王冠の裏側

 

「どうだ?ぼうやは落ち着いたのか?」

王の間で開かれていた契約の場から、弟と連れだって席を立つことになってしまったボロミアは、約束させられたとおり、エレスサールの部屋を訪れていた。

王の居室というには、あまりにも簡素な部屋のなか、エレスサールが言うのに、ボロミアは眉を寄せ、隠すことなく嫌そうな顔をみせる。

「ファラミアのことをぼうやと呼ぶのはやめてくれと前にもいっただろう」

「坊やじゃなきゃなんて呼ぶんだ?神聖な契約の場で席を立とうとも、執政官の弟君か?」自室の椅子に自堕落に腰掛け、意地悪く笑うエレスサールは、戸口に立つ執政、ボロミアを手招いた。そのなんとも洒脱な感じに、ボロミアは軽くため息をつき、部屋の奥へと進む。

「あいつだって、あの契約のことは承知してたんだろ?」

王と臣下との間に結ばれる契約の中に、特別な一文を持つ執政官に、王は、その特別さ故の当てこすりをする。気重そうに近づくボロミアを見上げた瞳には、性悪な色がある。

「それどころか、あんたが生き返らなきゃ、あいつが俺の執政官だったんだろ?」

ボロニアの軽く握り締められた手の甲に指を這わせ、にやにやと笑う。

「あいつも死んだって嫌だろうが、俺も、あんな頑なな奴、頼まれたってベットには上げないな」

見下ろすボロミアの顔がいろいろな感情に揺れ動くのに、

「それとも、あいつもあんたみたいに旨い?」

王のかさつく唇はきれいな半月を描き、ボロミアは拒絶に固まった。

「まぁ、あんたみたいだとは到底思えないけど、喰っちまってる誰かさんに聞いてみないことには、真実ってのは意外なことが多いからな」

到底、ゴンドールの国を治める統治者には思えない下碑た表情が、意外なほど王には似合っていた。

王のペースに巻き込まれまいと、もう一度、ボロミアは息を吐いた。握られている拳どころか、指先まで強張っていた体から、力が抜けた。

「王はどうしてそう、我々兄弟のことに難癖を付けたがるんだ?」

「いや、あんたが好きだからね。どうしても、あんたに気のあるファラミア坊やが気になるんだよ」

ボロミアの指を開かせ、短い爪にキスをする。しかし、口付けつつ見上げる眼は、意地の悪い笑みを浮かべたままだ。

「今日、正式にあんたは俺のものになったことだし、もう、弟君に遠慮してこそこそとあんたを呼び出す算段だってしなくってすむことだし」

唇は、節くれ立った指を通り過ぎ、手の項にまるで神聖なキスのような口づけをくり返す。

「私が、王のものになった訳じゃない。執政官が王のものになっただけだ」

「そういう詭弁はファラミアにこそ似合いだ。あんたはもうすこし単純だろ?」

ほんの少し抵抗したボロミアの体を、王は強い力で自分の方へと引き寄せた。椅子に腰掛ける自分の上へと、執政官の体を落とす。

「おもしろい契約を考えるよな。て、いうか、代々この国の王は好色だったのか?いくら執政家の人間が容色に優れようとも、正式な契約書まで交わして、執政官をベットに上がらせるなんて、民草の考えを遙かに越えてるね」

長い野伏生活により強靱な筋肉に覆われた王の体は、戦士として十分に耐えうる執政官の肉体を苦もなく膝の上へと抱き上げる。

「俺の執政があんたで本当に良かったよ。ファラミアじゃ、あの契約にサインできない」

「いや、ファラミアの方が、正しく執政家の血を受け継いだ容貌をしている。それに、あの契約は、王の独断先行と執政官の逸脱を防ぐためのもので、裏の意味なんて、どうしても履行しなければならないものでもない」

「で、いままでの王達は執政官を自分のものにしなかったのか?」

王の手はボロミアの太股をなで回した。

 

『王は、執政官を良く用い、彼の者の満足足り得る利益をあたえる努力をする』

『執政官は常に王の元にあり、王の求めるものを最善の努力ともってかなえるものとする』

 

