ウルちゃん、主役になる。
ばたばたとせわしないストームと、ジーンの様子を、不思議に思いながらも、ウルヴァリンは、今日もマイペースだった。
すっかり寒くなった気温に、ウルヴァリンは、暖房器具の前から動かない。
「ウサギは、寒さに弱いって言ってたけど、ウルちゃんを見てると、すごく良くわかるわ・・・」
何度通りかかろうとも、暖房の前で、幸せそうなウルヴァリンを見つけ、ジーンは感心したようにつぶやいた。
手には、大きな紙袋を提げていた。
「もう少しすると、ベッドから出てこなくなるのかしら?冬眠もするの?コウサギちゃん」
ストームは、一人だけのんびりとしているウルヴァリンに、意地の悪い文句を言った。
ウルヴァリンは、顔を上げて、ストームを睨んだ。
「なによ」
ストームは、ウルヴァリンを見下ろした。
窓の外は、今年初めての雪がちらついていた。
この上、部屋の中でも、吹雪かれてはたまらないとばかりに、ウルヴァリンは、急いでストームの顔をから目をそらした。
コウサギは、いつもの威勢のよさもなく、暖房の前で、こんもりと丸くなっている。
ストームは、そんなウルヴァリンの姿にくすくすと笑いながら、ウルヴァリンの背中を撫でた。
「ウルちゃん、後で用事があるから、ここから、動かないでね」
ウルヴァリンは、いつもなら、考えられないくらいおとなしかった。
「・・・動かないからいい」
ストームは、ジーンに向かって肩をすくめた。
「ウルちゃん、あんまり暖房に近づくと近寄ると焦げるわよ」
「焦げてもいい・・・」
ジーンも、ストームに肩をすくめ、小さな笑いを浮かべた。
ウルヴァリンが、暖房の前で、転寝をしていると、ストームと、ジーンが迎えに来た。
「ウ〜ルちゃん。そろそろ、来てもらってもいいかしら?」
「寒いから、嫌だ」
「大丈夫。暖房は、ばっちりだから」
ウルヴァリンが止めるまもなく、コウサギのためだけに、付けられていた暖房は切られた。
コウサギは、しょぼんと肩を落とした。
「寒いぞ」
ウルヴァリンは、かちかちと歯を鳴らす。
「そんなに毛皮が生えてるのに?」
ストームは、ウルヴァリンを抱き上げた。
普段は、苦しさに離れようともがくウルヴァリンだったが、今日は、自分から、ストームの胸に擦り寄った。
ストームの胸の谷間にちゃっかりと収まる。
「こんな寒い日に、一体、何をするんだ?」
「今日は、クリスマスでしょ?ウルちゃんに、主役になってもらおうと思って」
「俺に、サンタクロースになれって言うのか?」
ウルヴァリンは、今日が、クリスマスだということに、初めて気付いた。
だからといって、別段、嬉しくもなかった。
未だ寒そうにして、セーターの中にまでもぐり込みそうな勢いのコウサギに、ジーンは、くすくすと笑った。
「主役、やってくれるかしら?」
ウルヴァリンは仕方がないとばかりに肩をすくめた。
「女は、そういうのが好きだな」
「これを考えたのは、プロフェッサーよ。それを忘れないでね」
ストームが、ウルヴァリンに注意を与えた。
「やめろ!嫌だって、言ってるだろう!!」
ウルヴァリンは、かんかんに怒っていた。
おかげで、寒さは、すっかり忘れ去ってしまった。
「似合う。ウルちゃん、すっごくかわいい!」
ジーンは、涙を流しながら、笑い転げた。
「主役よ。主役。クリスマスの主役なんだから、諦めなさい!」
ストームは、じたばたとあがくコウサギの背後に回って、ジッパーを引き上げた。
ウルヴァリンは、もみの木を模した洋服を着せられていた。
ご丁寧に、額には、星が付けられた。
「お前たち、俺のことを何だと思ってるんだ!」
「今夜の主役!」
二人は、声をそろえて、返した。
「皆が、ウルちゃんのことを注目するわよ」
「私、ウルちゃんの足元に、一番にプレゼントを置いちゃお」
ジーンは、うっとりとすっかり準備の出来たウルヴァリンを見つめた。
「かわいい・・・」
このまま、リボンまでかけそうなジーンに、ウルヴァリンは、冷たい汗をかきながら後ずさった。
しかし、後ろには、ストームが待ち受けていた。
「ほんっと。かわいいじゃない。周りに、プレゼントを積まれたら、ウルちゃん、見えなくなっちゃったりして」
「あ〜ん。想像しちゃう。かわいい!」
サンタガールのミニスカートで決めた二人は、異様な盛り上がりを見せていた。
もみの木になったウルヴァリンに、どう飾り付けするかで、激しく意見を交換した。
「俺は、嫌だって言ってるだろ!」
ウルヴァリンは、大声で怒鳴りながら、威嚇のために爪を出した。
しかし、ポーズが決まる前に、ストームとジーンが、口を開いた。
「もし、爪でばりばりしたら、おしおきするわよ」
「普段、お世話になってるプロフェッサーの楽しみを邪魔しちゃダメ!ウルちゃん」
ストームが、きついのは、いつも通りだった。
だが、ジーンが、異様に熱っぽい目でウルヴァリンを見つめた。
ねっとりとした視線が、ウルヴァリンの全身を拘束した。
恐かった。
少しでも洋服を引っかこうものなら、何をされるかわからないのは、ジーンのほうだと、ウルヴァリンは、思わずジーンから目をそらした。
「誰かに、持って帰られないように注意しなくちゃね」
サンタガールは、もみの木になったウルヴァリンを大事に抱っこすると、会場の扉をあけた。
ウルヴァリンは、屈辱で震えていた。
爪は伸びたままだった。
眉間には、深い皺が寄り、大きな黒目は、ジーンの迫力に負けた悔しさで、すっかり濡れそぼっていた。
だが、爪が、衣装を引っかくことはない。
ウルヴァリンは、ジーンに気迫負けしたのだ。
扉の向こうでは、大きな拍手が起こった。
クリスマス会場では、学園の皆が、今日の主役を待ち受けていた。
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