願いと欲望は似ている

 

精液でアラゴルンの身体を汚したボロミアは、それでもしばらく、アラゴルンの身体に柔らかくなったものを擦りつけるようにしていたが、うっとりとしたため息を落すと、アラゴルンの身体の上に落ちてきた。

今度は、しきりと、アラゴルンの胸へと顔を擦りつける。

ごろごろと、喉の奥で唸っていた。

ますます獣じみた動きの多くなったボロミアの背を、アラゴルンは、優しく撫でた。

ボロミアは大変機嫌のいい様子で、アラゴルンを抱き締めている。

ボロミアの爪が、アラゴルンの皮膚に食い込んでいた。

ボロミアは、気付かない。

ただ、大事なものを腕から取りこぼさないように、しっかりと抱き締めている。

多分、わからないのだ。

ボロミアは、自分の欲望しか理解できない。

アラゴルンの身体を気遣うだけの知能がない。

アラゴルンは、嬉しげにアラゴルンを抱きしめ、頬擦りを繰り返すボロミアの背を撫で、髪をなでた。

名を呼ぶたび、ボロミアは、嬉しそうな顔をして微笑む。

 

しばらく、アラゴルンにあやされていたボロミアが、不意に身体を起こした。

じっと、アラゴルンを見つめ、何か考えているように見える表情をした。

緑の目が、アラゴルンの目の中をのぞき込んだ。

瞳が…とても、人間らしかった。

アラゴルンは、ボロミアの唇が開かれるのに期待した。

「…ボロミア?」

促すように、アラゴルンは、ボロミアの名を呼んだ。

アラゴルンの顔には、期待の色が浮かんでいた。

「ガウゥゥゥ」

獣は、聞くに堪えない酷い声で返事をした。

嬉しげににっこりと笑い、アラゴルンの期待など、無残に打ち砕くと、わずかに小首を傾げた。

アラゴルンが、返事を返せないでいると、獣は、そのままアラゴルンの身体の上を動き、アラゴルンの下肢に顔を埋めた。

アラゴルンのものをペロリと、舐めた。

人間の舌は、とても柔らかかった。

「…ボロミア…」

アラゴルンの声は、悲しかった。

しかし、獣は、気にする様子もなく、名を呼ばれるたび、嬉しそうな仕草をみせ、熱心に舌を使い出す。

アラゴルンは、胸に願いを抱くこと事態、不遜なことだったのだと、自分のことを激しく悔いた。

獣には、何の罪もない。

これの持つのは、ただ、純粋な願いと欲望だけ。

殺さず、抱きしめたのは、自分だった。

獣の舌は柔らかい。

この獣を否定してはいけない。

アラゴルンは、獣の髪を優しく撫でた。

 

 

ボロミアは、ほんの僅かに残る自分の記憶…それも、本能的な快感ばかりの中から、最善の努力をして、アラゴルンのために、奉仕をしようとしていた。

あの狡薄にすら見えた貴族的な上品な唇に、アラゴルンのものを迎え入れ、頬をへこませ、アラゴルンのものを扱いていた。

上顎が、柔らかくアラゴルンの先端をなでた。

腰を掴む指は、肉に爪を立て、痛いのに、唇の中は、なに一つアラゴルンに苦痛を与えようとはしなかった。

「…それが、したいのか?ボロミア?」

ボロミアは、口に含んだまま、アラゴルンを見上げ、にっこりと笑った。

醜悪なものが、美しい顔立ちの中に、飲み込まれていた。

ボロミアは、ぺったりとアラゴルンに身体を押し付けていたのだが、返事をするため、顔を起こし、身体を起こした隙間から、彼の欲望の立ち上がっているのが、アラゴルンにも見えた。