「いや、そういう話は・・よくわからないんだが」

「王達が、なんでもおいしく頂ける器のやつばかりなら、ベットの上は最適な密談場所だ。あんたが言わないでおいたところで、美形でならした執政家の人間を前に指をくわえているほど、ここの王はバカじゃなかったろうし、ベットはいる間はお互い何の隠し事もできないほど近く、しかも、楽しい」

「ベットの中の執政官は間違いなく王の元にあるのだし、王である俺も、執政官たるあんたが満足足り得るよう努力するのに決してやぶさかじゃない」

王の手が、剣を配していないボロミアの腰を探る。

「なぁ。ここの噛み跡」

いいかけて珍しくエレスサールは口をつぐんだ。誤魔化すように、背中を指が這い回る。

 

「そういや、坊やはあんたがここに来るのを泣いて嫌がったりしなかったのか?」

エレスサールは、抱き込んだ背中から、首筋に唇を埋め、金の髪まで甘噛みする。くすぐったさに身を捩って逃げようとするのを、手は、しっかりと腰に回ってボロミアの動きを封じる。

「泣くわけがない。王はあいつの年を幾つだと思っているんだ」

「幾つだろうが、坊やはあんたがいなきゃダメなんだろ?執政官が王のものだなんてこと、俺よりもわかりきってたはずなのに、書面にされた途端、逆上してあんな長老達の前ですら礼を失することまでする」

「ああ、本当に俺の執政があんたで良かった。あんたの体は気持ちいいよ」

首筋に、くり返されるキス。

「ファラミアの方が、父君に似て、美しい容姿だ。私程度の執政で満足する王は、趣味が悪い」

くり返される甘噛みに、ボロミアは体の力を抜き、自分と同じくらい鍛えられた筋肉へと身を持たせかけた。

「俺は、陰険でこざかしいファラミアなんかより、あんたのおおらかで好奇心に溢れたところに惹かれるし、いくら頭がきれようと、あんな頭でっかちと、この気持ちのいい体を比べたら、どちらがいいかなんてすぐわかることだろ」

「あまりうれしくない褒められ方だな」

「そうでもない。あんたの母親の血に感謝すると言っているんだ」

王は本格的にボロミアの体を攻略し始めた。

手始めに、栗色に近い金の髪に隠された耳に舌を這わせ、その間にも、手はゆるく開かれた太股をなぞる。

「なぁ、ここに来ていること、ちゃんと弟に伝えたのか」

舌が首筋をさまよい、嫌がると分かり切ったささやきを耳に吹き込む。

「おい、返事をしろよ。あんたの敬愛する王様がお尋ねなんだぞ」

「私の敬愛する王は、民の前にある。ここにいるのはただのいやらしい野伏だ」

王の手が太股よりももっと上を探ろうとするのを押しとどめ、ボロミアはエレスサールと向き合うため、身を捩った。

「違うか?」

「いや、違わない」

王は、にやりと口元を歪めて笑った。

王として振る舞わない男が、ここにいた。

ここにいる男は、野蛮で、欲望に忠実で、

「王には王の、野蛮な野伏には、それに似合いの愛情を示そう」

ボロミアはエレスサールに噛みつくようなキスを仕掛けた。

深くまで相手の舌をむさぼり、絡め、吸い尽くそうと求め続ける。歯裏を辿り、上顎を舐め、かさつく唇も唾液で濡らす。

お互いを喰らい尽くすようなキスから、急に身を引いたボロミアを、エレスサールの舌が追う。それを押しとどめると、ボロミアはエレスサールの体の上から下り、彼の足の間にひざまづいた。

「弟には言わずに来たんだ

今晩は、ファラミアのところに行く。だから、わざわざあいつを傷付けるような真似はしたくない」

ボロミアの唇が衣の上からエレスサールの下肢に触れた。

「そんなこと言われて俺は傷つかないとでも?」

その程度のことで傷つくような柔な心を持つはずがない、といいたげな目が、エレスサールを見上げた。そして野伏に似合いの愛情を示すため、下肢を被う衣をかき分け、指と唇が性急に下腹をさぐる。赤い舌が、見え隠れする。

「悪い執政だ」

濡れた口内にずるりと含まれ、エレスサールは執政の髪を掴んだ。

 

