ウルちゃんのシンデレラ。(バレンタインバージョン)

 

「なになに?2月14日、城においてバレンタイン舞踏会を催します。つきましては、そちらのお嬢様のお名前を確認したく・・・」

ウルヴァリンは、机の上に放り出してあった招待状を眺め、隣で、髪の手入れに余念のないローグに声をかけた。

「なぁ、バレンタインってなんだ?」

「う〜ん。チョコレートをあげる日かな?ああ、でも、ウルちゃんの場合、貰う日?」

ウルヴァリンは、首をかしげた。

「ここに、バレンタイン舞踏会って書いてあるんだが、じゃぁ、これはなんなんだ?あそこって、王子だけだよな。お城でチョコの回収ダンスパティーでもするのか?」

ウルヴァリンは、眉をひそめた。

コウサギの考えでは、それは、とても不毛な行事のような気がした。

少なくともウルヴァリンとしては、わざわざチョコをやるためになど、城に行く気にはなれない。

しかし、ローグは、大きく首を振った。

「バレンタイン舞踏会は、年に一回、王子様が、お后様を決めることの出来る大事な行事の日!女の子は、それに出かけて行って、自己アピールに努めるの。そこで、気に入られて、お后様に指名されたら、最高幸せ!って行事」

ローグは、頬をばら色に染めている。

「すごく素敵でしょ!ウルちゃん。その日だけは、チョコを渡せば、私だって王子様と踊ってもらえるのよ!」

コウサギは、ローグの勢いに押されてつい頷いた。

しかし、すぐさま、つまり王子とダンスをしようと思ったら、チョコを渡さなければならないというのが、けち臭いと、考えた。

余計なことだが、王子が貰ったチョコレートというのが、どうなるのかと思いをはせている。

「それがさ!聞いてよ!ウルちゃん!」

突然、ローグが、コウサギの手を握りしめ、強く訴えた。

よそ事に夢中だったコウサギは、ローグの迫力に完全に腰が引けてしまった。

「なんだ!?びっくりするだろう」

「お姉ちゃん達、私にはまだ早いって、その舞踏会の参加者リストから、私の名前、消しちゃったんだよ!」

ローグは、この家の3人娘の末っ子だった。

一番上が、ジーン。二番目が、ストーム。三番目がローグなのだが、ちなみに、ウルヴァリンは、末っ子のローグより自分の方が家族内順位が高いと思っている。

コウサギのくせに、ウルヴァリンは、ローグを自分より年下の兄弟だと思い、末娘であるローグの保護者のつもりだった。

だから、どうしてもローグに甘い。

「酷くない?私だって、舞踏会に行きたかったのに!」

「なんだ?ローグ、お前、わざわざ、チョコをプレゼントしに、行きたいのか?」

「行きたいよ!だって、あのお城、素敵な王子様が二人もいるんだよ!」

がくがくとコウサギの手を握ったまま揺さぶるローグに、ウルヴァリンは、脳震盪を起こしそうになりながらも、末っ子に提案した。

「じゃぁ、ここに名前を書けば・・・」

ウルヴァリンは、ローグの願いを叶えてやろうと、名前の確認欄に、ローグの名を記そうとした。

万年筆より丈のないコウサギなだけに、よろよろとよろけてしまい、上手く書けない。

それでも、ウルヴァリンは、頑張って、ローグの名を記すと、ついでに、末娘の保護者である自分の名前まで書きだした。

「ウルちゃん・・・」

ローグは、思わずウルヴァリンの名を呼んだ。

精一杯頑張って一仕事終えた、ウルヴァリンは、机の上でひっくり返った。

ちょうど通りかかったストームがその姿を笑った。

「何、遊んでるの、ウルちゃん?あら。舞踏会の招待状?」

机の上でへとへとだと言わんばかりに仰向けに転がるコウサギの足元を覗き込んで、ストームは、その魅力的な肉体美を見せ付けた。

「頑張ったのに、残念。ウルちゃん。これは、もう、提出済みなの。間違って届いた二通目なのよ。これ」

「また!お前は、そういう裸みたいな格好をして!」

飛び起きたウルヴァリンは、ストームを叱った。

ストームのドレスは、大きく胸が開き、長い足を過不足なく見せ付ける深いスリットが入っていた。

「いつも言っているだろう!お前のドレスは、色気が過剰だ!」