まだ先ほどの精液で濡れているにも関わらず、ボロミアの欲望は、緩くではあったが、たしかに立ち上がりかけていた。

口の中を、擦られるのが、気持ちがいいのかもしれない。

ボロミアは、キスにもとても、いい顔をした。

「ボロミアは上手だね。とても、気持ちがいい」

アラゴルンは、ボロミアの髪をなでた。

名を呼ばれ、髪をなでられるのに、ボロミアの奉仕が一層熱心になる。

舌が、アラゴルンのものに絡みつき、舐め回した。

何処まで頬張るつもりなのかと、心配になるほど深くまでボロミアは、アラゴルンのものを喉の奥に迎え入れた。

精一杯唇を狭め、柔らかな部分で、先端を扱き上げようとする仕草は、どこで覚えたものなのか、商売女のように巧みだった。

舌が、何度も薄い唇を舐め、濡れた感触でアラゴルンのものにキスをした。

アラゴルンのものは、ボロミアの口の中で、ねっとりとした液体を漏らし始めていた。

ボロミアは、嬉しそうに、それを舐め取っている。

「ボロミアにも、してあげようか?」

ボロミアは、アラゴルンの足に自分のものを擦りつけるようにして、快感を味わっていた。

アラゴルンは、ボロミアの身体を引き寄せようとした。

それを、気持ちのいいものを取り上げられるのだと、勘違いしたボロミアは、激しく唸った。

「大丈夫。続けていいよ。ボロミアの好きにしていい。ただ、身体をこっちに向けてごらん。ボロミアにも、気持ちのいい思いをさせてあげるから」

アラゴルンは、ボロミアの身体に口付けを落として、彼を安心させながら、ゆっくりと、彼の体を、自分の上に移動させた。

アラゴルンの顔の前に、先ほどの射精で濡れたものが、ぶら下がる。

ボロミアは、期待に満ちた目で、アラゴルンのことを振り返った。

自分から、腰を下ろして、アラゴルンの唇に、先端を擦りつけた。

「いいよ。腰を落してごらん?」

アラゴルンは、自分が、小さな子供とでも話すような口調で、ボロミアに話し掛けていることに気付いていなかった。

ボロミアは、アラゴルンのいう言葉がわかったようではなかったが、欲望のままに、腰を落して、アラゴルンの口を犯した。

そして、自分も、熱心にアラゴルンのものに口を犯されようとしていた。

アラゴルンは、動き回って、一時として、大人しくしていないボロミアの腰を掴んで押さえ込み、ひたすら、奥へと押し込んでこようとするものを唇を使って扱いてやった。

ボロミアの腰が震える。

口の中で、ボロミアのものがすぐさま、大きくなっていく。

まだ、先ほどの精液の味がして、正直、アラゴルンにとって、楽な行為ではなかった。

しかし、アラゴルンは、丁寧に舌を使った。

ボロミアは、嬉しげに唸っている。

忘れそうになるアラゴルンへの愛撫を続けようと、ぺろぺろと舌を伸ばしている。

同じだけの行為を、アラゴルンに返そうとしている。

「いいんだよ?ボロミアだけが楽しんでも」

アラゴルンは、途切れがちになるボロミアの愛撫に、まるい尻をなでてやりながら優しい声をだした。

また、ボロミアが、考え込むように、じっとアラゴルンの顔を見つめた。

今度は、アラゴルンも、期待しなかった。

アラゴルンは、じっと自分を見つめるボロミアを意識しながら、ボロミアのものを深くくわえ込んだ。

ボロミアの視線は、アラゴルンの顔を見つめたままだ。

アラゴルンは、期待することを自分に禁じた。

目の前にいるのが、ボロミアなのだ。

それ以外の、ボロミアは、今はもう、存在しない。

 