最早、人の立てる音のしなくなった夜更け、静かに扉をノックして姿を現した執政を、ベットからまじまじと見つめ、エレスサールは身を起こした。

「何て言うか・・・・あんたは律儀なんだな」

「来ない方が良かったのなら、このまま戻るが」

言いよどむボロミアを遮るように、慌てて王は言い募った。

「いや、そういうわけじゃ・・・まさか、今晩本当に来るとは思っていなくて、ああ、いや、来てくれて嬉しいよ。そんな戸口に立ち止まらずに、もっと側に来て顔を見せてくれ」

明かりも落とした部屋の中では月明かりだけが頼りで、すこし俯き加減のボロミアでは表情も読めない。

「私の他に尋ねてくる予定があったか?」

「いや、ない。今晩は独り寝の予定だった。奥方はなにやら儀式のような事をしていて、しばらく顔を見せないし、この城の人間は、野蛮な野伏のところへ等来る気すらおきないだろう」

国中全てを歓喜と熱狂に巻き込んで凱旋した王は、ベットの上へと腰を下ろした執政の膝を引き寄せ、頭を乗せる。

「多情な王にしては珍しい夜もあったもんだな」

「そんなことはない。俺のベットはいつも一人用なんだ」

「小間使い達に手を出さないのはいいが、王妃様には世継ぎを誕生させて頂くべく、愛情をそそいで」

エレスサールは膝から見上げるボロミアの唇に指を這わせて、言葉を封じた。

金の髪に縁取られた顔が、こんな深い闇にふさわしくなく賢しげに見える。

「私達のことは放っておいてもらおう。特に奥方様は高貴なエルフでいらっしゃるんだ。あの方の愛情は深く、優しく、人間の道具になるにはあまりにも相応しくない」

ボロミアは、失言の許しを請うように、エレスサールの髪に指を差し入れ、何度か梳いた。癖のある髪が、さらりとながれる。

その感触は、なつかしい旅に頃とはまるで違っていた。

あの頃は、命さえあればよいという程度の日々を過ごし、小さい人たちを守るため、夜も昼もなく、体はいつも傷を負い、身なりなど気にも留めることもできなかった。

「今晩、私は誘いを受けたと思ったんだが・・・勘違いだったんだろうか」

昼間、国境近くの警備について、数人の将を交え相談を行った際、エレスサールはボロミアに素早く耳打ちをした。あの、ひやりとした瞬間は確かにあったはずなのに、エレスサールは櫛付ける指の感触を楽しみ、穏やかに目を閉じている。ボロミアは困惑の表情を浮かべた。

「いや、あんたがこんなにも律儀な性格だということを失念していたんだ」

王は髪を梳くボロミアの手を取り、何度か自分の顔を撫でさせると、唇を寄せた。

「昨夜、俺のことは唇だけで満足させて、弟のところへ行くと言ったあんたを傷付けてやろうという腹いせもあったし、あんたが本気にするはずもないと、どうしてだか、そう思っていたんだ」

下から手を伸ばし、今度はエレスサールが、ボロミアの顔を辿る。筋の通った鼻、柔らかい頬、少し肉の薄い唇、穏やかな目。今は不思議そうにエレスサールを見つめている。

「ああ、そうだ。昨夜散々ファラミアのものをくわえ込んでいたあんたが、今晩、俺のところへ顔を出せるはずもないと思い込んでいたのかもしれない」

「恥知らずな言い方はよせ」

王は意地悪く唇の両端を引き上げ、笑った。

「恥知らずはあんただ。人間は本当のことを言われると腹がたつもんなんだ」

ボロミアはじゃれかかるエレスサールの手を振り払い、膝上で無防備に笑う王の耳を引っ張った。

「私は、やはり、おいとました方がよさそうだな」

膝の上から王の頭を下ろし、ベットから立とうとするボロミアを王の手が遮った。

「そんな冷たいことは言わずにゆっくりしていけよ。ああ、昨夜の疲れで眠いのなら、あんたは眠ってくれても構わない。夢の中でも感じられるほど、十分可愛がってやるから」

王はボロミアの手を取って、余裕の笑みを浮かべる。

「ああ、どうしてこうも野蛮な人間がこの国の王座に座っているのかわからない」

「それはあんた達、執政家の奴らがこの国の民を十二分に統治してきたから、王座に誰が座ろうとも、この国に揺らぎない未来があるせいさ」

執政がベットへと上がるのを待つ王に、ボロミアはため息をひとつ付いて、自ら衣を開くと一歩踏み出した。

 

