ウルちゃん、親交を深める。

 

ウルヴァリンは、ローグたちと一緒に、学園の庭に出ていた。

こういう時、勿論、パイロは、ウルヴァリンに近づこうとしない。

パイロは、ローグと一緒に庭の中を歩いていた。

ウルヴァリンは、平和な気持ちで、ベンチに腰を下ろすアイスマンの隣に座っていた。

実は、ウルヴァリンは、パイロにワインを飲ませてもらい、酔っ払った日以来、何度かパイロとの逢引を続けていた。

だが、口移しでしか、ワインを飲ませないパイロのことを、ウルヴァリンは困惑した気持ちでしか受け止めることができずにいた。

 

「・・・暑い・・・」

ウルヴァリンは、口を開いて、ぜいぜいと息をついた。

季節は最早初冬と言っても良かったが、今年の冬は、暖かい日が続いていた。

秋の間に何度か訪れた気温の低かった日のせいで、ウルヴァリンの毛皮は、もう冬毛の準備が万端に整っていた。

しかし、今日は、アイスマンがトレーナーの袖を捲り上げるような、そんな気温だったのだ。

「・・・暑い・・・いっそ、ストームにでも、丸刈りにでもしてもらうか・・・」

ベンチにぐったりともたれかかりながら、ウルヴァリンは泣き言を言った。

コウサギの耳は垂れてしまっていた。

「大丈夫ですか?ローガン」

アイスマンは、ウルヴァリンの鼻の上を撫でながら小さなコウサギを覗き込んだ。

「お前、手が冷たくていいな」

ウルヴァリンは、鼻の上を撫でるアイスマンの手が、思った以上に冷たくて、目をぱちぱちとさせた。

「背中も撫でましょうか?」

「・・・・触ってくれ」

コウサギは、アイスマンの手の下で、冷たい手が背中を撫でるのに、うっとりと目を閉じた。

アイスマンの手は、決して力をいれず、ウルヴァリンの毛皮を撫でていった。

人間の力は、時に、コウサギにとって強すぎることを知っているような動きに、ウルヴァリンは機嫌を良くした。

「お前、あんまり俺に触らないから、動物嫌いかと思ってたんだが、違うんだな」

最初から、アイスマンは、ウサギが一番弱い鼻の上を優しく撫でてきた。

あれは、知っていなければできることではない。

ウルヴァリンは、アイスマンの冷気にとろりとした目で笑った。

「動物?」

アイスマンは、ウルヴァリンに向かって苦笑した。

「ローガンさんを動物だと簡単に分類するのは、ちょっと抵抗がありますけど、でも、生き物は好きですよ。ただ、ローガン、皆に触られまくって、結構しんどかったりするでしょう?ローグもそうだけど、すぐ抱きたがるけど、本当は、苦しいことが多いんじゃないですか?」

コウサギは、口に出して同意することはなかった。

だが、否定もしなかった。

確かに、ウサギにとって人間の力は時に強すぎ、あまり構われると、それだけで、かなりな体力を消耗した。

「・・・実は、かなりの動物好きか?」

「実家で、昔、犬を飼ってました。それに、学校での係は、生き物係」

にやりと笑ったアイスマンに、ウルヴァリンは、目を細めた。

「もっと小さい頃に、散々ワンころを抱きこんで、嫌がられてきたってわけか?」

「ベッドに連れ込んで、踏んだ挙句、噛み付かれました」

笑うアイスマンに、ウルヴァリンは、耳をピクリと動かした。

「そこ、もうちょっと強く触ってくれ」

「ああ、この暖かさのせいで、冬毛がもう一度抜けるんですね」

アイスマンは、自分の手についたウルヴァリンの毛を、ふっと息を出して吹き飛ばした。

「そのせいで、ストームに、毛で洋服が汚れて仕方が無いって、嫌になるくらいブラッシングされてるんだ」

「なるほど、だから、俺たちについて、逃げ出してきたんだ」

辺りに冷気が広がった。

ウルヴァリンは、何故なのかと、ふと、顔を上げた。

アイスマンが、抜けたウルヴァリンの毛を吹き飛ばすため、息を吹き出すたび、空気が凍っているのだった。

ウルヴァリンは目を輝かせた。

「おい、それ、俺にしてくれ」

「え?」

「そのフーっての。俺に吹きかけてくれ」

コウサギは、アイスマンの膝によじ登り、仕切りと自分を指差した。

「髭が凍ると思うんだけど・・・」

「いいから!」

「じゃぁ、ちょっとだけ。ちゃんと目を閉じてください」

目を閉じて、神妙に待つコウサギに、アイスマンは、顔を近づけフーっと息を吹きかけた。

 

「何してるの?」

ローグが、突然、後ろから声をかけた。

驚いたアイスマンは、つい、息を大きく吐いてしまった。

コウサギの髭が本当に凍った。

慌てて、顔を振ったウルヴァリンは、瞼がくっついて離れないことに驚いた。

「・・・目が!・・・目が見えない!!」

普段から潤みがちなウルヴァリンの黒目は、その水分のせいで、凍ってしまった。

アイスマンは慌てて、手を伸ばし、コウサギの目を押さえた。

「ゆっくり、ローガン。無理に開けようとすると、怪我をするから」

アイスマンの手の上へとパイロが手を伸ばした。

「ボビー、手を離せ。お前の手の温度じゃ、なかなか氷が溶けない」

「大丈夫?ウルちゃん」

ローグもウルヴァリンへと手を伸ばした。

しかし、パイロは、普段、アレほど格好を付けていたにもかかわらず、ローグの手より先に、毛皮も凍っているコウサギを自分の胸の中に抱き込んだ。

「・・・ボビーなんか、相手にしてるからだ」

ぼそりと、小さな声で文句を言ったパイロは、あたたかな手で、ウルヴァリンの体を擦り続けた。

その動きは、懸命で、熱心で、寒さに震えるコウサギにとって、感謝するのに十分だった。

だが、コウサギは、氷がすっかり溶けてしまうと、小さく爪を出した。

パイロの触り方は、やはり、いただけないものがあった。

なにか、嫌な感じをウルヴァリンの本能が訴えかけるのだ。

ウルヴァリンは、一応感謝の念をこめ、パイロの手を小さくひっかく程度に留め、ベンチへと、とんっと、飛び降りた。

パイロは、小さく舌打ちしただけで、級友の手前、それ以上、ウルヴァリンを追いかけはしなかった。

そして、それを知っている懲りないコウサギは、パイロの目の前で、もう一度、アイスマンの特殊能力を使ったクーラーの使用を堂々と希望した。

 

 

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