アラゴルンが、喉の奥まで使って、欲望を締め付けてやると、ボロミアの腰が揺れる。

ボロミアは、かつての慎み深さなど、やはり持ち合わせていなかった。

アラゴルンのものに顔を擦り付けながら、気持ちよさそうに、腰を動かした。

鼻先で、アラゴルンのものに触れ、その固さに気付いたように、舌を伸ばして、ペロリと舐める。

「気持ち良いかい?ボロミア」

腰を揺するボロミアは、うっとりと、目を細めて、アラゴルンを振り返った。

アラゴルンの腹に手をついて、身体を持ち上げ、ふわりと幸せそうに微笑んだ。

「よかったね」

アラゴルンが、続きをしようと口を寄せると、ボロミアは、するりと、アラゴルンの身体の上から降りてしまった。

くるりと身体の方向を変え、アラゴルンを見つめるとにっこりと笑う。

「…どうした?」

アラゴルンが、驚いて身体を起こすと、その腰の上に、ボロミアは向き合ったまま抱きついてきた。

「マイ…キング」

掠れたボロミアの声で呼ぶと、肩をしっかりと抱き締め、膝をついて、自分の腰を持ち上げた。

「ボロミア?」

アラゴルンが、訳がわからずにいると、ボロミアは、片手で、アラゴルンのものを掴み、その上に自分から乗ろうとした。

勿論、入るはずがない。

アラゴルンのものが濡れているといっても、僅かにボロミアの唾液くらいのものなのだ。

皮膚につよく擦られる痛みが、アラゴルンを襲った。

「…痛いよ。ボロミア」

顔を顰めるアラゴルンを、ボロミアは、不思議そうな顔で見た。

「ああ、そうだね。こうすると、気持ちよくなれるよ。でも、ボロミアには、無理だよ。ここで、されたことなんてないんだろう?」

言葉の通じない獣は、自分が雌ではないと言う事すら、あまりわからないのだろう。

過去に味わったおぼろげな記憶の中から、性行為の手順だけを引きずり出して、実践しようとしていた。

ボロミアに痛みの薄いことが、行為を可能にしようとしていた。

引き攣れる皮膚の痛みを感じないボロミアは、顔を顰めるアラゴルンを不思議そうに見ながら、強引に腰を落そうとしていた。

「ボロミア…どうしても、これが、したい?」

萎えていくアラゴルンのものをしっかりと手の中に握りこんで、ボロミアは、自分の指も使って、体内にアラゴルンを取り込もうとしていた。

無理やりすぎる指の挿入に、ボロミアの穴は、血を流している。

それが、滑って、先ほどより、余程、痛みは薄くなっていた。

「ボロミア、ちょっと、待って」

どうしても、入れたがるボロミアに、アラゴルンは、何度も口付けを与えて大人しくさせ、ボロミアの身体を自分の上から下ろした。

「すこし、待って。痛かったからね。出来なくなってしまったんだよ」

アラゴルンは、縋りつく目の、ボロミアの髪にキスをした。

あまりに強引なボロミアの行為に、アラゴルンのものは、すっかり力を無くしていた。

これでは、ボロミアがどんなにがんばったところで、上手く入れることができない。

アラゴルンは、ボロミアを仰向けに押し倒した。

「少しだけ、ボロミアの中にも触って緩くしてからにしよう」

初めて、アラゴルンは、ボロミアを上から見下ろした。

ボロミアは、落着かなげに、視線をさ迷わせた。

