この絵に触発されて書いてます。→にゃんこ大使




ゴンドールにゃんこ物語

 

ゴンドール執政家は、代々猫が継いでいる。

これは、別段、ゴンドールの人々が縁起を担ぐため、猫を執政の席につけ、その実、代理人が責務をこなしている。いったことではない。ホビット庄にはホビットが住むように、ゴンドールの執政家には、にゃんこが住んでいたのだ。勿論、政治もにゃんこが執り行ってきた。代々に渡り、気品溢れる執政にゃんこたちときたら、人間たちよりもずっと口が立った上、剣すら持つので、王不在の長かったゴンドールは、全幅の信頼でもって、にゃんこに政治を託してきた。外交するにゃんこに、他国の王達がメロメロだったせいもある。別段、ゴンドール人の頭に花が咲いているわけではない。

現在、ゴンドールに王は、在任だが、猫たちは、元気に執政の席に座っていた。

ちなみに、指輪破棄の途中、デネソールにゃんこが命を落とすという不幸な事故があったため、現在、執政にゃんこ族は、だだっ広い中つ国に、2人きりだ。兄の名をボロミアと言う。弟の名は、ファラミアだ。

 

「兄上!今日もいい天気ですね」

春の陽光に誘われでもしたように、清々しく兄に声をかけたファラミアだったが、その姿は、変質者のように大きなマスクと眼鏡をかけていた。仕方がない。神経質なところのあるファラミアにゃんこは、花粉症だ。

「ああ、本当にいい天気だな」

応えた兄は、春の日差しと同じくらい気持ちのいい笑顔で、弟へと返事を返した。にかりと笑ったボロミアは、細かに手を入れられた品のある執政服に身を包み、しかし、生まれたときから、その生活を甘受してきたため、まるでその高価さに頓着せぬ育ちの良さで、ファラミアへと駆け寄ろうとしている。勿論、ボロミアにゃんこは、マスクも眼鏡もしていない。そもそもにゃんこ兄は、アレルギーというものを体験したことがない。

小さなナリをして、弾丸のように駆けるボロミアに、その場にいた業務中の男たちが、いっせいに歩いていた足を宙へと浮かせた。言い忘れていたが、執政にゃんこ族は、ミニミニなのだ。大人になっても、子猫くらいのサイズしかない。そのため、城は年中、足元注意なのだ。

無事にゃんこが廊下を渡りきったのを確認した男がボロミアに声をかけた。

「ボロミア様。申し訳ありません。朝は……あの、朝は、どうしても忙しいものですから……」

ファラミアは、廊下を横切った場所にいた。弟の顔を見て、目を輝かせたボロミアは、そこに向かって、わき目も振らず、走り抜けた。朝の兄上は、特別元気だ。しかし、小さな執政猫を踏まないよう気を使わなければならない男たちは、大変だ。

「あまり走り回られますと、……その、私どもも、気をつけてはいるのですが……」

「ああ、それはすまない」

謝罪すら清々しいボロミアは、その場を混乱させてしまったことに、すこし照れているらしく、猫の尻尾をふにゃふにゃと動かした。そのかわいらしさに、大抵の者たちは、何もかも許してしまう。

「今度からは気をつける」

「いえいえ、私たちが、万が一にも、ボロミア様の尻尾を踏むようなことになっては申し訳ありませんので」

もう、孫だっていそうな年齢の男が猫にまっすぐに見上げられ、照れていた。

男は、足元で自分を見上げているこの猫の顔を朝一番に見られて自分は何て幸せ者だと思っていた。この猫は、ゴンドールが幸福である象徴のようなものだ。

中つ国を一つの指輪が揺るがしたあの時、責任感の強いボロミアにゃんこは、決死の覚悟で一月をかけ裂け谷までの旅をした。そこで、にゃんこは、野伏へと身をやつしていた王に出会ったのだ。すると王は、一目でころりとにゃんこに参ってしまった。よれよれのアラゴルンの様子に、かなりひいていたボロミアにゃんこが、「……お前が……王?」と、疑わしげに尋ねたとき、王は、胸を張って答えたそうだ。「そうだとも!私が、君の王だよ。我が執政殿!」

笑顔も胡散臭い王が、ボロミアにゃんこの願いならば。と、即座にゴンドールの王を名乗ったため、そこから、話はトントン拍子に話は進んでしまった。エルフ・ホビット・人間連合は、瞬く間にサウロンたち悪の化身を打ち破った。今、世界は平和を享受していた。それは、灰色の魔法使いが、白の魔法使いにレベルアップする暇もなかったほどだ。