「おい、どうしたんだ?」

ボロミアが王に覆い重なるように身を横たえたあと、貪るような口づけをくり返し、お互いの体に手の平をさまよわせ。

エレスサールは、ボロミアの足に手をかけ、そのまま動きを止めてしまった。

「・・なに?」

ボロミアは次を求めて焦れる体をもてあまし、足の間にある体を、膝で挟んで要求を訴える。

隠されることもなく、眼前に晒されているボロミアの起立は立ち上がり、王の手か、口か、気持のよい感触を待ちわびている。

王は、それを無視して、ボロミアの太股をもっと広く開かせると、足の付け根にある、どんなにしたってボロミア自身には付けることのできない噛み跡をじっと見つめた。

「あんたは昔、律儀で誠実な人間だと思っていたんだが、一度死んで、誠実さは黄泉の国へと置き去りにしてきたのか?」

「ああ、何を?・・・噛み跡のことか?自分では見てないんだが、そんなにも酷いか?」

「酷い・・・というか、この場合、こんな跡を見せられる俺の方が酷い目にあっているような気がするな」

物憂げな返答ではあったが、他人との情交の跡を指摘されても、少しの動揺もみせないボロミアに、エレスサールは苦い顔をして傷跡を指で辿った。

「昨夜、ファラミアがやったんだろう。歯の一本一本まで形が分かるほど、傷ついている。これはひどい内出血を起こしているな。痛くないのか?」

指先が触るのが痛むのか、ボロミアの体に力が入った。

「・・・この間も、腰に噛み跡があった。こういうのがあんた達の流儀なのか?」

エレスサールは青くというよりは黒くなり始めている跡を触るのをやめ、その付近の肌を優しくなでる。

「王よ、私達のことは放っておいてもらえませんか?」

ボロミアは先程の王の言葉のままに口を開いた。

「弟は、繊細で傷つきやすく、たわいなく可愛らしく、あなたのような高貴な方が、気に掛ける必要はありますまい」

「嫌みだな、ボロミア。傷つきやすく、可愛らしい存在が、俺の目に触れることなどわかりきっているのに、このような跡をつけようとするものか」

「王は寛容な方ですから、契約をたてに、私に愛人のひとりも認めない、というようなそんな無茶な要求などなされませんでしょう」

「・・・・だから、そういう嫌みな口調はやめてくれ。それにあんたの愛人がひとりきりなんて、そんな嘘、俺にまでつく必要はない」

王は、開かせたままの内股に唇を寄せた。

「俺だって、あんたを酷い目にあわせてみたい気はするから、ファラミアの気持だってわからないわけじゃないが、

・・・本当はあんたの方にこういう趣味があったのか?」

王の歯がボロミアの柔らかい肉をゆるく噛む。

「やめてくれ!」

慌てたようにボロミアは声を上げた。

黒に近い王の髪に指を差し入れると、その頭をしっかりと抱え込む。

「私にはそういう趣味はない。跡が付くほど噛まれるのなんて、絶対にごめんだ」

あまりに力を入れて止めるのに、王の方が痛みにうめいた。

「王に私を縛り上げたり、おかしな事をしたりする気があるのなら、もう決してベットには来ない」

「しない。・・これまでだって俺はそういうことはしなかっただろ。もう離せ」

本気で髪を引っ張るボロミアに、王は顔をしかめて、その手を捕らえた。

「俺はあんたを傷付けたりしない。いままでも、これからも。だから離せ。ボロミア、落ち着くんだ」

やっと髪から手を離したボロミアに、王は何度か自分の頭を撫でた。

「かなり痛かったぞ。このバカが」

「悪い。・・・その、とにかく私は冗談でもそういうことは嫌なんだ。そういうことは・・・理解ができない」