獣は、腹を晒して横たわることを嫌がる。

それでも、我慢する時は、余程、相手を愛している。

ボロミアは、アラゴルンに足をつかまれ、折りたたまれても、大人しくしていた。

「ボロミア、触るよ。痛くは…ないんだろうけど、俺のために、すこし我慢しておくれ」

血に滑るボロミアの穴は、アラゴルンの指を飲み込んで、強く締め付けた。

一本を入れるのがやっとだ。

これで、アラゴルンのものを入れようというのだから、無茶にも程がある。

「痛みを感じないというのは、辛いことだな」

指先が、切れた粘膜を触っていっても、ボロミアは、大して表情を変えなかった。

折りたたまれた足の間に揺れるものも、大きさを変えない。

ただ、不安そうな目つきで、縋るようにアラゴルンを見つめている。

「あんたの中は、こんなに温かくて、気持ちが良かったんだな」

アラゴルンは、揺れる欲望に口付けを与えながら、苦痛を感じない相手を退屈させないよう、手早く穴を緩めていった。

だが、ボロミアが、痛みを感じ取らないため、あまり急ぎすぎると、余計な傷を増やすことになる。

アラゴルンは、粘膜の感触を確かめながら、性急になり過ぎない程度に、入れる指を増やしていった。

指が前後されるのにあわせて、ボロミアが腰を振り出した。

鼻に抜ける甘やかな声に似た音が漏れていた。

「どうだい?ここを触られるのは、気に入った?」

ボロミアは、擦られる感触に喉の奥で機嫌よく唸りながら、アラゴルンの肩に両腕を回した。

利き手の動きがぎこちなかった。

「…痛い?」

そういえば、先ほど、アラゴルンのものを掴む時も、そちらの手を使わなかった。

「無理をしてはダメだ。剣を握る大事な手だろう?」

アラゴルンは、自分で口にしながら、次に、ボロミアが剣を握る時のことなど、想像することもできなかった。

そんなことを口にする自分が、とても卑しくて嫌だった。

「…大事な手だからね」

アラゴルンは、ボロミアの肩の矢傷に口付けを落した。

とても、偽善的だと自分を笑った。

彼が、共に剣を振るう日のことなど欠片も想像していないくせに。

この獣を殺さなければならないと、心のどこかで思っているくせに。

だが、愛しいのだ。この獣が愛しいのだ。

獣は、アラゴルンの指に操られて身体をくねらせている。

かつての彼が一度だってみせたことのない蕩けるような卑しい顔をして、アラゴルンの指をしきりに喜んでいる。

アラゴルンは、獣と契ろうとしている自分を笑った。

ボロミアの願いと欲望だけで作られたこの獣が、とても愛しい。

いっそ、最初から、ボロミアがこの形だったら、アラゴルンは、大事に獣を飼育した。

いや、違う。ボロミアが、気高く尊敬にたる人物でなかったら、アラゴルンは、彼を愛しく思わなかった。

あの彼が、この姿になったから、獣であっても、愛しいのだ。

彼の中に秘められていた純粋な願いと欲望。

言葉が通じなくとも。彼がものを考えられなくとも。

アラゴルンを王だと求めなくても。ゴンドールなどとう国を忘れてしまっていても。

アラゴルンは、激しく腰を揺らして、アラゴルンの指を欲しがるようになった愛しい生き物を抱きしめた。

固くなった自分のものをその入り口に押し当てた。

 