戦いの最中に、デネソール候がお亡くなりになるという不幸はあったものの、新しいエレスサール王と、デネソールは大変相性が悪かったため、ゴンドール人達は、概ね、そのことを上手く胸の中で処理していた。気がかりがあるとすれば、猫は7代祟るというので、最愛のボロミアを残して死んだデネソールの幽霊がエレスサールを怨んで出ないか。と、いうことぐらいだったが、……しかし、出るとすれば、王のところにだろうから、パンピーには、関係がない。

 

弟猫に寄り添うように立つ、艶々の髪をしたかわいらしいにゃんこは、今日だって、支配階級の者としてふさわしいだけ、大変鷹揚だった。ボロミアは、年いった男に気遣うように声をかけた。

「そんなにたくさんの書類を運ぶのか?私も手伝ってやろうか?」

二本足で歩く上、言葉だってしゃべるが、にゃんこのサイズは、子猫並なのだ。

人間が山のように抱えた書類を運ぶことなどできるわけがない。しかし、ボロミアにゃんこは、それを本気で運ぼうと両手を差し出す。

「いえいえ、とんでもありません。ボロミア様のお手を煩わせるなんて、とんでもない」

「……兄上、彼は、困っています。部下を信頼し、仕事を任せることも、執政として必要なことです」

ファラミアがマスクの下から、兄に助言をした。弟にゃんこは、怪しいナリだが、執政としてきちんと仕事をこなしているにゃんこなのだ。

ボロミアは、少し恥ずかしそうに頭をかいた。

「ああ、すまない。もう行っていいぞ。お前の邪魔をするつもりはなかったのだ」

そういったボロミアが、くるりと弟に向かって顔の向きを変えた。ファラミアはとても満足した。実は、ファラミアにゃんこは、とても独占欲が強い猫なのだ。要するに、ボロミア激ラブなのだ。さっきのアレは、助言というより、ただの横槍だ。

しかし、そうでいながら、どこかシャイなファラミアにゃんこと、にぶちんのボロミアにゃんこは仲良く廊下の隅を歩いきだした。

「兄上、これからどちらに向かわれるので?」

ちょっとストーカー気質も持ち合わせた弟にゃんこは、さっそく、兄に関する情報収集だ。

「うむ。兄は、王に会いに行くのだ。外交の打ち合わせだと、王に呼ばれているのだ」

のんきにボロミアは、答えた。

兄の言葉に、ファラミアにゃんこの顔は引きつった。ファラミアにゃんこと、王は、舅デネソールVS態度のデカイ入り婿エレスサール王というほど酷くはないが、しかし、ハブとマングース状態だ。

「え……。あれの打ち合わせは、もう、昨日済んだじゃないですか。それに、私には何の連絡もありませんでしたよ?あの外交は、私もご一緒のはずでしたよね?」

二匹の執政にゃんこが出向くにゃんこ外交は、他のどの外交官が行う外交よりも、すばらしい効果をあげていた。いつも二匹セットなのは、酒や、ご馳走でもてなされたボロミアにゃんこが、望まれるままに、ついずるずると滞在を延ばしてしまうのを防ぐためだ。人見知りしないボロミアにゃんこは、どこの国に行っても愛されまくる。

「……ああ。そのことなんだがな。ファラミア、お前、近頃、一段と花粉症が酷くなっただろう?王は、お前に気を使われて、自分が行くとおっしゃっていらっしゃる」

いつの間にあのうさんくさい王に騙されてしまったのか、ボロミアにゃんこは、弟の体を気遣ってくれる王に対して感謝すらしている顔付きだ。

「……なんですと? あの人は、目を通さなければならない書類が山ほどあるはずなのに!」

興奮した弟猫は、毛を逆立てて、わめき散らした。

「兄上も見たでしょう?さっきの書類、あれだって、王のところで決裁をされるのを待っている書類なのです。あれのほかに、昨日だって、兄上を膝の上に乗せて、遊んでいた間の分だって、王には、待っているというのに!」

主に国に関する実務を執り行っているファラミアは、誰よりも王の仕事量に詳しい。

と、いうか、ファラミアにゃんこは、兄上を構おうとする王を邪魔するため、今までファラミアだけで決裁してきた書類まで、王に回している。

ボロミアは、見当違いのところで、しょぼんと肩を落とした。

「……すまない。ファラミア……しかし、兄も、王にねこじゃらしで、ひょいひょいやられると、どうにも我慢が出来ぬのだ」

ボロミアは、弟の仕事を邪魔したことを、心底申し訳なさそうに目を伏せる。

この兄を愛しいと思わぬ人など、絶対にいない。と、ファラミアは思う。

ファラミアは、力強く兄を抱きしめた。

「いいえ! 兄上は決して悪くなどありません。すぐサボろうとする王が悪いのです!とにかく、王には、山ほどの書類が待ち構えているのですから、兄上と一緒に外出など、とんでもありません!私がご一緒いたします!!」