コウサギの説教に、ストームは、はいはいと。耳を塞いだ。

「いいじゃない。似合うんだから」

ストームは、悩殺的な衣装とは裏腹に、べえっと舌をウルヴァリンに見せた。

ウルヴァリンは、まだ、ストームを叱った。

「ストーム。お前は、俺の言うことなんて、うるさいって思ってるんだろうがな。そういうことばっかりしてると、ろくでもない男に引っかかるんだぞ」

「なに?ストーム。また、ウルちゃんのお説教?」

階段を下りてきたジーンは、赤い髪にあわせ、真っ赤なドレスだった。

燃え立つような赤は、そこに花が咲いたように、美しい。

ローグは、着飾った二人の姉に、唇を尖らせた。

「お姉ちゃんばっかり、ずるいよ!ねぇ、私も舞踏会に連れて行って!!」

「「ダメ!」」

二人の姉は声を揃えた。

ウルヴァリンは、ローグがかわいそうになり、抗議した。

「なんでダメなんだ。ローグは、行きたがってるんだぞ!それに、俺がローグの名前を書いたぞ。参加する権利があるだろう!」

「だから、ウルちゃん、それは、無効なの。せっかくウルちゃんが、頑張って名前?」

と、ウルヴァリンが芸術的に記した名前を除きこんだジーンは、ウルヴァリンの頭を撫でながら、続けた。

「名前を書いてくれたけど、もう、参加者の確認は、とっくに済んじゃってるのよ。確かにローグが舞踏会に行きたい気持ちはわかるんだけど、今日の舞踏会は、王子様のお嫁さん探しだから、間違ってローグが選ばれちゃったら大変でしょ?こんな若いのにお城にお嫁に行かなくちゃ行けないことになっちゃったらかわいそうだわ。ローグには、まだ、いろんな可能性があるんだし、そんなに急ぐことないと思うの」

優しく笑ったジーンに、ローグは、ばんっと机を叩いた。

「そんなこと言って、お姉ちゃんは、お城の舞踏会に行くくせに!ジーンお姉ちゃんは、サイクロップスって婚約者がいるでしょ!」

ローグは末っ子の甘えを存分に発揮した。

ストームが、ローグの髪をなでた。

「ローグ。王子様は、随分お若いって話しだし、どうせ今年は決まらないわ。私達も、義理で出席するだけよ。お城は、チョコで一杯だろうから、お土産に、素敵なのを頂いてきてあげる」

ストームの言葉に、ローグは、口を尖らせたまま、ソファーから立ち上がった。

階段を駆け上がり、自分の部屋のドアをバタンと大きな音を立てて閉めた。

ジーンと、ストームは末娘の甘えた態度に苦笑した。

「あ〜あ。拗ねちゃったわ。ウルちゃん。精々、あの子の機嫌をとっておいて。あの子が王子様に憧れる気持ちもわかるけど、あんなに若いうちから、一人に決めることないんだから」

ため息をつくストームは、机の上のコウサギが、決意で目を輝かせているのに、気付かなかった。

 

二人の姉が出かけた後、コウサギは、ローグの部屋のドアを叩いた。

「おい、ローグ」

「なによ。ウルちゃん。お腹がすいたんだったら、棚の中に、パンがあるから、勝手に食べてよ」

機嫌の悪いローグの返事はそっけない。

しかし、そんな末娘の甘えた態度に慣れているウルヴァリンは、もう一度ローグに声をかけた。

「なぁ、一緒に、お城の舞踏会に行こう」

「どうやって?」

ローグは、不機嫌ながらも、一人では扉を開けられないコウサギのために、ドアを開けた。

膨れ面のローグが見下ろした吹き抜けの階下は、色とりどりのドレスで埋まっていた。

「何!?何これ!?魔法?」

嬉しさのあまり、階段を2段飛ばしにして降りてきたローグに、優しそうなおじいさんが声をかけた。

「どれでも、好きなのを着てくれて構わないから」

ローグは、自分がシンデレラにでもなった気分だった。

だが、夢物語だけで、済ましておけないのが、現代っ子だ。

「あ・・の、どちら様で・・・」

「ああ、会うのは初めてだね。私は、この丘の上に住む、エグゼビアと言うものなんだが、ウルヴァリンと友達でね。ウルヴァリンが、どうしても君をお城の舞踏会に連れて行ってやりたいというから、急遽店から運ばせたんだ。若い娘さんの好みの合うかどうかわからないから、好きなのがあるといいんだが」