ボロミアの中は、散々アラゴルンが指を使って緩めたにも関わらず、まだ、きつくアラゴルンを包み込んだ。

やはり、先端が通り抜ける時に、粘膜を傷付け、また、血を流した。

けれど、ボロミアは、幸せそうに、一声高い声で鳴いた。

眉を寄せるアラゴルンを抱き寄せ、胸に何度も頬擦りを繰り返した。

足をアラゴルンの腰に巻きつけ、もっと、中へと引き込もうとした。

「急がない。ボロミア、いい子だから、もっと、ボロミアを傷付けてしまうから」

強引に、腰を押し付けようとするボロミアをアラゴルンは、押し留めた。

「大好きだよ。ボロミア。いい子だ。そう。もうちょっと、力を抜いてご覧。いそがなくても大丈夫だから」

何度も髪に、頬にとキスを落とし、愛しげに顔をなでるアラゴルンに、ボロミアは、次第に焦るのを止めた。

アラゴルンにあわせ、ただ、抱き締めてくるだけになった。

「そう、いい子だ。そうしていれば、苦しまなくても、全てをボロミアにあげることが出来るからね」

苦痛を感じないボロミアは、どんな風にしようとも、アラゴルンを飲み込むことが可能だった。だが、アラゴルンは出来るだけ優しくボロミアと結ばれたかった。

かつての彼と、もしそうできたのなら、したかったように。

峻烈な横顔を抱き締めることなど、一度だって出来なかったのだけれども。

それでも、普段だったら無理であろう性交を、獣は貪欲さと、無痛さによって、根本までアラゴルンを飲み込んで成功させた。

「…マイ…キング」

こんな時に呼ばれたくないのに、ボロミアは獣の咆哮ではなく、掠れた彼本来の声でアラゴルンの名を呼び、しっかりとアラゴルンを四肢で絡め取った。

大きく開いた足の中心は、ありえない状態でアラゴルンのものを飲み込み、しきりに腹をへこませて、何度も息を吐き出している。

「…苦しい?」

ボロミアが身体ごとアラゴルンにしがみついているので、顔を見ることも出来なかった。

しきりに息を吐き出す動きを繰り返す腹が、ボロミアの違和感をアラゴルンに伝えていた。

「ボロミア…大丈夫かい?」

ボロミアは、アラゴルンに腕も足も、巻きつけるようにしてしっかりと抱きつき、顔も肩へと埋めて、頑ななまでに、アラゴルンを離そうとしなかった。

「…ボロミア?」

あれほど指で弄られることを喜んでいたボロミアなだけに、アラゴルンは、動きを封じる彼の気持ちがわからず、何度か髪をなでた。

「どうしてほしいの?」

ボロミアは、返事をせず、いきなりアラゴルンの肩口に噛み付いた。

歯が、牙のようにアラゴルンの皮膚を食い破った。

肉を食いちぎられるのかと思った。

「………・くっ!」

アラゴルンが、辛うじて悲鳴を堪えると、ボロミアは、涙に濡れた目を上げて、血に濡れた口元を晒した。

緑の目から、宝石のような涙が、惜しげもなく零れ落ちた。

「…・どうして?」

ボロミアは、理由のわからないアラゴルンの顔を覗き込み、血なまぐさい唇のまま口付けた。

しっとりと柔らかい唇が吸い付いた。

「マイ…キング」

獣が、肩口の傷を舌が舐め始めた。

柔らかな舌先が、アラゴルンの傷口を癒すように何度もなぞる。

けだものの涙がアラゴルンの肩に落ちた。

獣は、鼻から零れるような甘い声を上げながら、自分でつけた傷口から流れ出すアラゴルンの血を、唇を赤く染めながら舐め取っていく。

「…それが、ボロミアがつけてくれた印かい?」

アラゴルンの身体に立てられた爪のあと同様、深い痛みを与えるボロミアの愛情に、アラゴルンは、彼の頬をなでた。

けだものは、一滴も零さぬつもりか、いつまでも、舌で傷を抉る。

舌先の感触が、アラゴルンに快感を与えた。

「ボロミア、動いてもいい?」

ボロミアが返事をするはずもないのに、アラゴルンは確認し、ゆっくりと腰を使い始めた。

粘膜がしっかりとアラゴルンに絡みつき、僅かに動かすだけで、相当な負荷がそこに掛かる。

「痛…くはないんだったね。よかったね。ボロミア」

締め付けは、アラゴルンに痛みを与えるほどだったから、尋常だったならば、快感など感じることもできない状態だっただろう。