「わかった。許すよ。俺も不用意な発言をしたしな」

エレスサールはしきり直すように、やさしくボロミアを抱きしめた。

ボロミアも過剰に反応した自分を恥じているのか、されるままになっている。

「あんたが過去にどういう体験をしてそういう考えになったのかは、後日ゆっくり聞かせてもらうよ」

「ああ、そうだ。ファラミアにだけ、噛むことを許していることも、まぁ、今晩は何も聞かずにおいてやろう」

王は、釘を差す事を忘れなかったが、鷹揚な言葉を使い、未だ緊張を見せるボロミアの背を撫でた。

「どうだ?俺は寛大な王だろう?」

エレスサールの指が、意地の悪いささやきと共に背中を下りた。指が、尻の割れ目を探るのをボロミアは力を抜いて迎え入る。

「そう、あんたも俺に寛大な気持を示さなくちゃいけない。俺は今晩だけでなく、昨夜だってあんたの弟に譲歩しているんだ。もっと積極的になって俺を楽しませてくれ」

顎を突き出すようにしてキスをうながず王に、ボロミアは薄く口を開いて応えた。

「さぁ、ぐずぐずしていると夜が明けてしまう。あんたの気持ちのいいここで、俺にたっぷりと快楽を味合わせてくれ」

王の言葉にボロミアはかすかに頷いた。

 

ボロミアの口から、鼻にかかった甘い声が漏れていた。

先程から、声は途切れることなく続いており、寝台の揺れも止まることはなかった。

「いいだろ、この深いところを擦られるのはたまらないだろ」

ベットに四つん這いになったボロミアは、エレスサールの言葉に、狂ったように首を振る。

「いい・・いい」

「そういう素直なところは、あんたの美徳の一部だよな。だからこそ、あんたに溺れちまう奴らが後を絶たないっていう悪い面もあるがね」

王の与えてくれる刺激をもっと深く味わおうと、ボロミアは自分から大きく足を広げる。

「あっ、もっと、奥。そこ、そこがいい」

頭を低くして、尻を突き出したボロミアの背中を見つめ、王は、ボロミアの求めに応じる。

美しくしなる背中に、幾粒も汗が浮き出ていた。

夢中になってシーツを握りしめる手や、鍛えられた肩から腰に至るまでのきれいな筋肉。張り詰めた尻。

王は、ボロミアから見えないように、唇を舐めた。

 

ボロミアは、彼自身が自覚しているよりも、はるかに男達の劣情をそそる。きちんと教育を受け育った上流の人間の雰囲気を持ちながら、おかしな程に倫理観をもたず、奔放さを隠そうとしない。求められるままに心を明け渡し、体を征服すればためらいもせず応える。それどころか、体は、もっとと、求める。

あまりに無邪気だから、多くの男達が、自分だけを愛しているのかと誤解したくなるのだ。

誤解は、ボロミアへの独占欲を刺激する。

それが、彼をとりまく男を暴力的にさせる原因だろうか?

今はもう薄くなった腰の噛み跡を眺めて、王は、もう一度舌なめずりした。

彼を自分だけのものにしたくなる気持は分かる。

ファラミアのように、彼の体に自分の印を刻み込みたいと、一度ならずそんな気分を味わった。

彼を支配し、絶対的優位に立ち、ひれ伏させ、彼の頭を地面へと押しつけ、自分だけへの愛を誓わせてみたいと思ったことだってある。

ただ、自分は、この体にながれる血のおかげで、何もせずとも彼の支配者であり、そこまで熱く思い詰めることがなかったが。

眼前には、自分の律動にあわせ、揺れ動く尻がある。

そのいやらしい揺らめきに、王は、少し考え直した。

いや、単純にこの美しい体を自分の手で歪めてみたいと、そう、思うだけなのかもしれない。自分の手で、傷付け、締め上げ、その時、彼の上げる声を聞いてみたいだけなのかも。

