お風呂に入ろう 〜メリピピ編〜

 

「あの…よろしければなのだが…」

めすらしく言いよどむボロミアに、メリーとピピンは、首をかしげながら、ボロミアを見上げた。

「私も、一緒に入らせていただくわけにはいかないだろうか?」

今日も野宿のつらい夜だったが、レゴラスがいつも通り、ふらりと森の中をさ迷い歩き、旅に一行に吉報を携えて戻ってきた。

吉報の内容はこうだ。ほんの少し岩山を登らなければならないが、温泉の湧き出ている泉がある。レゴラスにとってほんの少しは、もしかしたら、大した岩山かもしれないが、一行にとって、温泉に浸かれる機会などほとんど無いも同然だ。

皆、さっさと移動して、温泉に入ることに決めた。

そして、やはり険しい岩山を乗り越えて温泉にたどり着いたのだが。

「僕らと一緒でいいの?」

「ほんとに?ボロミアさん!」

何かあったときのため、少人数で湯に浸かりにいくことに決まり、最初にフロドと、サムが。それから、メリーとピピンが入り、後は、順に一人づつと決まっていた。

ボロミアは、湯の側で剣を携えて番をしていたのだが、メリーとピピンが湯に入ろうとしたところで、自分も入りたいと言い出した。二人組みにとってすれば、ラッキーとしかいいようのない展開なのだが。

「フロドたちが入っている間に、この辺りを一周してみたが、これといって危険はないし、少し離れたところには、レゴラスも、アラゴルンもいることだし…それに…あの、私はあまり人と一緒に風呂に入ったことがなくて…楽しそうに入っているのを見ていたら…」

「いいよ。いいよ。一緒に入ろうよ。ボロミアさん!」

「そうだよ。僕たちは、ボロミアさんと入れるなんて、最高に幸せだよ!」

ピピンは、湯の中につけかけていた足をさっさと出して、ボロミアへと駆け寄った。

ボロミアの服についたたくさんの留金を外す手伝いに余念が無い。

「ねっ、剣をすぐ届くとこに置いておけば、平気、平気。僕が、ボロミアさんの背中を流してあげるよ」

メリーも、すかさずボロミアの剣を取り上げた。

ボロミアは、くるくるとこま鼠のようにはしこく動く二人にくすくすと笑いながら、自分でも、衣服の留金を外していく。

「うわー。やっぱりボロミアさん、きれいだ」

「ほんとう。ボロミアさんの体、めちゃくちゃ、すべすべ」

「なにをおっしゃるのか。私の体など、傷だらけだし、どこもかしこも固くて、決して誉められる代物ではありませんよ」

「うそだー。絶対、きれいだよ。触っていい?」

ボロミアを自然に湧き出たものため、濁りのある湯の中へと連れ込みながら、メリーは、下心に気づかれない程度に、ボロミアへの接触を試みた。

「すごい、筋肉!背中、格好いい!」

ボロミアは、背中をはい回るメリーの手をくすぐったがってはいるが、嫌がりはしない。

「ねぇ、ねぇ、足にも触っていい?うわー。すごいねぇ」

ピピンのすごいは、足の筋肉に対してではなく、薄く生えた金の体毛をもつ肌ざわりについてなのだが、ボロミアは、一向に気づかない。

「どうして、あんまり人と風呂にはいらなかったの?」

なめらかな肌触りを満喫しながら、二人は、この人を放っておいたというゴンドールの人々を不思議に思った。

「私の家は、専用の浴場を持っていたということもあるし、兵士たちの浴場に、私が入ろうとしても、絶対に入れてくれなかったんだ」

「えっと、皆がボロミアさんを仲間はずれにしたってこと?」

「うーん。仲間はずれ…だったのか…弟がいうには、私は大将だったから、そんな人間が一緒だと落ち着いて風呂にも入れないと、いうことなんだが…」

「弟さんは、一緒に入ってくれなかったの?」

「ファラミアは、狭いのが嫌いなのが、執政家の浴場より、将校たちが入る風呂場へでかけていたんだ。だから、ごくたまに、そっちに入りに行ったんだが…行くと、将校たちは風呂に入ろうとしないし、ファラミアは、長風呂が苦手なのか、話し込んでるとすぐに鼻血を出してのぼせるし…」

ボロミアは、悲しそうな顔をして、どれ程、皆と一緒に入る風呂というのに憧れていたかを語りだす。二人組みは、うん、うん。と頷きながらも、ボロミアへのボティータッチに余念が無い。

