ウルちゃん、リーダーになる。

 

ジーンが、用事で学園を二週間ほど空けることになった。

すると、当然のごとく、サイクロップスもジーンに同行しようとする。

その話を聞きつけたコウサギは、その日から、髭をぴくぴくさせ、鼻も蠢かしていた。

歩く姿も堂々と胸を張っている。

ついでに言えば、コウサギの耳は始終、ひくひく動いていた。

髭や、鼻がぴくぴくしているのは、押さえられない内心ゆえのことだったが、コウサギが胸を張り、耳を動かしているのには訳があった。

身体の小さいコウサギは、自分を精一杯アピールいたのだ。

サイクロップス不在の間のXメンのリーダーは俺以外にあり得ない!と。

しかし、残念なことに、コウサギの主張に気付いてくれるような人はここにはいない。

「邪魔よ。ウルちゃん、ちょろちょろしないで」

ストームは、ジーン不在の間の授業用のカリキュラムをもっともらしい顔をして覗き込むコウサギをもう何度もテーブルの端に避けている。

出発を明日に控えたジーンは、コーヒーカップを傾けながら、外部に出ているメンバーを思い起こしていた。

「学園の警備が手薄になっちゃうし、やっぱり、応援を頼んだほうがいいかしら。スコット」

自薦でなく、他薦により、仕方なく、リーダーを務めるのが格好いいと思っているコウサギは、今こそ出番だと、自分の意見を口にするため一直線にストームが広げる資料の上を横切り、ジーンの側へと跳ねて行った。
勿論、耳はぴくぴくと動き続けている。

「俺の考えではな!」

かなり遅い時間であるこの打ち合わせに参加するコウサギは、張り切ってどうどうと押し出されている胸とは別に、目がくっつきそうになっていた。あまりに眠いため、実はいい意見も浮かんではいない。

結局、意見を思いつけず、眠い目を押し上げるために、コウサギは、打ち合わせ中のジーンに頼んでコウサギ用の小さなカップコーヒー注いで貰いをがぶ飲みした。

苦い。と、思い切り顔を顰めたコウサギは、ジーンにたっぷりの砂糖を要求する。

「大丈夫か? ウルヴァリン」

サイクロップスは、コウサギを心配し、だが、心を抉る一言を口にした。

「ウルヴァリン。もう時間も遅いし、お前は関係ないんだし、別に寝てもいいんだぞ?」

 

打ち合わせを邪魔しすぎだと、とうとうストームに放り出され、がっくりと肩を落としたコウサギが部屋へと引き上げていくのを後ろから呼び止める者がいた。

「ウルヴァリン」

プロフェッサーだ。怖がりなコウサギがサイクロップスに命じて全て付けさせた煌々とライトの光る廊下を車椅子で近づく教授は、振り返ったウルヴァリンの顔を見て、笑みを深めた。

誰もウルヴァリンをリーダーに。とは、発言してくれなかったため、コウサギは、拗ねたように口を尖らしていたのだ。耳も垂れてしまっている。

しかし、自分のそんな姿に気付いていないコウサギは、自分から教授に駆け寄り注意を与えた。

「プロフェッサー。あんたが、こんな夜遅くに、うろつきまわるのは感心しない」

しょんぼりとした様子を隠しきれていないが、コウサギは相変わらず、微笑ましくも頼もしかった。

小さな、ふかふかの生き物に注意を受けながらも、教授は柔和に笑う。

「ああ、もう寝るよ。ウルヴァリン。ただ、ちょっと、君にお願いしておかなければならないことを忘れてしまっていてね」

プロフェッサーは、ウルヴァリンを床から救い上げ、垂れてしまっているコウサギの耳に耳打ちする。

「実は、ウルヴァリン。スコットが不在の間、Xメンのリーダーを務めてもらえないかと思っていてね」

「……何をいきなり」

思いもかけず、望み続けた言葉を掛けられたコウサギの目は見開かれ、鼻と髭は嬉しそうにひくひくと動き、表情だって嬉しさを隠しきれていなかった。

だが、コウサギのセルフイメージは、自分はあくまでクールだ。

「悪いが、俺はリーダーになんか向かない」

うそぶくコウサギは、実はもじもじしている。

「いや、そんなことはない。ウルヴァリン。みんな君のことが大好きだし、君はとても責任感が強いから、リーダーに適任だよ」

「だが……」

感激に目を潤ませているコウサギの心が完全に決まっているのはわかってしまうのだが、勿論、プロフェッサーそんな無粋な真似はしない。

言葉だけはそっけないウルヴァリンにあくまで丁寧にお願いをする。

「ウルヴァリン、責任ある仕事は大変だろうが、どうか、私に力を貸して欲しい」

「俺には無理だ」

めんどくさそうに装ってはいるが、教授にも伝わるほど、小さなコウサギの胸は、期待でドキドキと音を立てている。

「いや、決してそんなことはないよ。ウルヴァリン」

「……本当か?」

そろそろ承諾しなくては、リーダーの仕事をもらえなくなるかもしれないと内心心配中のコウサギは、髭をひくひくとさせながらも渋い顔を作って、プロフェッサーを見上げる。
無理やり承諾させられたということにしたいのだとしたら、タイミングとしては早過ぎの感が否めない。

「それほど、プロフェッサーが言うなら……」

 

翌日のコウサギは、ジーンが作ってくれたたすきを掛けていた。

たすきには「リーダー」と書かれている。

プロフェッサーに承諾した後のコウサギが、跳んで帰って準備に忙しいジーンに作らせたのだ。

コウサギは、自分はサイズが小さいから、皆にわかりやすいようにするためだと、ジーンには説明した。

違う。嬉しかったのだ。

コウサギは、無駄に張り切りまくっている。

「ストーム。ストーム。スコット不在の間のリーダーは俺が務めることになった。何でも相談してくれ」

晴れ晴れとした顔のコウサギは、忙しいストームの足元をちょろちょろとしながら、格好をつけて、シャキーンと爪を出した。

勿論、痛くて、コウサギは目を潤ませている。

だが、今日から2週間、リーダーであるコウサギはやせ我慢でそのポーズをキープだ。

「はいはい。ウルちゃん。そうね、じゃぁ、私、ジーンの分まで授業を受け持たなくちゃならないから、申し訳ないんだけど、連絡用の無線の前で待機しててくれるかしら」

そういうのを態のいいやっかいばらいと言う。

しかし、メンバーに頼られてしまったコウサギは、内心の嬉しさを押し隠しながら、仕方がない。と、深く一つ頷いて、とても軽い足取りで、無線機のところへと駆けていく。

「プロフェッサー、もし、マグニートーが何か仕掛けてきたらどうするつもりなの?」

あまりにコウサギに甘い教授をストームは色っぽい目で睨んでいる。

「なに、ウルヴァリンは、リーダーに適任だよ」

「知りませんからね」

 

夜更かしが祟ったコウサギは、リーダーのたすきをかけたまま、無線機の前で、居眠りをしていた。

いや、大の字になって豪快に眠っていた。
コウサギは、いびきまでかいている。

「ウルヴァリン。定時連絡だ。こちらは、問題ない」

「こちらは、もっと問題ないぞ! なんたって、俺がリーダーだからな!」

はっと起きたウルヴァリンは、何もなかったかのように胸を張った。

またシャキーンと爪を出し、必要のないポーズを決めたコウサギの目には、じんわり涙が盛り上がっている。

 

 

END

 

Xメン3の公開が楽しみでしょうがないですw

ウルちゃん、リーダーなんですって?(笑)とにかく、すっごく楽しみですw