なかよし

 

「ボロミアさん」

ピピンは、今日も朝食が済むと、ボロミアの側に駆け寄った。

すぐ後を、メリーも駆けて来ている。

ボロミアは、自分の荷物を背中に背負い、二人に明るい笑顔を見せた。

「もう、食事は終わられましたか?」

「はい。たくさんいただきました」

二人ともとても幸せそうに返事をしている。今日の、朝食は、夕べ、レゴラスが大きな獣を射止めたため、ホビットの胃袋を満足させても余るほどの量があった。そのせいで、夕べは、サムが大活躍をしていた。そして、いまも、捨てていかなければならない肉を少しでも減らそうと、まだ、何か行っている。

「今日もボロミアさんの隣を歩かせてくださいね」

満腹のピピンが元気よく主張した。となりでメリーもにこにこしている。

しかし、ボロミアは、すまなさそうな顔で二人を見下ろした。

「申し訳ないが、今日は、私がしんがりをつとめる予定なんだよ」

一二人の顔が一気に暗くなった。まるで、今日は一日食事が抜きだと言われたようだ。

ボロミアは慌てて、弁解する。

「お二人には大変申し訳ないのだが、いつも私は、真ん中を歩かせてもらうばかりで、アラゴルンや、レゴラスばかりに役目を押し付けていて」

二人の顔は、まだ暗いままだ。

「私も、たまには皆の役に立ちたいのだよ。わかってくれないか」

メリーは背伸びをしてボロミアの顔にすこしでも近づこうとした。ボロミアは、背を曲げてメリーの意向を汲もうとする。

「ボロミアさんは、すっごく役にたってますよ。アラゴルンより、レゴラスより、全然役に立ってます」

「そうそう、ボロミアさんがいなかったら、僕らは、こんな旅すごくつまんなくて、もう止めたって言ってます」

「ボロミアさんと一緒に歩くのは、楽しいし、おしゃべりするのも楽しいし、いっしょにご飯を食べるのだって楽しいです」

「それに、ボロミアさんと一緒に寝るのは、とっても幸せです」

「私もお二人といられるのは、大変楽しいのだが、たまには、仕事もしないといけない」

「えー、そんなぁ」

二人は、揃って抗議の声を上げた。

ボロミアは、頭をかきながら、二人にどう納得し貰おうかと、困っている。

と、騒ぐホビットたちの背をひょいと掴むものがいた。

「なにもそんなことしなくても…」

アラゴルンが、小柄な二人を吊り上げた。二人の足は、地面を遙かに離れている。

ボロミアが、止めさせようと手をのばしても、アラゴルンは、さらに高く、二人を吊るす。

ピピンもメリーも、歯を剥き出しにして、大暴れした。しかし、突然、ぴたりと、動くのをやめる。

二人の顔に、汗が浮かぶのを見て、ボロミアは、怪訝な顔になった。

二人の視線の先を追って、振り向くと、レゴラスが、ちょうどいい的だとばかりに、二人へと狙いを定めている。

「なにをしている!」

ボロミアは、レゴラスへと抗議の声を上げた。レゴラスの弓の腕は、人を震わせるのに十分で、遊びといえどもそんなことをして許されるものではない。

「冗談ですよ。ボロミア」

レゴラスは、ボロミアに向かって笑った。しかし、弓はまだ、ホビットに向かったままだ。

「弓を下ろせ、レゴラス。二人が恐がっているだろう」

「そうですね。じゃぁ…」

今度は、レゴラスは、アラゴルンへと狙いを変える。

その動きは、素早く、そつがなく、殆どボロミアの言葉に従い弓を下ろすための動きと代わりがなかった。

勿論、的になった野伏には、恐ろしい殺意が伝わる。

野伏の頬がぴくりと引きつるのを確認し、レゴラスはにやりと笑った。

アラゴルンに背を向けているボロミアは、この緊張感に気づいていない。

「あんまり、ホビットがうるさいんで、ちょっとおしおきしたんですよ」

レゴラスは、にこやかにボロミアに近づき、さりげなく皆から引き離しにかかった。

的にされできた一瞬のひるみをついて、アラゴルンに蹴りを入れ、地面へと飛び降りたホビットたちも、ボロミアの手を引き、自分の方へと引き寄せる。

ボロミアは、両方から手を引かれ、困り顔でレゴラスとホビットをみた。

遅ればかりをとるわけにはいかないアラゴルンも、ボロミアを後ろから抱き寄せる。

「今日は、ボロミアがしんがりだからな。私と一緒に歩くんだ」

「アラゴルン、苦しいよ」

ボロミアは、きつく引き寄せるアラゴルンに顔をしかめた。

「今日は、私も後ろを歩こっと。先頭は、アラゴルンが務めてくださいよ」

「えー、じゃぁ、僕たちも後ろを歩く!」

レゴラスも、メリーや、ピピンも、ボロミアを一緒に歩くことを主張してやめず、結局、ボロミアを中心に収集がつかなくなったメンバーは、ガンダルフに強制終了させられた。

今日のボロミアは、サムににらまれながら、フロドの隣を歩いている。

フロドははにかむような笑顔を浮かべている。

ボロミアも楽しそうに話している。

そして、ボロミアが、たくさん増えた食料を肩代わりして背に背負うと、サムの顔まで朗らかになった。

その部分だけが、花が咲いたようにとても穏やかな空気があふれている。

揉めに揉め、ガンダルフの杖でたんこぶを作られたメンバーは、ボロミアの隣にいない自分に対して、歯軋りしながら旅を続けた。

 

                                                           END

 

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とうとうボロミアさんは、サムやフロドまで魅力を振り撒きはじめたようです。

さすが、ボロミアさんです。

その魅力は無敵です。

この話、書いてると幸せです。…ボロミアさんは、笑っているのが一番いい。

…と、いいながら、泣いてるボロミアさんも、たまらないとか思ってるんですけど。…