「さて、お二人の体を洗って差し上げよう」

ボロミアが、ざぶざぶとお湯を掻き分け、岩場に置いてあった石鹸をとりに行く。メリーとピピンは、湯の中から飛び出したきゅっと締まったボロミアのお尻に視線が釘付けだ。

「きれい」

「ほんとう。ピンクだ」

湯から上がったボロミアが、石鹸を手に、二人を呼ぶ。

 

「本当にいいの?」

岩場に腰を下ろしたメリーは、ボロミアに、背中を向けたまま、そっと後ろを振り返った。

「当然ですよ。私は、こうやって背中を流しあったりしたかったんです」

ボロミアは、大変嬉しそうな顔で、洗い布に石鹸を擦りつけている。

「じゃぁ、僕が、ボロミアさんの体を洗ってあげるよ」

ボロミアの後ろに立っているピピンが、石鹸を手につけて、ボロミアの背中へと手を伸ばした。

「ピピン、ちょっと待って。くすぐったいです。私が、メリーの体を洗えなくなってしまう」

「いいよ。最初にボロミアさんの体を洗って上げるってば」

それでも、ボロミアは、石鹸のついた布で一生懸命メリーの背中を撫でる。

「しかし、ホビットというのは、毛深い種族なのですね。私は、体毛がすくないから、かなりうらやましいですよ」

ピピンの手が背中で動き回るので、笑いながら、ボロミアは、メリーの背を洗う。

「そう?僕らは、ボロミアさんの体は、すべすべで、とっても素敵だと思うけど」

「そうですか?あっ、こら、ピピン、くすぐったい…私は、あなた方のほうが、男らしくて素敵だと思いますよ。ほら、胸だけじゃなくて、背中まで毛が生えて、おまけに下半身も、すごいじゃないですか…だから、ピピン、ちょっと待ってくれって。こら、くすぐったいだろ」

ピピンの手が、いらずらに、わき腹や、脇の下をくすぐるので、とうとうボロミアは、洗い布を手放し、ピピンへと手を伸ばした。

「こら、お仕置きするぞ」

メリーを洗う際に手についた石鹸を使って、ピピンの体をくしゃくしゃとかき混ぜていく。

ホビット全体のなかで、メリーとピピンがどのくらい毛深い方なのか、ボロミアには想像がつかなかったが、二人は、本当にかき混ぜると表現したほうがいいような洗い心地だった。

「ボロミアさん!くすぐったい!!」

「さっきの仕返しです」

「メリー。ボロミアさんの体をくすぐってよ。このままじゃ、僕笑い死んじゃうよ!」

「よし!」

メリーもボロミアの体をくすぐりはじめ、笑ってしまったボロミアは、結局二人から体を撫で回されることになった。

「…あの…申し訳ない…が」

二人が、くすぐるだけでなく、ちょっとした下心のもと、ボロミアが布で隠していた下半身に手を伸ばすと、ボロミアは、驚いたように体を引いた。

引いた拍子に、メリーの手に引っかかっていた布が、ボロミアの体から外れてしまう。

「…申し訳ない!!」

ボロミアのチャーミングなものが、二人からの接触で、平常時よりかすかに反応していた。

全く、全然、二人にとって申し訳ないなんてことのない展開なのだが、ボロミアは、恐縮しまくり、慌てて湯をかぶり、石鹸を流すと服を着るため逃げ出してしまう。

あまりの素早さに、二人組みの方が、驚いた。

「…成るほど、人間は毛が薄いから、ああやって隠せないせいで、ボロミアさんと一緒にお風呂に入れなかったんだ」

「うん。僕もわかった。かわいそうだね。僕らなんて最初っから勃ってるってのに、わかんないから、全然平気だったんだけどね」

かすかに反応したものを二人に見られて、あたふたと逃げ出したボロミアを、二人組みは、大変残念に思う。

「きっとさぁ、皆、ボロミアさんと一緒のお風呂に入りたかったんだよ」

「そうだろうねぇ。あの人天然だから、自分から一緒に入ろうとか、誘うしねぇ」

ゴンドールの人々の苦労を思いながらも、毛深いホビットに生まれてよかったと天に感謝して、ボロミアの浸かった湯を満喫する二人組みだった。

 

                                                        END

 

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お風呂、メリピピ編です。

今回は、ボロミアさんの方が、慌てています。

可愛いんだからぁ。と、作者は一人で喜んでますので、ここは一つ、生ぬるくスルーの方向で。

ホビットがどのくらい毛深いのか知りませんが、見えないなんてことはないだろうという、つっこみもなしです。

どうか、みなさん、メルヘンだと思って優しく見守ってください。