「……しかし、ファラミア、お前、花粉症で辛いんじゃないのか?」

間近の兄の目が、心配そうに自分を見つめるのに、ファラミアは、自分から兄をだきしめておきながら、オタオタした。

しかし、そこをなんとか耐えて、弟は、兄にクールで頼れる男の顔をしてみせる。

「全く問題ありません。薬の用意がございます。私だって、こんな見っとも無いナリで、ゴンドールの執政として外交がこなせるなどとは思っておりませぬ」

……薬とは、白の魔法使いになり損ねたあの人がこっそり作ったきわめて危険なものだった。しかし、兄を王と二人で旅に出すくらいなら、ファラミアは、命がけの勝負にだって出るのだ。

 

 

勝負は、ファラミアの勝ちと出た。

ゴンドールの執政としての外交(別名、にゃんこ外交)に出かけるファラミアにマスクと眼鏡はない。

灰色の魔法使いの秘薬は、にゃんこのくしゃみと目のかゆみを押さえた。

……しかし、この薬、いつまで利くかはわからない。なんといっても、現在臨床実験中の秘薬なのだ。ファラミアは、危険な被験者第一号だ。

それでも、ファラミアの顔は明るかった。

ファラミアは、にゃんこ外交の必需品を確認していた。それは、何かといえば、子猫が手に持つのに、ちょうどいいサイズに作られた酒樽と、名産品の詰め合わせだ。つまり、とても小さいみやげ物だ。ゴンドールが特別けちなわけではない。中身は、ちょっぴりしか入っていないのだが、これを、にゃんこ達が差し出すと、非常に受けがいいのだ。まだ、貰ったことのない国など、それだけでも欲しいと、通販の申し込みすらするくらいだ。

王は、ボロミアにゃんこの手を握りながら、「気をつけていくのだぞ」と、何度も繰り返していた。山ほどの仕事を抱えているはずの王は、わざわざ城の中庭まで降りて、にゃんこの出立を見送っていた。

はっきり言ってうざい。

「ボロミア。向こうで上手いものを出されても、食べ過ぎないようにするんだぞ」

もう、この言葉は、10回目だった。しかも、王は、ボロミアに頬ずりまで始めた。

「ボロミア、お前は、腹が弱いのだから、食べ過ぎると、ほんとうに腹を壊すからな」

しかし、ボロミアは、髭面の王に頬ずりされながら嫌な顔もせず答えていた。

「王。私だって、そのくらのことは」

大人だ。

だが、ボロミアのしっぽがくねくねと動いていて、実は、にゃんこが王の頬ずりを嫌がっていることは、誰の目にも明らかだった。猫は、尻尾があるので、気持ちが隠せない。

ボロミアの内心を知って、エレスサールは、頬ずりを諦めた。

王は、じっとりと恨みがましい目をしてファラミアを睨む。

「……ファラミア、ボロミアが飲みすぎて、意識がなくなったところを連れ去られないよう、絶対に目を離すんじゃないぞ!」

これから、一週間兄と二人きりのファラミアは、機嫌よくにっこりと笑った。

「ええ。勿論。それでは行って参ります。王。我らが城を留守にします間、ご公務に精を出されますよう、お願いいたします」

ボロミアが元気よく笑う。

「アラゴルン、土産を貰ってきてやるから!っと、エレスサール!」

王の名を呼び間違え、照れるボロミアにゃんこに、王はハンカチをどうっと、濡らす。

「ボロミア〜〜!」

「行ってきますぞ!」

外交好きのボロミアにゃんこのしっぽは、嬉しげに揺れていた。

大好きな兄と一緒の旅に、勿論ファラミアにゃんこの尻尾も揺れる。

END

 

 

とらじゃさんの描くにゃんこのなんと愛らしいこと!

あまりのかわいらしさに、つい我を忘れ、とらじゃさんを拍手コメント攻めにいたしましたところ、

同じ、動物サイトである(どういう分類だ!笑)と、いう身近さから、

にゃんこ大使が我がサイトにやってきました!幸!

……そして、冬花、また、我を忘れて舞い上がってしまいました。

ゴンドールにゃんこ物語って何よ……。

イラスト見た瞬間から、勝手に設定作って、勝手にストーリ決めて、勝手に話を書きました。

とらじゃさん、ごめん…。でも、よかったら、この話貰ってって……。

とらじゃさんの素敵なサイトはこちらから→虎豆

(にゃんこ兄弟だけでなく、素敵なドロイド執事豆とか、その他、いろいろありますw)