ウルちゃん、おせんべを頂く。
学園の中では、授業が行われて入れている時間、ウルヴァリンは、中庭で、昼寝をしていた。
ストームや、ジーンの声をBGMにしながら、コウサギは、幸せな夢見心地だ。
全身弛緩の状態で、庭に転がっていたウルヴァリンは、近づいてくるタイヤの音に、眠りながらも耳をぴくぴくと動かした。
車椅子が、窓際で止まる。
「ウルヴァリン。面白いものを貰ったから、ちょっと私の部屋に来ないかね?」
出かけていたはずの、プロフェッサーが、ウルヴァリンに声をかけた。
ウルヴァリンは、まるで、ずっと起きていたかのように、周りを警戒するそぶりで、地面から顔を上げた。
「プロフェッサー、危険だから、あんたは、窓際に近づかない方がいい」
「ああ、気をつけるよ。ウルヴァリン。ところで、どうだね。もし、時間があったら、私の部屋に来ないかね?」
授業に出るわけでも、授業をするわけでもないコウサギにとって、時間は有り余るほどあった。
ウルヴァリンは、車椅子の後ろをピョンピョン付いていった。
プロフェッサーの念動力により、机の上へと持ち上げられたコウサギは、箱の中に顔を突っ込んだ。
箱の中には、ウルヴァリンがみたことのないものが詰まっていた。
「これは、なんだ?」
コウサギは、鼻をひくひくとさせながら茶色をした平たい物体をかぎまわった。
「せんべいと、言うらしい。久しぶりに会った日本の友達が土産にくれたんだよ」
プロフェッサーは、箱の中から一つ取り出し、封を切った。
しょうゆの香ばしい匂いが、辺りに広がった。
ウルヴァリンは、しきりに鼻を動かした。
ひらひらとせんべいを振るプロフェッサーに、ふらふらと近づいた。
「ウルちゃん、待ちなさい。どうせそんなに大きいのは食べられないんだから、私と半分こにしときなさい」
ウルヴァリンが、車椅子の後ろを付いて歩いている間に、ちょうど授業を終えて教室を出たストームも、プロフェッサーに誘われていた。
ストームは、箱の中から、別の包みを取り出し、封を切った。
半分に割ろうとしたところで、コウサギは、強く首を振った。
「俺は、一枚食べる」
「無理無理、このお菓子、ウルちゃんの大きさとそんなにかわんないのよ?」
コウサギの目は、強く決意を示していた。
ストームは、もう一度、手の中にある菓子と、ウルヴァリンを見比べた。
やはり、せんべいの大きさは、コウサギと変わらない。
しかし、コウサギは、甘い顔をしてせんべいを一枚手渡そうとしているプロフェッサーににじり寄っていた。
「俺は、お前みたいにダイエットしなくちゃいけないわけじゃないから、一枚食べるんだ」
憎らしい口を利くコウサギは、プロフェッサーから、まんまるいせんべいを一枚渡され、すっかり満足した顔をしていた。
ウルヴァリンは、大きくても持ちにくいせんべいを両手で支え、仁王立ちになった。
やはり、せんべいの大きさは、コウサギと変わりなく、ストームから見えるウルヴァリンは、耳のさきっぽと、ほんの少しの足だけだった。
それでも、食い意地の張ったコウサギは、苦労してせんべいを持ち替え、自分の口に近づけると、小さな口を大きく開いた。
「硬いそうだから、気をつけるんだよ」
プロフェッサーが声をかける間もなく、コウサギの歯は、せんべいを噛んだ。
コウサギの前歯は、力強くぱりんといい音をさせた。
あまりに大きな音がしたせいなのか、びっくりしたコウサギは、耳をぴんっとたて、硬直したように固まってしまった。
アダマンチウムの爪が中途半端に伸びていた。
動かないコウサギを心配したストームが、ウルヴァリンが握りしめているせんべいをそっとどかして、顔を見ると、コウサギの目には涙が浮かんでいた。
「・・・大丈夫?ウルちゃん・・・」
少々、呆れ気味に、ストームが声をかけると、ウルヴァリンは、せんべいを投げ出した。
「これは、悪魔の食べ物だ!こんな大きな音がするなんて、絶対におかしい!」
ウルヴァリンは、伸びかけの爪のまま、ひっかきのポーズを決めた。
ストームは、怒鳴るウルヴァリンの口の中に、小さく割ったせんべいを放り込んだ。
目を白黒させながらも、コウサギは、詰め込まれたものは、礼儀正しく噛み砕いて飲み込む。
「・・・・うまい」
コウサギは、自分が投げ出したせんべいを取り戻すために、机の上をピョンピョン駆けた。
「うまい、うまいぞ。プロフェッサー。お前の友人は素敵な土産をくれた。だが・・・」
コウサギは、投げたせんべいを掴みなおした
「こんなに美味いなんて、やはり悪魔の食べ物なんだ。ここは、一番頼りになる俺がちゃんと食べて片付けてやらなくてはいけないだろう。ストーム。悪いが、小さくしてくれ」
せんべいが割れる音が恐いコウサギは、偉そうに胸を張ってストームにせんべいを差し出した。
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