優しい目をして笑う老人は、遅れて階段を下りてきたウルヴァリンを車椅子の膝へと抱き上げた。

「違うぞ。俺は、ストームが言っていたお城のチョコレートが食べたいんだ。だから、お前もついでに連れてってやるんだ」

ウルヴァリンは、エグゼビアの膝の上で、ローグに嘯いた。

エグゼビアが苦笑した。

「ウルヴァリンは、照れ屋だね。ローグをお城の舞踏会に連れて行ってやりたいから、こうやって用意したんだって正直に言えばいいのに」

「黙ってろ。爺さん。爺さんは、の魔法使い役なんだから、黙って、ローグがきれいになるのを待ってろ。俺は、本当に、チョコレートが目的なんだ」

「ああ、そうかい。そうだね。ウルヴァリン」

エグゼビアのウルヴァリンを見る目がとても優しかった。

「ほらほら、お嬢さん、ウルヴァリンが待っている。急ぐといい。あまり時間がないよ」

「ありがとう。おじいさん」

ローグは、エグゼビアの頬にキスをした。

膝の上のコウサギにも唇を寄せる。

「ウルちゃんも、ありがとう」

ウルヴァリンは、しかし、それを避けた。

「ローグ、早く着替ろ。だだし、お前は子供なんだからな。ストームが着てたようなドレスはダメだ」

思春期のローグは、自分に色気がないといわれたようでカチンと来た。

「なによ。シンデレラの馬車なのに、ねずみがいないようね。私の馬車は、コウサギが、御者になってくれるのかしら?」

ローグとウルヴァリンの掛け合いは、エグゼビアをとても楽しそうに笑わせた。

 

エグゼビアの用意した馬車に揺られ、ローグと、ウルヴァリンは、お城についた。

ただし、ウルヴァリンは、ローグの保護者のつもりだから、一言言うのも忘れない。

「ジーンたちに見つかるといけないから、12時前には帰ること。それから、ダンスは許すが、やたら、隙を見せるなよ。お前は、まだ、子供なんだし」

「わかった。わかったから、ウルちゃん。早く行かないと、王子様とダンスできなくなっちゃう!」

通行手形代わりのチョコレートを手に、足踏みする勢いのローグは、ウルヴァリンに適当な返事をした。

「聞いてるか?ローグ。あまり浮かれすぎるんじゃないぞ」

「わかってるって!ウルちゃんこそ、チョコ食べすぎないでよ!」

返事もそこそこにローグは、ドレスを翻し、駆け出していった。

見送るウルヴァリンは、心配そうな顔だ。

「大丈夫か。あいつ・・・」

しかし、ウルヴァリンも、テーブルの上に山と積まれたチョコレートの匂いにふらふらと会場へと紛れ込んだ。

 

お后様を選ぶ権利を持つ王子様二人は、年上のお姉さま達に囲まれ、すこしばかりうんざりしていた。

お姉さま達の中には、なかなかイケてる方もいらっしゃるのだが、それは、たとえば、素敵な赤毛の姉と、すばらしくまっすぐな足をした妹の美人姉妹だとかなのだが、そういう方は、残念ながら、若輩者の王子には興味がないようだった。

アイスマンは、それでも、申し込まれるダンスには、気軽に応じていた。

だが、もう一人の王子であるパイロは、面倒くさそうな顔を隠しもしなかった。

「ジョン。すこしは、ボビーを見習ったらどうだ。今日は、年に一度のバレンタイン舞踏会なんだぞ。お前、この国の行く末を担う王子がそんな態度でいいと思っているのか?」

二人の王子の父親であるマグニートーは、すこしもプリンセス探しに努力を見せないパイロに顔を顰めた。

マグニートーは、自分が王妃に先立たれ、独り身であるため、王子二人には、ぜひ、早く身を固めて欲しかった。

なんと言っても、この国の王族には、バレンタイン日にしか、お后様を指名する権利がない。

「俺、まだ若いし、身を固める気なんてさらさらないもん。ああ、親父はすぐそうやって悲しそうな顔をする。いいよ。じゃぁ、俺の好きなチョコを間違えずに持ってきたら、絶対に結婚する」

これで結構親思いのパイロは、かなりいい加減なお后選びの提案をした。

「いや、そんな、しかし・・・」

困惑したマグニートーに、パイロは言った。

「いいじゃん。親父。バレンタインなんだ。俺にチョコをプレゼントしてくれたら、俺も、きっと好きになる。だけど、俺好みのチョコじゃなきゃ嫌だけどね」

パイロは、自分の好きなチョコが、会場中見渡す限り、どこにもないことをわかっていた。

勿論、王子であるパイロ好みのチョコレートが用意されていなかったというわけではなかった。

パイロ自身、一つ口にしようかと、探してみて、なかったことに驚いた。

どうもパイロとチョコの好みが同じ誰かが会場に紛れ込んでいるらしい。

それを利用して、パイロは、父親に夢だけでも見てもらおうと成功するはずのない方法を提案したのだった。

 