王の手は、ボロミアの硬く絞まった腹を探り、臍からつづく毛を辿って、汁の零れるものを扱いた。

ボロミアの内部はきつく王を締め付け、粘膜は熱く王を包み込む。

「あいかわらず、素晴らしい気持のよさだな。どうしたらこんな体になるんだ」

擦られる度、ひくつく体が、王にため息をつかせる。

「ああ、そんなに締め付けたらだめだ。あんただってもっと楽しみたいだろ。もうすこし緩めるんだ。そう、力を抜いて、いい子だ。ゆっくり楽しむんだろ」

王の手がボロミアの起立から離れると、嫌がってボロミアは自分の手を伸ばした。

焦ったような手の動きに、くちゅり、くちゅりと濡れた音がたつ。

「だめだ。俺をいかせて、もう寝るつもりなのか?」

「あ、」

「手を離すんだ、ボロミア」

「んっ、」

王の手によって強引に手淫をやめさせられたボロミアは、恨みがましい目でエレスサールをにらんだ。

「させろ。あんたがいくまでちゃんと付き合ってやるから、いかせろ。私はもう限界なんだ」

「だめだ。あんたは昨夜もお楽しみで腹一杯なのかもしれないが、俺は飢えてるんでね。こんな程度であんたにいかれちゃ、最後まで付き合ってもらえなくなっちまう」

エレスサールは伸び上がるとボロミアの頬を舐めた。

「がまんだ。できるだろ?あんたのここで、俺をもっと遊ばせてくれよ」

下品にエレスサールは腰を揺すった。ボロミアはその動きにすら甘い声を上げる。

「ああ、気持ちいいな。あんただってそうだろ。俺のでここを擦られるのがたまんないんだろ?」

「いきたい。エレスサール。・・・いきたい」

ボロミアは自分の中の快感に耐えるようにしっかりと目を閉じ、眉を寄せている。

意味もなく横に振られる頭に、金の髪が顔を何度も叩いている。

エレスサールはボロミアの表情をしっかりと観察して、上り詰めさせないよう挿入の角度を変えた。ボロミアの腰は、その動きにつられ、鞠のように跳ねて翻弄される。

 

「もっ・・と、おくっ」

エレスサールに向かって開かれた尻が、抜けようとする彼を求めて後ろへと突き出される。

「しろ・・よっ。しろ。しろっ」

「こら、誰に向かって命令してるんだ」

汗のしたたる背中は、さざ波のように細かに震えていた。

もはやシーツを掴むのをやめ、背後へと伸ばされたボロミアの腕は、浅い挿入で焦らそうとするエレスサールの腰を求めた。

手が、エレスサールをかすめると、自分に引き寄せ掴もうとする。

「なんて行儀の悪い。俺のマナーがなってないと普段言っていたのは誰なんだ」

ボロミアは哀願するような目で、エレスサールを見上げた。

「もう、いきたい。だめだ。がまんできない。もっと深く突き上げてくれ」

ボロミアは恥も外聞もないねだりをくり返した。

「そうか?まだ、十分味わえるだろ?あんたはこうやって楽しむのが大好きだろう?」

「もうだめ・・だ。してくれっ。もう、ダメだ。・・・エレスサール、エレスサール!」

こうなるとボロミアは他愛もなかった。

 

王は、ボロミアを抱き起こした。

背後から抱き込む形で膝に乗せると、ボロミアの口からかすかな悲鳴が上がる。

「ほら、動いてもいいぞ。好きに腰をつかえ」

ボロミアは、自分の中を一杯に開いているものを味わおうと腰を上下させた。

「んっ」

しかし、不安定な体勢では十分な刺激を得ることができない。

焦れるボロミアは、首を激しく振ってむずがった。

「どうした?好きに動いていいんだぞ」

王は、ボロミアの美しく張り出した胸の隆起をまさぐり、金の体毛に隠れる乳首を指で摘んだ。

「・・・んっ、・んっ」

こね回す王の指に、ボロミアは身を捩る。

乳首への刺激に誘発されて、体にこもる熱がもっと酷く内部を抉って欲しがる。

しかし、ボロミアがシーツへと両手を付き、体勢を安定させようとするのを、王は抱き寄せ、許さない。

「・・させろっ」

ボロミアは腕の中で暴れて、王の腕を振りきろうとした。

王の手は、腰を掴んで離さない。

「おやおや。なんともつつしみのない」

「だったら、動け。・・・・ちくしょう!」

ボロミアは膝の上から落ちそうなほど、激しく腰を動かす。

だが、王の協力なしに、ボロミアが望むほどの刺激は、味わうことができなかった。

苛立ちに何度も頭を強く振る。

王は、ボロミアの両腕を掴み、そこを軸にして、下から強く腰を打ち付けた。

「っっ!」

ボロミアの口から、息が押し出された。

王が、激しく腰を押し上げる。

王の動きにつられるように、ボロミアからも腰を押しつけ、深く、強く、刺激を味わう。

王は、跳ねるボロミアの背に、唇を寄せ、何度もキスをした。

 