しかし、ボロミアは、アラゴルンが腰を動かすのに従い、自分から腰を揺らして、嬉しそうな喉声を聞かせた。

次第にアラゴルンが腰を動かす速度を早めると、自分から大きく腰を持ち上げて、喉を反らせて喜んだ。

あまつさえ、アラゴルンを押さえつけ、自分がその上に乗り上げて腰を振るった。

下から見上げるボロミアの身体に、血の止まった、4箇所の傷跡。

3箇所は、アラゴルンが一生忘れることの出来ない傷。

残りの1箇所は、多分、一生夢に見る。

この悪夢のような愛しい獣が、腕の中にいた印。

仲間を忘れ、アラゴルンだけを求めた代償。

けだものは、アラゴルンを受け入れている場所が血を流していることも、気にかけず、激しく腰を動かし続けた。

丸く、柔らかな尻が、アラゴルンの腰を打つ。

眼前に晒された欲望は、嬉しげに粘液を零しながら、震えている。

目を瞑って、快感を追いかける顔は、苦しげにさえ見えるが、頬が薄く色づいている。

しきりと、唇を舐める。

咆哮の合間に、あの掠れた声でアラゴルンを呼ぶ。

マイ キングと、アラゴルンを呼ぶ。

アラゴルンは、跳ねつづけるボロミアの腰に指を食い込ませ、下から大きく突き上げてやった。

息を呑み、ボロミアは、身体を捩る。

中にいるアラゴルンを強く締め付ける。

「好きなだけボロミアにあげるから」

アラゴルンは、何度も強く突き上げてやり、次第に力が入らなくなって、重くなる腰を支えてやると、獣の声が辺り構わず泣き喚かれるまで、内を可愛がってやった。

 

ボロミアは、涙に濡れた重い睫を閉じたまま、ぐったりと満足げに横たわっていた。

月の光の下ですら、肌が、つやつやと、艶めいているのが、アラゴルンにわかった。

小さな息を繰り返しながら、満足げな吐息を何度も唇から零している。

「もう、いいのかい?」

足の間から、アラゴルンの出した精液を溢れさせながら、獣は嬉しげに頭をなでるアラゴルンに顔を上げた。

もしかしたら、子供の頃のボロミアは、こんな素直な顔をして目を細めて笑ったのかもしれない。そんなことを考えさせる愛くるしい表情だった。

城中の人間に愛され、将来を嘱望され、自分もそれを叶えることが出来ると信じていただろうボロミアの少年時代。

アラゴルンは、獣を生かしておくことが出来ないかと、柔らな金の髪をなでながら、必死に策をめぐらせた。

レゴラスに見つかることなく、朝日が昇る間までに、この獣に食料を与えつづけてくれる善良な人間に、彼を預ける。

指輪が葬られるまでの間だ。

それまで、彼を預けることができれば、その後は、自分でこれを飼うことが出来る。

アラゴルンだけを求め、他になにも欲しがらず、何も考えることのできない獣。

金の髪をし、上品な顔立ちの、特別な獣。

しばらく考え、アラゴルンは、小さく首を振った。

ボロミアのアラゴルン以外に対する苛烈さを思えば、それは、預けられる人間の死を意味した。

そして、ボロミアの尊厳を思えば、やはり、それは、アラゴルンの思い上がりでしかなかった。

「ボロミア…」

けだものは、アラゴルンの撫でる手にうっとりと目を細め、アラゴルンの足の上に頭を置いた。

腹を見せ、幸せそうな顔をして目を閉じている。

「ボロミア…」

緑の目が見たくて、アラゴルンは、その名を呼んだ。

重そうな金の睫を震わせて、ゆっくりと瞳を開くと、ボロミアは、嬉しげに微笑む。

アラゴルンは、唇を噛み締めた。

「……殺したくない」

身を引き絞るようにして、言葉を吐き出した。

緑の目は、魔力が秘められているのかもしれないと思わせるほど、魅力的に光っていた。

アラゴルンのほかには、何も映すことのない二つの緑。

アラゴルンは、何もかも放り出し、この獣だけと充足して暮らす自分を想像し、涙を零しそうになった。

野伏だ。自分はただの野伏なのだ。

この獣と2人野垂れ死んだところで、誰が迷惑するというのだ。

ゴンドールは王を知らない。

指輪は、保持者が葬ればいい。

仲間は、冷徹なエフルと、義理堅いドワーフが助け出すだろう。

自分ひとり、この獣に、身をくれてやったところで、何が変わるというのだ。

エルフの姫は、西に行けば、もっと幸せな一生を送ることが出来る。

 