王子の提案に、パイロの好きなウィスキーボンボンを求め、会場の中を、着飾ったお嬢様たちが、駆けずり回り始めた。

それを尻目に、パイロは、もしかしたら、残っているかもしれない、王族席のチョコレートをチェックするために、一段高い席へと戻った。

さすがに、この席のチョコレートを強奪するような女性は滅多にいないだろうが、プリンセスの座が掛かっているだけに、強心臓が現れるかもしれなかった。

投げやりで、いい加減に見えるパイロだったが、実は、胸に情熱を秘めていた。

それは、本当に好きな人と一緒になりたいということだった。

そして、相手からも、愛されたい。

だから、パイロは、王子が好きな女性など願い下げだった。

もし、パイロが王子でなくとも、愛してくれるそんな人をパイロは探している。

 

パイロは、王族席に置かれたチョコの皿を覗いた。

そこで、パイロは、ウィスキーボンボンの代わりに、いい気分になっているコウサギを発見した。

コウサギは、耳も髭もぺたんと垂れチョコレートの包み紙のなかで、上機嫌に笑っていた。

「・・・ウサギ?」

「失礼な奴だな。ウルヴァリンだ」

ウルヴァリンは、パイロの言葉に一瞬むっとした。

だが、チョコの中に入っていたウィスキーですっかり酔っ払っているので、また、へらへらと笑い出した。

じっと見つめるパイロを見上げ、にこにこと機嫌のいいコウサギパイロに座れと促した。

「どうしたお前?一人なのか?寂しいのか?一緒にいてやろうか?」

この席が、王族席だと知らないコウサギは、パイロが女の子をダンスに誘えないかわいそうな少年だと理解した。

コウサギは、基本的に優しい。

おまけに今は、酔っ払って、更に気が大きくなっていた。

ウルヴァリンは、自分が持っていたウィスキーボンボンをパイロに差し出した。

「まぁ、元気を出せよ。最後の一個だけどな。分けてやる。うまいぞ。それ」

酔っ払って、気前のいいウルヴァリンは、パイロが大好きなウィスキーボンボンを差し出した。

パイロはチョコレートを受け取った。

「・・・かわいい」

パイロは、ぼそりとつぶやいた。

コウサギは、ふかふかの毛皮をして、真っ黒な艶々とした目を持っていた。

「なんだ?」

「すごくかわいいね。ウルヴィー」

パイロは、ぎゅっとコウサギを抱き上げた。

コウサギは、あまり抱かれるのが好きではなかったが、かわいそうな少年のために我慢した。

「ウルヴィー。俺が誰だか知ってる?」

「はぁ?」

コウサギは、真剣なパイロの目の色に気おされながらも、首をひねった。

だが、まだ、いい気分に酔っ払っていた。

髭をひくひくさせながら、パイロの目を大きな黒目で覗き込んだ。

パイロもじっとウルヴァリンを見つめた。

二人は、じっと見つめあった。

居心地が悪くなったのか、ウルヴァリンは、どうやら、隠し持っていたらしいウィスキーボンボンをパイロに向かって差し出した。

「・・・お前が誰かなんて、知るわけないだろう?なんだよ。もっとチョコが欲しいのか?仕方がないな。本当に、本当の最後の一個をお前にやるよ」

パイロは、それも受け取りながら、嬉しそうに笑った。

「やっぱり、知らないんだ。なのに、俺に優しくしてくれるの?」

「当たり前だろう?どうして、お前に冷たくしなくちゃいけないんだ?」

「・・・ウルヴィー・・・」

パイロは、ウルヴァリンが嫌がっているのにも構わず、頬ずりした。

「放せ。そういうのは、嫌だ」

もぞもぞと動くコウサギに、パイロはますます目を細めた。

「うん。うん。ウルヴィー!」

パイロの目が、ウルヴァリンに愛しいと言っていた。

ウルヴァリンは、とてもいやそうな顔をしていた。

ウルヴァリンの足が、パイロの頬を蹴っていた。

「・・・こういうのを待ってたんだ。一目ぼれって、本当にあるんだ」

語尾にハートマークでも飛びそうなパイロは、コウサギを、高々とマグニートーに向かって示した。

「お父さん。俺の結婚相手が決まりました。このウサギです。ウルヴァリンと言うそうです!」