「あっ、あっ」

背後からの体位では、極めることを許されず、今度は正面を向き合いながら、膝の上へと抱かえ上げられていた。

ほとんど意識が朦朧となってしまったボロミアは、もはや、王が揺する動きにつられて快感に反応しているだけだ。

「ボロミア」

閉じることを忘れてしまった口から、唾液が零れだしている。それは口ひげを伝い、顎を濡らす。

王は、濡れるそこを舌で舐め上げる。

「ボロミア、ボロミア」

唇は、喉を伝い、尖った乳首へとたどり着いた。優しく甘噛みするのを嫌がり、ボロミアは王の頭を抱かえ込もうとする。

「ボロミア」

それは、まるで王を強く抱きしめているようだった。

王の手も、ゆっくりとボロミアを抱きしめた。

王は、そのまま動きを止める。

王の腹には、零れだしてしまっているボロミアの精液がぬめっている。

だらだらと零れるその液体は、体温のせいか、あたたかい。

王は、力が抜け、重くなっているボロミアの体に指を食い込ませ、強く、早くその腰を打ち込んだ。

「んっ」

ボロミアは耐えきれないように大きく目を見開き、王にしがみついた。

王は許さず、深く、長く、奥を抉る。

「っ!」

大きな波が二人をさらう。

 

王が満足の息を長く吐いたとき、ボロミアの体から完全に力が抜け、膝の上から崩れ落ちた。

慌てたように、王はその体を支える。

「おい、大丈夫か?」

「・・・あ?・・・ああ」

抱き起こされる途中で意識を取り戻したボロミアは、叫びすぎた声に喉をやられたのか、くぐもった声しかでない。

「しっかりしろよ」

王は笑いながら、ボロミアを膝からおろした。

お互いの下肢が、ねっとりと濡れているのに、もっと笑いを深くする。

「なんて、格好だ。こんなにどろどろなんて、どうしてくれる」

王は、自分の下生えに指を突っ込み、ボロミアにその濡れた指先を突き付ける。

「・・もう、そんな冗談につきあえる余裕はない」

嗄れた声を出すボロミアは、嫌そうな顔をしただけで、ベットへと横になってしまった。

「すこし、やすませてくれ。動けるようになったら部屋に戻るから」

「まだしたいって言ったら?」

邪気を含んだ王の言葉に、ボロミアは眉をしかめた。

「一人でしてくれ。いやなら、もう少し手加減しろ」

「ああ、そうだ。明日の晩じゃないなら、また声を掛けてくれたらこの部屋に訪れてもいい」

ボロミアが事務的に言葉を返すのに、王が鼻白んでいると、ボロミアはさっさと意識を手放した。

汚れた下肢を拭いもせず、深い眠りへと真っ逆様に落ちて、すうすうと寝息を漏らす。

王は、呆れたように笑うと、自分の身を拭うために、ベットから起きあがった。

 

王は、自分の体についた精液を拭うと、ついでだと、ボロミアの体も乱暴に拭いた。昨夜から続く疲れのためか、眠っているというのに、ボロミアの顔はわずかに顰められている。

「ボロミア、そんなに何もかも他人に分け与えてはだめだ」

よほど眠りが深いのか、乱暴に拭われようとも、濃い影を落とす瞼が開かれることはない。

「そんなに他者に情けをかけていては、あんた自身には、なにも残らなくなってしまうぞ」

王は、人の理を無視してまで、無理をして生き返らせた執政の鼻筋の通った顔をじっと見つめた。苦い感情が、体の中にわき起こる。

「他人を許す必要などない。俺だって、ファラミアだって、ただ、自分の欲のためにあんたを貪るだけなのから」

執政の眠りは深い。

 

王は、一人ため息をつくと、その隣へと身を横たえた。

夜は深い。

 

                                                       END

 

Back

 

 

王様に愛される執政官のボロミアさん。

ごめんなさい。ボロミアさんが生きている設定を選択してしまいました。

生きていて欲しいんだもん。

幸せになって欲しいんだもん。

まだ、生きているという設定で何か書くと思います。

やらしくて、ひとでなしだけど、でも、素敵な王様にもラブな作者なのでした。