アラゴルンは、白い腹を晒すけだものの上に覆い被さった。

獣は、閉じていた目をうっすらと開けて、アラゴルンに向かって嬉しそうに微笑んだ。

「…マイ…キング…」

ボロミアの不明瞭な発音は、アラゴルンの心を攫うのに十分だった。

アラゴルンは、決意した。

獣と野に落ちる決意をした。

誓いのために、唇を近づけた。

あの時と同じように、額にキスをした。

 

 

ボロミアの息が止まった。

緩やかに、満足そうな息を繰り返していた胸が動かなくなった。

震えていた睫は、まだ濡れているのに目を開けることをしなくなった。

薄い唇は、アラゴルンの名を呼ぶことも、獣の叫びを上げることもしなかった。

身体が急に重くなった。

体温が急速に冷たくなった。

……ただ、アラゴルンが口付けた、額だけが、熱かった。

尋常ではない熱を発していた。

 

 

仲間の前に立つ、アラゴルンは、大きな悲しみをひとつ飲み込んだような、そんな薄いベールを仲間たちとの間に一枚引いていた。

ギムリは、そんなアラゴルンとは、目をあわそうとせず、反対にレゴラスは、しげしげとアラゴルンを眺めつづけた。

アラゴルンは、そのどちらにも取り合おうとしなかった。

ボロミアの死体は、アラゴルンが、隠した。

死んでから3日も立つボロミアの死体は、まるで腐敗臭がなく、ただ、息が止まっているというだけのありえない状態を保持していた。

サウロンの魔力のせいかもしれない。

ちがうのかもしれない。

アラゴルンは、腕の中からすり抜けた命の急激さに死体を葬ることなど考えることも出来なかった。

野の獣からも、天候からも守られる岩山の洞窟に死体を隠し、入り口を塞いだ。

もし、朽ち果てるとしても、そのありかを知るのは、アラゴルンただ一人だ。

ボロミアの肉体を自由にできるのは、アラゴルン、一人だけのなのだ。

 

「あれ…かなり幸せそうに鳴いてましたね」

小さな仲間を求めて、また走り始めたアラゴルンの隣で、レゴラスが、からかうようにアラゴルンを笑った。

足は跳ねるように駆けていた。

しげしげとアラゴルンの顔を見つめた。

「でも、あなたの絶叫を聞くことができたんだから、あれ、きっと満足して、死んでいくとこができたと思いますよ」

レゴラスは、アラゴルンが決断したことを、言葉にはしなかったが、誇りに思っていた。

アラゴルンは、レゴラスを睨んだ。

ボロミアの死を自覚した時、アラゴルンは、辺り構わず大声で叫んだ。

鳥が飛び立った。

獣が驚いたように吼えた。

それでも、アラゴルンの叫びは途切れなかった。

耳ざといレゴラスが、その声を聞き逃すはずはなかった。

遅れがちなギムリを待つため、レゴラスはわずかに足を緩めた。

「ギムリ、頑張って走ってくださいね」

「…頑張っとるとも…わしは…走るのが得意なんだ」

ギムリは、上がる息を押さえ込みながら、強がった。

足を緩めたレゴラスを追い越し、満足げに笑う。

「ゆっくりでいいんだぞ?…わしについてくるのは…大変じゃろ…レゴラス」

上がる息の合間に、にやりと笑うギムリに、レゴラスは、唇を突き出すような顔をして笑い返すと、ギムリの隣で同じ速度で走りだした。

 

アラゴルンは、ただ、前を見て、走った。

 

 

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終わりました(汗)

リリコ様のリクエストとは、大分違う方向に走り出しちゃったんですけど、途中でメールして、許してもらいました。(喜)

自分的には、とても、幸せに終わっているのですが、ダメ…ですか?

いっそ、ボロミーをラブラブ調教して暮らす話にした方が…?

いや、もう、手乗りボロミーとかそういう違う話を書いた方が…(泣)