あまりのことにびっくりしたウルヴァリンは、何が起こったのかと、思わずパイロを見下ろした。

宣言されたマグニートーも目を見開いて、自分の息子を見つめた。

「このウサギは、俺の大好きなチョコをプレゼントしてくれました。第一王子、パイロはここに宣言します。このウルヴァリンと結婚します!」

パイロは、衆人環視のなかで、抱き寄せたウルヴァリンにチュウウウっと、キスをした。

あまりの驚きに固まっていたウルヴァリンは、必死になってパイロの手を逃れた。

「あっ!待って!!」

追いかけるパイロと、逃げるコウサギ。

ウルヴァリンは、本気になってパイロから逃げ、ダンスが行われている会場内を走り回った。

「待って!俺のウルヴィー!!」

「ちょっと!ウルちゃん!?」

ジーンやストームにも見つかり、ウルヴァリンは、家にいればよかったと真剣に考えながら、逃げ惑った。

途中、ちょうどアイスマンとダンス中のローグとすれ違う。

二人はいいムードだった。

だが、ウルヴァリンは、ローグに大声で怒鳴った。

「おい!逃げるぞ!!」

ローグは、コウサギの背後からこちらを見ている姉二人に気付いた。

見つかったら、どうお仕置きされるかわからない。

ローグは、王子を置いてウルヴァリンと駆け出した。

「なにやってるのよ。ウルちゃん!せっかく王子と踊ってたのに!」

「知るかよ。俺のせいじゃない!」

「うわっ!臭い!ウルちゃん、お酒飲んでるでしょ!」

ローグは、お城の大階段を駆け下りながら、ウルヴァリンに文句を言った。

ウルヴァリンも必死になって駆けながら、文句を言い返す。

「知るか!チョコレートを食べただけだ!」

「もう!せっかくチャンスだったのに、ウルちゃんの方が、よっぽど隙だらけ!」

喧嘩しながら階段を駆け下りていく二人を追う王子も二人いた。

「待ってくれ。せめて名前だけでも!」

これは、ローグを追うアイスマンの声だ。

「絶対に大事にする!絶対に大事にするから!待って!ウルヴィー!」

こっちは、コウサギを追いかけるパイロの声。

アイスマンとのダンスに夢中で、ウルヴァリンを取り巻く事情に気付いていなかったローグは思わず眉をひそめた。

「ちょっと、ウルちゃん。なんで、ジョン王子がウルちゃんのこと追いかけてるのよ!」

「知るかよ。あいつ変なんだ。絶対にどっかおかしいんだよ!」

もみ合う二人は、階段を落ちかけ、ローグのガラスの靴が片足脱げた。

「あっ!」

どれだけ喧嘩しようが、ローグは、ウルヴァリンにとって大事な妹だ。

ウルヴァリンは、ローグの靴を拾ってやろうとした。

しかし、勢い余ったウルヴァリンは、ガラスの靴に嵌ってしまった。

「げっ!!」

ズポッ!!と、音がするほどの勢いで嵌りこんだウルヴァリンは、下半身が、つま先部分にはまり込み、全く身動きできなくなった。

「ちょっと!ウルちゃん!!」

悲鳴を上げて階段を駆け上がったローグより早く、アイスマンがガラスの靴を拾った。

「これは、君の大事な・・・コウサギ?」

アイスマンは、何故、ガラスの靴に、コウサギが嵌っているのかわからず、困ったような顔でローグに聞いた。

ローグは恥ずかしそうに顔を染めた。

「・・・ええ、そう。とっても大事な、コウサギで・・・」

そこにパイロが追いついた。

「おい!ボビー。そのウサギは、俺の婚約者だ。返せ!」

肩で息をするパイロは、アイスマンの手からガラスの靴を奪おうとした。

ウルヴァリンは、慌てた。

「ローグ!嫌だ!!あいつに捕まるのだけは、嫌だ!頼む。早く俺を助けろ!!」

あまりにウルヴァリンが真剣なので、ローグは、コウサギの耳を力任せに握り靴ごとアイスマンの手から取り戻そうとした。

「あっ、待って。かわいい人」

アイスマンも、ローグに逃げられまいと、強く靴を握った。

靴に嵌っているコウサギは、両方から引っ張られて涙目で、爪を出して暴れた。

「痛て、痛て、痛て!!」

叫ぶコウサギの爪がアイスマンの手をかすった。

アイスマンは、コウサギの鋭い爪に一瞬力を抜き、その拍子に、叫び声と供に、すっぽりとコウサギは、ガラスの靴から抜け落ちた。

