかけてある付近で、ギムリとボロミアの叫び声が聞こえた。
レゴラスとアラゴルンは、声と同時にスタートを切ったが、嫌な予感が頭一杯に広がったホビットは、つい、足が遅れがちだ。
「どうしたのだ!」
「大丈夫?」
サムがそれはもう、大事に大事にしている鍋が真っ黒になって、ひっくり返っている。…勿論、先ほどなんとか食べられる味にしたシチューときたら、土に吸い込まれているところだ。
「ボロミアさん…一体…」
「…申し訳ない…」
「いや、わしが、話し掛けていたから…」
自分の失態に殆ど泣き出しそうな顔をしているボロミアに、ギムリが慌てて助け舟を出す。
多分、正当な反応をしたに過ぎないメリーの一言は、アラゴルンやレゴラスのキツイ視線に封じられる。
「ボロミアさんに、怪我はないの?」
それでも、本当に身体を小さくして謝るボロミアは、可愛らしくてしょうがなくて、ピピンはキノコシチューより、ボロミアを優先できる自分をすごいものだと感心した。
「本当に申し訳ない。…怪我はありません。しかし、シチューが…」
原因は、拾ってきて欲しいと頼んだ薪をせっせと鍋の下へとくべたせいだと一目でわかる。
「いいよ。ボロミアさんさえ、怪我してなきゃ、今日はレゴラスが猪をとってきてくれたし、アラゴルンだってウサギを仕留めてきてくれたから、大丈夫」
「そうそう、今からつくれば、いいことだし、ボロミアさん、悪いんだけど、鍋を洗ってきてくれるかなぁ」
こんな事くらい、と思いつつも、ボロミアを一人で行かせることが不安なメリーは、ピピンについていくよう指示をした。
ボロミアは、肩を落して、早速鍋を掴もうとする。
「だから!熱いから危ないでしょ!!!」
ホビットは二人がかりでボロミアに飛び付いた。
ひっくり返って目をぱちくりさせている可愛い人は、料理に使った鍋が熱くなることも知らなかったらしい。
「旦那方、食事の用意はできましたかね?」
あまりに騒々しく、そして、いつまでも食事が出来上がってこないことに、痺れを切らしたサムが、姿を現した。
大事な鍋がひっくり返り、フロドに食べさせることのできる料理など全くない状態を一瞥すると、じろりとメリーとピピンを睨む。
「あの…すぐやるから」
「そう、あのね…きょうはレゴラスたちが一杯獲物を仕留めてきてくれてね…」
「フロド様のすきなキノコをシチューの材料に渡したはずですだ」
「…申し訳ない、私がいろいろと迷惑を…」
ボロミアが謝罪を始め、それを庇うメンバーたちがそれぞれに口を開き始めると、サムは、素早く的確な指示をだし、皆を黙らせた。
アラゴルン、ギムリは、解体作業の続き。メリーとピピンはキノコ探し。そして、レゴラスはその護衛。ボロミアは、寝ているフロドが淋しくないようについていること。
その晩の食事は、さすがサム、という大層豪華でおいしいものだった。
しかし、しょんぼりと肩をおとしながら食事をしているボロミアに、ホビット二人組は、また今度一緒に作ろうねと、サムに内緒でこっそり話し掛けた。
END
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ボロミアさんは、お坊ちゃまなので、料理なんてしたことないんじゃないか。
と、勝手に想定して書いてます。
だから、余計やってみたかったりするんじゃないかと。
たとえ、TTTでアラゴルンが捨てようとした料理のような出来だったとしても、私はボロミアさんの手料理が食べたいぞ!