「痛て〜〜〜!!」

妙に体の丈夫なコウサギは、怪我一つなく、目を吊り上げていた。

コウサギは、ローグに耳をつかまれ、吊るされたまま、二人の王子に舌を出した。

「パイロとか言う王子、お前は、変だ!絶対に変だ!俺は、お前となんか結婚しない!それに、お前、アイスマンだったか?お前なんかに、かわいいローグをやるもんか!」

ローグは、憧れのアイスマン王子に対し、傍若無人なウルヴァリンの態度が恥ずかしく、コウサギの耳を掴んだままで、階段を駆け下りていった。

 

後日、王子たちは、ローグの残していったガラスの靴を手に、城下の家を一軒一軒訪ね歩いていた。

娘の名がローグ。そしてコウサギの名がウルヴァリンということはわかっていたが、その名は、参加者の名簿には記されていなかった。

勿論、あの場にいた二人の姉も、自分の家の末娘とコウサギがしでかした不始末について口をつぐんでいた。

王子たちは、ガラスの靴を頼りに、各家々を訪ね歩くしかない。

 

アイスマンと、パイロは、とうとうローグの家にたどり着いた。

アイスマンが、ガラスの靴を手に、説明をする。

「この靴にぴったり合う足の少女を探しています」

真摯な顔をして膝を折るアイスマンの手から、パイロが靴をひったくった。

「この靴にひったりと嵌るコウサギを探しているんです」

パイロも膝を折り、困りが顔のジーンと、ストームを見上げた。

二人の姉は、勿論、靴を合わせようともしない。

「うちに、該当しそうなのがいるには、いるんだけど・・・・」

ジーンとストームの背後で争う音が聞こえた。

「出るな!ローグ!お前が出て行くと、俺が見つかる!」

「やめてよ。ボビー王子が訪ねてくださっているのよ。私は行くわ。ウルちゃん、私の幸せの邪魔をしないで!!」

もみ合う二人は、台所の鍋を落としたのか、酷い音を立てていた。

ジーンが肩をすくめた。

「うちの末娘。あんななのよ。お城に上がるには、まだ、幼いと思うわ」

「では。お姉さん、交際だけでも認めてくださいませんか?」

アイスマンは、余裕の笑みでジーンに笑いかけた。

隣のパイロは出てこないコウサギに、今にも台所に踏み込みそうに切羽詰った顔をしていた。

「お姉さん、台所に行っても構わないですか?ウルヴィー!ウルヴィーの好きなチョコを沢山城に用意した。大好きなんだ。俺、努力するから。ウルヴィーの嫌がることはしない。頼むよ。顔を見せてよ」

「・・・ねぇ、ジョン王子、それ、本気なの?」

ストームは呆れた顔で、膝を付いたままのパイロを見下ろした。

「本気です!あんな心優しくて、かわいい生き物は、他にいない」

じれったくなったのか、パイロは、とうとう台所に駆けていった。

逃げ惑うウルヴァリンがあっちにぶつかり、こっちにぶつかりして、大きな音を立てる。

「来るな!きやがったら、爪で引っかくぞ!」

ウルヴァリンは、短い爪を出して、パイロ王子を威嚇した。

爪を出した痛みに涙目のコウサギに向かって、パイロは、這い蹲わんばかりに、膝を折った。

「大好きなんだ。こんなに好きになったのは、初めてだ。絶対に一生大事にする。ウルヴィーのことをまず、第一に考える」

あまりに真剣な様子のパイロにびっくり顔のローグにアイスマンは笑いかけた。

「ジョンは、バレンタインに真実の名において、后を指名しちゃったからね。ウルヴァリンに、后になってもらえないと、第一王子である資格を失うんだ」

「だから、それは、いいんだって、何回も言ってるだろう。ボビー!ローグを后にして、王様にはお前がなれよ。俺は、ウルヴィーさえ居てくれれば、十分!」

「俺は、いやだ!パイロ。お前は、絶対に変だ!」

 

ウルヴァリンが、お城のお后さまになったのかどうかは、内緒です。

・・・でも、パイロが、とても素敵の王様になったことだけは、付け加えておきます。

 

ハッピーエンド?

 

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バレンタインに間に合わず、完敗!

17.2.15